「vision」
この建築が建つ神奈川県大磯の住宅地の近くには、線路や発電所、公園や戸建て住宅があり、目の前には広い畑が広がっている。こうして見てみるとどれも機能や用途、大きさや素材は違うが、それぞれ独特のリズムとプロポーションがあり、それぞれに想起されるイメージを持っている。この三者は密接に関わっていて、人はリズムやプロポーションから、心地よい、美しい、恐ろしい、気持ち悪いといった印象を感覚的に受け取っている。
FLASHにはすべてを一貫する強いコンセプトというものはない。与件をまとめあげて昇華させるコンセプトを用いるのではなく、それぞれその時その場での“見え方”によって決定を下している。結果として外見は中身から想像できる佇まいとは乖離し、構造材もあらゆるところで隠蔽されて判然としない。装飾的な設えも散見されながらそれが必要不可欠なものかも判断できない。
唯一あるルールは、455mmのグリッドがxyz方向全面に敷かれていることであり、それによりすべての配置が決められている。そのグリッドも楽譜の五線譜やキャンバスの縦横比といった、それがあるからリズムやプロポーションが決められる、といった類の尺度的な下地にすぎない。図面で寸法を与えるより前に、比率として綺麗な数字を使いたいという思いからグリッドを利用している。例えば音楽の基礎を成す12音階にある比率(1:1、1:1.333、1:1.5、1:1.2、1:3、1:4 etc…)は、ピタゴラスが宇宙と数学と音楽の中に見つけた比率であり、人間の感覚に与えるある普遍的な指標を有しているとも言える。ガイドとしてグリッドを敷くことはこういった比率を要素の配置決定に反映させることに寄与する。
この比例体系を、俯瞰した平面上のみで扱うのではなく視野を対象とする立面的にも扱うことで、構成される空間とそこに住まう人が視覚を介して関係性を結ぶことを目論んでいる。人間を内包する空間=目の前に現れる空間である建築をいかに人間の問題、存在の拠り所として引き寄せるかの手立てとして、リズムとプロポーションがあると考えている。
数はリズムを刻み、目の前に現れるイメージは揺らぐ。
写真:高野ユリカ
スケッチ:湯浅良介(11、12、13枚目)
映像:成定由香沙