ちいさな建築とおおきな広場で構成する新しい公共建築
石川静が三菱地所設計勤務時代にチーフアーキテクトとして担当したプロジェクト(設計は「三菱地所設計ランドスケーププラス共同企業体」)で、池袋西口公園を劇場公園へとリニューアルする計画である。らせん状の「グローバルリング」を中心とした円形広場に、劇場とカフェを円弧に沿って配置とすることで、まちに広がりをもたらす視線の抜けと放射状の動線を確保した。
池袋に複数ある劇場と機能補完しながら相乗効果を促せるよう、これまでなかった「小規模な劇場」と「仮設の大ステージ」の組み合わせが可能な計画とした。劇場は、小さいながらも世界でもほとんど例のないクラシックコンサートを開催できる設えとした。
カフェも広場を客席にすることで、機能を絞った100m2に満たないコンパクトな計画とし、防火地域では珍しい木造の建物を実現した。カフェで珈琲を飲みながら、コンサートを眺めることもできる。
中央の噴水を止めるとフラットな広場になるため、ここが劇場の観客席となり、ステージを組む土台になる。広場をすべて観客席として使えば、1000人規模のイベントも開催可能だ。音響・照明・給排水のインフラが完備されているため、飲食フェスを開催することもできる。水景施設、リングの照明、デジタルサイネージは連動させることができ、演劇の演出はもちろん、デジタルアートのイベントも開催可能。
各建物のファサードデザインは隣接する池袋の名建築、東京芸術劇場とメトロポリタンプラザの幾何学性から着想を得た三角形をモチーフとしたファサードにして、街になじませた。広場のおかげで、コロナ禍でも換気抜群の中でソーシャルディスタンスをとって客席を並べてイベントを開催することができる。
これからの公共建築は、いわゆるハコモノではなくて、「機能をぎゅっと詰め込んだちいさな建築」と「おおきな広場」を組み合わせることで、イニシャルとランニングコストを抑えつつも、のびやかに活用できる「広場的な空間」に置き換わっていく予感がしている。(石川静)
撮影:藤井浩司(Nacasa & Partners)