Off The Shelf Pavillion

2024

構造設計事務所 Webb Yatesとの協働により制作された《Off the Shelf Pavilion》は、デザイナー本人にとって初の大規模インスタレーション作品です。

本作は、幼少期に両親が自ら設計・建築した日本の田舎の実家に着想を得ました。伝統的な日本家屋とヨーロッパの木造建築の要素が融合したその住まいは、自然との共生を大切にする暮らしの記憶に満ちており、パビリオンの構造や素材、装飾にその精神が色濃く反映されています。

作品の構造は、スケールアップした棚状のフレームに屋根をのせた形状で、神社の鳥居を彷彿とさせるシンプルな格子構造が特徴的です。屋根の梁からは、赤白の紐で吊るされた金の風鈴が並び、アジアの祝祭を象徴する色彩と音で空間に祝福の雰囲気を添えています。木材の端面には金箔や彩色が施されており、20世紀オーストリアの美術運動(通称ヴィエナ・セセッション、Vienna Secession)の影響を感じさせる細部が随所に見られます。

棚の構造を支えるのは、ポートランド・ストーンを「止め石」の技法で縛り付けたもので、重しとしての役割だけでなく、展示物としても美しく機能しています。屋根は雨水を集めて石に流す設計で、水音が空間に響きわたり、風鈴は風に揺れて音色を奏でるなど、光・風・雨といった自然の要素が作品に生命感を与えています。

また、使用されたすべての素材は既製品(off the shelf)で、楔やロープを用いた接合により解体・再利用が容易な構造となっています。これは多くの仮設建築が廃棄される現状に対する持続可能なアプローチであり、家具づくりの精神を大切にする作家の意図が反映されています。

写真:Christian Cassiel

リオ コバヤシ(デザイナー・作家)

リオ コバヤシ(デザイナー・作家)

イギリスを拠点に活動するデザイナー兼作家。陶芸家と修復家の両親のもと、日本とヨーロッパの文化が入り混じる家庭に育ち、コンセプチュアルな探究心とクラフトマンシップへの深いこだわりを融合させた作品を手がけている。栃木県で生まれ、幼少期に初めて家具を制作。18歳でオーストリアに渡り、3年間の家具職人修行を通じて、多文化的な視点と確かな技術を培った。

その後、ベルリン、ミラノ、東京、パリなどでのコラボレーションを重ね、2017年にイースト・ロンドンに自身の工房を設立。素材、物語性、フォルムの対話を軸に制作を続けている。これまでにロンドン・デザイン・フェスティバル、ミラノ・デザインウィーク、デザイン・マイアミをはじめ、さまざまなギャラリーで作品を発表。『フィナンシャル・タイムズ』『ウォールペーパー』『ワールド・オブ・インテリア』『フォーブス』などのメディアにも取り上げられている。

http://riokobayashi.com/

2025/5/30 12:00