神山のサウナ

2019 / 個人

人の手でサウナをつくり、森を回復する

徳島県神山町でカフェを営むオーナーと周囲の人たちの手仕事によってつくられた、森の中のサウナ小屋。日本各地に見られるように、神山町の森にもスギが大量に植林されたまま放置されている。落葉がなく光が差し込まない森には下草が生えにくく、土壌を含めた生物多様性が成立しづらい。光の射し込む多様な生態の森に回復するためには、針葉樹の間伐を進められるよう、森にもっと親しみを持ち、楽しめるきっかけづくりが大切である。そのための最初の試みとしてサウナ小屋をつくることにした。

計画にあたり、森とサウナが共存するバルト三国のサウナ文化の知見を深めようと現地に赴いて体験した。敷地には急峻な崖とそれを伝って流れる沢があり、沢の溜りはサウナで暖まった体を冷ますのにちょうどよい深さがあった。道路から沢に沿って100mほど山道を登った先のかろうじてサウナの床面積が確保できそうな平場を見つけ、セルフビルドで木造平屋を建てることにした。

サウナ室に設ける唯一の窓の位置を南斜面のスギ木立が見える風景から決め、その風景に対してベンチを平行に置き、最大8人が向かい合って腰掛けられる設定とした。中央には薪ストーブが置かれ、その上で熱されたサウナストーンに水を掛け、水蒸気と熱を室内に満たすようになっている(ロウリュ)。

サウナ室と更衣室はふたつのボリュームに分け、その間に軒下空間を設けた。雨宿りできる軒下はサウナ室へのアプローチになり、また、上流へ通り抜ける山道の一部にもなっている。敷地は資材を搬入する道路から離れており、電気・上下水道といったインフラもないため、基礎はコンクリート量を最小限にし、型枠の不要なブロックと組み合わせる工法とした。構造材や仕上げ材は人が 持ち運びできる大きさに分割して計画した。

また、その場所から取れるものを資材として最大限活用している。敷地を整地する時に出た岩を砕いて基礎の砕石とし、間伐したスギは薪割りをして乾燥させ、サウナストーブの熱源とした。サウナには電気も水道も引いておらず、薪ストーブがあるだけなので、自然光を頼りに夜はロウソクなどで明かりをとり、沢の水を使ってサウナストーンへロウリュをすることにしている。

間伐して空が明るくなった敷地には、鳥がやってくるようになったと聞く。計画当初、森全体を生活の場と見立てるイメージをオーナーと共有していた。サウナはその最初の拠点であり、時間をかけて森を回復しながら周辺環境を整えることを考えている。そして、あらゆる森にこのような試みを広げていくことを夢想している。(吉田周一郎)

撮影:鈴木久雄

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

自然をフィールドに、建築と建築をめぐる領域をデザインするクリエイティブチーム。長年、別な道で建築を生業としてきた吉田周一郎と石川静が、2021年春にshushi architectsts(シュシ アーキテクツ)として合流。シュシには、「主旨(コンセプト)」がぎゅっと詰まった、「種子」のような建築をつくり、仲間とともに育て、世界中に花を咲かせたい、という思いが込められている。

吉田周一郎
徳島県生まれ、京都大学建築学科修了。鹿島建設建築設計部、RCRアーキテクツ(スペイン)を経て、2008年に吉田周一郎建築設計を設立。2016年にshushi architectsに改称。

石川静
東京都生まれ、東京都立大学建築工学科卒業。NTTファシリティーズ、三菱地所設計を経て、2021年にshushi architectsに合流。

https://shushi.tokyo/

2021/8/4 14:35