強羅・風の音

2012 / エヌ・ティ・ティ健康保険組合

先人とコラボレーションするリニューアルデザイン

石川静がNTTファシリティーズ勤務時代に設計チーフとして担当したプロジェクト。水上と鬼怒川とあわせて3カ所同時にオープンしたが、強羅について紹介する。

かつて保養所として使っていた宿泊施設のリニューアルである。箱根は都心からのアクセスもよいので、都会に住むカップルをターゲットとした、重厚感のある意匠をコンセプトにしたホテルとした。箱根の伝統工芸である寄せ木細工をモチーフとした、格子や三次元パネルをインテリアに効果的に配置。ボルドーとダークブラウンをテーマカラーとし、落ち着いた空間を演出した。

ダイニングは大ぶりの照明を配置することで、天井の高さを効果的に活用した。既存の良さを生かしつつも、差し色を施したり家具を変えたり、布団張りをしただけの室もあるが印象はがらりと変わった。各室のサインは箱根の景色を撮影した写真と合わせたもので、アートの役割もしている。

内装に加えて、家具、照明、サインなどもすべてをデザインした。3施設同時オープンのため、150種類以上の家具と膨大な素材を同時に選ぶ過酷さだったが、我々のチームの情熱に施主が応えてくださり、最終的にはロゴデザインもメニューも制服も変わり、フルモデルチェンジとなった印象的なプロジェクトである。

実は建物の設計者は尊敬する故人だった。そのためか既存を生かすリニューアルデザインは、時間を超えた「先人とのコラボレーション」だと感じた。(石川静)

撮影:藤井浩司(Nacasa & Partners)

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

自然をフィールドに、建築と建築をめぐる領域をデザインするクリエイティブチーム。長年、別な道で建築を生業としてきた吉田周一郎と石川静が、2021年春にshushi architectsts(シュシ アーキテクツ)として合流。シュシには、「主旨(コンセプト)」がぎゅっと詰まった、「種子」のような建築をつくり、仲間とともに育て、世界中に花を咲かせたい、という思いが込められている。

吉田周一郎
徳島県生まれ、京都大学建築学科修了。鹿島建設建築設計部、RCRアーキテクツ(スペイン)を経て、2008年に吉田周一郎建築設計を設立。2016年にshushi architectsに改称。

石川静
東京都生まれ、東京都立大学建築工学科卒業。NTTファシリティーズ、三菱地所設計を経て、2021年にshushi architectsに合流。

https://shushi.tokyo/

2021/8/4 14:35