世界最大規模の家具・デザインの祭典「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」が、2026年4月21日から4月26日まで開催された。
会場では32カ国から1,900ブランドの出展(700人のサローネサテリテ参加デザイナー人数を含む)があり、31万6,342人が来場。最新の家具やインテリア、照明、テキスタイルなど多岐にわたる分野の最先端トレンドが一堂に会した。
本記事では、ロー・フィエラ本会場の出展者と、若手の登竜門であるサローネサテリテの出展者の中から抜粋して紹介する。
ミラノサローネ
リッツウェル
ロー・フィエラ本会場への出展が16回目となる「リッツウェル」で目を引いたのは、新たなマテリアルコレクション「ORIGINAL STONE」の展開だ。これまで木材を中心に、ファブリックや金属、手仕上げによる革の組み合わせにより生み出してきた世界観に、初めて石が加わった。コレクションには、天然大理石、天然御影石、人造大理石(クオーツエンジニアドストーン)の3種類、全9タイプの石材がラインナップし、自然が育む唯一無二の表情と人工素材の優れた均質性や機能性によって、リッツウェルの家具に新鮮な存在感をもたらしていた。

住空間を再現した展示ブース。中央に新作の「GT TABLE | Living table」(Photo:Marco Reggi)
その魅力をいち早く伝えていたのが、今回初披露された新作「GT TABLE」だろう。同社代表でデザイナーの宮本晋作さんが手がけたデザインは、天板に石を用いることを前提に設計されている。“リッツウェルらしさ”に石が入り込む余地を探りながら挑戦したという。石の天板を支える二重構造の金属製の脚には一部に厚革があしらわれ、職人の手技によるステッチを表情豊かなアクセントにしながら、静けさと緊張をあわせもつ佇まいを印象づけている。

「GT TABLE」天板 ZIMBABWE TWO-TONE(Photo:Marco Reggi)

会場では職人によるデモンストレーションが行われ、金属製の脚に厚革を縫い合わせる様子も見られた(Photo:Marta Meoni)
異素材が響き合いながら空間に静かな動きを与え、石の重さと繊細な構造体による軽やかさがひとつになったような心地よい美しさは、今回の発表に際してリッツウェルが掲げた「ゆらぎの均衡」というコンセプトにも表われている。静けさと緊張、重さと軽やかさなどの相反する要素が対立することなく調和するデザインによって、使う人の心にも快適な穏やかさがもたらされる。
もうひとつの新作「VESPER armchair」もまた、ゆるやかな曲線が特徴的なバックレストを細くて丸い支柱が絶妙なバランスで支え、からだを優しく受け止める座り心地を実現していた。

新作の「VESPER armchair」。ブースのファサードにはショーウインドウのような空間が設けられ、デザインのインパクトを伝えていた(Photo:Marco Reggi)
ミラノサローネのなかでも、リッツウェルは “常連ブランド”としてのポジションを確立しつつある。ひしめく家具メーカーに流されず、独自の価値観を貫き、挑戦を続ける姿勢に国内外からの注目度が増すばかりだ。
カリモク家具
カリモク家具は、ブランドのデザインディレクターを務めるノーム・アーキテクツによるディレクションで5度目の出展となる「Karimoku Case」を披露した。コンセプトは、「A Thoughtful Stay」。ブース全体を居心地の良いホテルという設定で、細やかな配慮の行き届いた滞在を体験できる空間を創出。今年1月に発売したチェアやデスクをはじめ、ノーム・アーキテクツ、芦沢啓治、ノーマン・フォスターが手がけてきた代表的なプロダクトを用いて表現したのは、日本発の新しいラグジュアリー観だったといえるだろう。

Photo:Karl Tranberg Knudsen

Photo:Karl Tranberg Knudsen
ブランド史上最大となる約250m2のブース面積を活用し、レセプションやラウンジ、スイートルームといったテーマごとにつくり込んで家具をレイアウトするだけではなく、中田由美さんのスタイリングによって上質で静謐な美しさを感じさせた。
単なる展示というよりも、家具が寄り添うさまざまなシーンの提案であり、職人技によって生み出されるKarimoku Caseが築き上げてきた、手仕事への信頼と素材への誠実さが際立つインスタレーションだった。
イトーキ「NII」
イトーキが展開するオフィスファニチャーブランド「NII」は、ミラノサローネへ初出展。2025年にブランドを始動して以来、オフィスという場所の価値を問いながら可能性をひらいているNIIの思想とともに、多様なシーンに馴染む新コレクション3製品を初披露。“働く人を主役にする”チェアが、世界最大級規模の家具見本市でどのように受け止められるのか。3組による最新のデザイン設計に、その反響への期待が高まった。

Photo:神宮巨樹(OOKI JINGU)
インダストリアル・ファシリティが手がけた「HAKUSAN」は、1枚の合板シェルを支えるアルミダイキャストとスチールのフレームが軽やかさと構造の強さが特徴的だ。持ち上げてみると、実際の重量よりも軽やかに感じられ、前後に移動させる最小限の動きだけでスタッキングできる機能性にもスマートさが表われている。

HAKUSAN(Photo:神宮巨樹/OOKI JINGU)
一方で、イトーキのプロダクトデザイナーの和田光平さんによる「BIWA」はゆったりとした有機的な丸みが対照的なシェル形状をもつ。座面の高さ調整やロッキングといった必要最小限のワーキングチェアの機能を備えながらも、背面から肘掛け部分まで連続するラインはラウンジチェアのような落ち着きをみせる。

(左)BIWA(右)ALLROUND。それぞれ空間や建築に自然と馴染み、長く愛用したくなるプロダクトの誕生を予感させた
Photo:神宮巨樹(OOKI JINGU)
一見すると朗らかなバースツールに思える「ALLROUND」のなめらかな動きは、会場でも静かな驚きを呼んでいた。NIIクリエイティブディレクターを務める田幸宏崇さんのデザインで、「オールラウンドという名前は、すべてのエッジに施した大きな曲面(フルフィレット)と、多様なシーンで使える“オールラウンダー”としての道具、というダブルミーニング」。8個のキャスターを内蔵してあるとは想像できないベースと共通する大きな丸みのある面の形状、一本支柱による構造、金属素材、といった個性がそれぞれ主張しすぎることなく見事に融合している。
サローネサテリテ
ミラノサローネ見本市会場において、35歳以下の若手デザイナーによるプロトタイプ展示「SaloneSatellite(サローネサテリテ)」は今年で27回目。テーマは「Skilled Craftsmanship + Innovation(熟練のクラフツマンシップ+革新)」で、提示されたこの課題に対し、それぞれのプロジェクトを通じて明確な答えを生み出していた。22カ国から参加した35歳以下のデザイナー約700人が対象となる「サローネサテリテ・アワード」も開催された。
RUSSO BETAK
今回の「サローネサテリテ・アワード」第1位には、デンマークのスタジオ「RUSSO BETAK(ルッソ・ベタック)」が選出された。受賞作「Nippon(ニッポン)」は、バイオポリマーと貝殻をブレンドした素材で作られたペンダントランプ。3Dプリントで制作してから手作業で完成させるという、まるで紙のように薄く光を透過するシートを層状にして奥行きをもたせた照明だ。

photo:Jakob Storm

photo:Jakob Storm
「革新的な素材研究と、それを簡潔かつ光を内包するフォルムへと昇華する表現力」が評価された結果となった。和紙でつくられる日本の照明を想起させるだけでなく、そのまま“日本”と名づけた背景には、日本のデザインがもたらした影響力を再認識せずにはいられない。
yusan
2024年に田中美有さんが立ち上げた、使われなくなった人工林から生まれたカルチャーブランド「yusan(ゆさん)」。徳島県に所有する山林を次世代へ残すための取り組みから、「yusan stool」を製品化した。デザイナーの岩元航大さんとともに開発した、切り株のようなスツールだ。

写真提供:yusan

写真提供:yusan
円柱状に薄く加工した成形合板による胴体部分は杉の単板を貼って仕上げ、座面は同じく杉の丸太を輪切り加工した突板を使用していることにより、驚くほど薄くて軽い。中心から広がる年輪がそのまま意匠として残されているところにも、自然に生えている1本の木の個性に目を向けてほしいというメッセージを強く感じた。
阿部憲嗣
プロダクトデザイナーの阿部憲嗣さんは3つの新作を発表。特に2つの照明が印象に残った。まず、ラテン語で“開く”を意味する「APERIRE(アペリーレ)」は、廃材となったアルミ缶を溶かして素材にした照明で、完全に取り除かないでおいた不純物をそのまま鋳造することで生まれる気泡やヨレなどを表面のテクスチャーとしている。幾何学形状から導き出された隙のない造形と、偶発的な痕跡が相まって、内側で反射する光に表情を与えていた。

写真提供:阿部憲嗣

写真提供:阿部憲嗣
もうひとつの新作照明「LACUNA(ラクーナ)」は、“空洞”という意味のとおり、蜂の巣や珊瑚といった自然界の多孔的な構造に着想を得たという。錆びて風化したような表面処理が空洞を引き立て、大きな開口部から放たれる光を特別なものに感じさせる。こうしたデザインの軸となる造形や素材の扱い方が、阿部さんの個性そのものだ。
北原皆
真っ白なブースに大きく枝を広げるようにそびえる白いオブジェ。北原皆さんの「BRANCH」は、フィボナッチ数列を元に構成されている。“直前の二数の和として次項が生成される増殖の法則”を可視化し、1本の親枝が分岐を継続する各段階でさらに枝分かれする状態を構成してみせた。中央に吊り下げられた素朴な電球が照らす細い枝の影まで含めて、ひとつの優れた空間演出だと呼べるのではないだろうか。

Photo:Nacása & Partners Inc.
北原さんは実は、トネリコに所属するインテリアデザイナーだ。2005年のサローネサテリテで高評価を得たトネリコの作品「MEMENTO」が思い出されるのは、当然のことともいえる。日常的な空間設計で求められる合理性を再考しながら、これからさらに北原さんらしいデザインアプローチを展開してくれると期待したい。

Photo:Nacása & Partners Inc.
このレポートでは触れられなかったが、今年のミラノサローネでも見応えのある展示空間と新デザインの発表で評判となった大型家具ブランドは、ほかにも当然たくさんある。また、ミラノサローネが主導する新企画「サローネ・ラリタス」の登場は、とりわけ多くの話題を集めていた。
これまでの商談型見本市としてはカバーしていなかった、デザインギャラリーが取り扱うリミテッドコレクションとどのように共存していくのか。その展開にも注視しつつ、市内で同時開催されるミラノデザインウィークとの緩やかな連帯はすでに始まっているように感じられる。
取材・文:高橋美礼 編集:石田織座(JDN)




