「ミラノデザインウィーク 2026」出展者レポート:フオーリサローネ(ミラノ市内)

「ミラノデザインウィーク 2026」出展者レポート:フオーリサローネ(ミラノ市内)

世界最大規模の家具・デザインの祭典「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」が、2026年4月21日から4月26日まで開催された。

会場では32カ国から1,900ブランドの出展(700人のサローネサテリテ参加デザイナー人数を含む)があり、31万6,342人が来場。最新の家具やインテリア、照明、テキスタイルなど多岐にわたる分野の最先端トレンドが一堂に会した。

会期中はミラノ市内各所で「フオーリサローネ」と呼ばれる多彩な展示やイベントが同時開催され、街全体がクリエイティブな熱気に包まれる。本記事では、ミラノ市内で開催されたデザインイベントの中から、フオーリサローネの様子をレポートする。

川島織物セルコン「織の地層―Woven Strata―」

ミラノデザインウィークへ5度目の出展となった川島織物セルコンは、イタリアのファニチャーブランドであるパオラレンティを会場に、まったく新しい織物を発表した。ショールームの一画に荒々しく残されたままの空間で披露されたのは、選び抜かれた素材で織りあげる西陣の高級で華やかな一面とは大きく異なる印象の、しかしながら培われた技術なしには到達できることのない多様な質感をもつ表現だった。

テーマは「織の地層」。自然の堆積である“地層”と、“織物”という糸の地層を重ねた概念であると同時に、1843年の創業以来積み重ねてきた川島織物セルコンの“技術の地層”を示している。石や土壁といった堅牢なイメージを柔らかさのある織物で具現化した試みが今回の作品だった。

乾いてひび割れた土壁をジャガード織物で表現したタペストリー「Soil_2」は、ポリエステル糸で乾いた質感を出して2種類の生地を袋状に織る技法で不規則な凹凸が織り出されている。鉱物のオニキスの透明感と硬質な美しさを表現した「Onyx_5」では、糸を生地に打ち込むタフティングによる繊細な石目調の基布に2色の染料を流し込み、そのグラデーションによって層の重なりをみせた。

(左)Soil_2(右)Onyx_5

また、川島織物セルコンがもっとも得意とする綴織によって自然界の地層そのものを織りあげた「Strata_1」では、レーヨン、麻、ポリエステルなど糸の太さや違いを組み合わせながら奥行き感と層をつくりあげ、全体の不規則な形状とともにダイナミックな存在感をもたらしていた。織物にこうした自然環境に着想を得た質感を取り入れる要望は、実際に多く寄せられる声だという。1点ものの作品で完結せず、これからの建築やインテリア空間への具体的な提案へと展開される可能性が広がっている。

Strata_1

展示空間設計は、アートディレクターの岡安泉さんによって視覚的な特徴と触感の体験による驚きが効果的に演出されていた。川島織物セルコンの織物技術力をもって、従来の規範にとらわれない織りの組成や糸の扱い方にまで及ぶ挑戦を重ねた結果としての“地層”に感じられた点でも、強い印象を残した。

ヤマハ株式会社デザイン研究所「PARSLEY」展

2023年の参加以来3年ぶり、7度目の出展となったヤマハデザイン研究所。今回のタイトル「パセリ」は、ハーブの一種として独特な香りや苦味で料理全体のバランスをとる役割をしたり、鮮やかな緑色が盛り付けの彩り役になったりと、さまざまに登場する様子を“装飾がもつ多義性”となぞらえたもの。

Photo:Yamaha

普段、楽器という特別な道具に向き合うデザイナーたちが探求する装飾の意味や役割を再考した6つの作品は、思いもよらないウィットに富んだ発想の切り口をみせた。

たとえば、クラリネットの特徴的な金属部分であるキイやリング、レバーだけを抽出してアクセサリーにした「PAIRING」は、楽器と体がひとつの感性として響き合う独特な身体性を再認識させる作品だ。奏者の呼吸や体温が直接的に音色に関わる楽器の特性に着目しながら、ワインと料理が互いを引き立てあう関係性に重ねたタイトルにコンセプトが示されている。

実際に指輪やネックレスへと変貌したキイ部分はジェンダーレスなアクセサリーとして魅力的で、製品化を期待したい完成度だった(Photo:Yamaha)

「DRESSING」は、かつてアップライトピアノの前面に備えつけられていた燭台を現代的に再解釈し、ドレッサーへと再生させた古いピアノ。1983年製のピアノを職人がていねいに修理しただけでなく、鍵盤の蓋を開けるとライトアップする仕掛けまで楽しい。楽器に燭台が付属していた当時の室内は薄暗く、夜間の演奏にロウソクの灯りは必須だったという。

Photo:Yamaha

十分な光に恵まれる現代においても、手元の鍵盤や自分自身を照らしてくれる灯りはきっと、演奏する高揚感と無関係ではない。ピアノを飾る灯りと装飾についての真髄を問いかける作品となっていた。

デザインにおける装飾性の是非や本質に迫ろうとするデザイナーの試行錯誤は、正解のない音楽性を追求する音楽家の姿勢とも重なる。理屈だけでは割り切れない音楽芸術の豊かさに敬意をはらいながら装飾について考察した軌跡を作品へと昇華するヤマハデザイン研究所の技量に、多くの来場者が感嘆の声をあげていた。

島津製作所×we+「In-Between Matter」

島津製作所はデザインスタジオwe+との協働によるサイエンスアート作品を「In-Between Matter」と題して発表した。2022年からwe+と進めてきたリサーチプロジェクト「WONDER POWDER」を2024年に発表して以来、2度目の出展となる今回は、島津製作所が手がける分析機器の働きに着想を得て、「物質と物質のあいだ」にフォーカスするインスタレーションで注目を集めた。

会場となったレオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館の敷地内にある「Cavallerizze」に登場したのは、分析計測技術の根幹にある“分ける”というプロセスを感覚的に体感するための装置として制作された4つの作品だ。

Photo:Masaki Ogawa

なかでも一番の迫力で来場者の足を止めたのは「Liquid Interface」である。整然と並ぶ16台の水槽が揃って左右に回転すると、ちょうど目線の高さにある水面がゆったりと、よく知る水の動きよりずっとゆっくりと、揺らぐ。

Liquid Interface

Liquid Interface(Photo:Masaki Ogawa)

回転が止まるとほぼ同時になにごともなかったように静まり、水槽が動くとまた揺れる。しかしよく目をこらせば、カラだと思っていた水槽の上部には下部とは異なる比重の液体が入っているのがわかり、2液が撹拌されても混ざることなくその境界に現れるゆらぎを認識できる。

ほかの3作品「Optical Rotation」「Particle Settling」「Chromatography」ではそれぞれ、旋光性や粒子の落下速度、インクの成分の移動によって分かれる過程を実際にハンドルを回したり多孔質セラミックを浸したりして体験できるコーナーも設けられた。

Photo:Masaki Ogawa

島津製作所が分析機器によって追求してきた「分析とは何か」という本質を可視化して具現化するこうした試みは、科学の世界への誘いでもある。抽象度の高い概念から発信されるインスタレーションによって、分析計測技術への興味が大いに刺激されたはずだ。

ISSEY MIYAKE 「The Paper Log : Shell and Core」

ISSEY MIYAKEはミラノの旗艦店「ISSEY MIYAKE / MILAN」での特別展「The Paper Log : Shell and Core(ザ・ペーパーログ:膜と核)」を開催。プリーツ製品の製造工程で排出される「圧縮された紙のロール」を活用したオブジェと家具が展示された。

©︎ ISSEY MIYAKE INC.

タイトルの「ペーパーログ」とは、プリーツがかかった薄い紙を圧縮したロール(高さ80cm、直径40cm)のこと。生地を衣服のかたちに縫製してからプリーツ加工を施す際にプリーツマシンに入れる生地を保護する目的で使用した紙を、輸送効率を上げて廃棄・リサイクルしやすくするためにロール状に圧縮したもので、その構造が丸太(=ログ)に似ていることに由来する。

機械製造による副産物とはいえ、ひとつとして同じ形状はなく、プリーツ加工時の色残りがロールの断面をマーブル模様のように見せるだけでなく、プリーツ加工を経た痕跡が丸太の年輪のような時間の積層に感じられるものだ。

この素材の質感と円柱の形に可能性を見出し、プロジェクトを立ち上げたのは三宅デザイン事務所のデザインディレクターの一人、近藤悟史さんだ。ロールをカットしてスツールを制作し、パリで行われた「ISSEY MIYAKE 2025年春夏コレクション」発表会場の座席とインスタレーションに使用した。

「ISSEY MIYAKE 2025年春夏コレクション」会場 ©︎ ISSEY MIYAKE INC.

そして今回のミラノでは、スペインの建築事務所であるEnsamble Studio(アンサンブル・スタジオ)を協働パートナーに迎え、イッセイ ミヤケ社のプロジェクトチームと発展させた2つの作品シリーズへと結実させた。

アンサンブル・スタジオによる作品群「Shell(膜)」は、ペーパーログから紙をはがした状態で自由に造形したり、既製品の家具に覆い被せたりして、硬化剤で固める手法が特徴だ。ISSEY MIYAKE / MILANの店内で大型の彫刻的な作品や、照明と組み合わせるオブジェへと展開された。

アンサンブル・スタジオによる作品群「Shell(膜)」©︎ ISSEY MIYAKE INC.

その一方で、イッセイ ミヤケのプロジェクトチームによる作品群「Core(核)」は、プロトタイプの家具で構成されている。圧縮前のプリーツがかかった紙を束ねて、またペーパーログを蝋(ロウ)に浸して荷重に耐える硬さをもたせ、あるいは糊で固める、削る、切るなどの加工を施して、椅子やテーブルをつくり上げた。

手前にある椅子が、イッセイ ミヤケのプロジェクトチームによる作品群「Core(核)」のひとつ ©︎ ISSEY MIYAKE INC.

削る、切る、広げる、といったさまざまな手法を通じて、素材としての可能性を探求するプロセスは興味深い。リサイクルするだけではなく、新たな価値を与える思考と創造力が発揮された試みは、ハイブランドの出展が話題を呼ぶミラノデザインウィークに、確かな一石を投じた。

三澤遥「bit by bit」

日本デザインセンター 三澤デザイン研究室を率いるデザイナー、三澤遥さんの個展「bit by bit」は、ADI Design Museumにて開催された。この美術館は、優れた建築家やデザイナーの功績を顕彰する目的で1954年に創設されたコンパッソドーロ賞の歴代受賞作をアーカイブしていて、常時さまざまな企画展が開催される。

三澤さんにとってヨーロッパ初となる個展のために選ばれた展示空間は、広い館内でポスターを設置してある特別なエリアだ。普段は、無料で持ち帰れるコンパッソドーロ賞受賞者の紹介ポスターが数十種類と用意されており、平置きしたり立てかけたりするのに適した展示台が設置されている。

つまり、紙を置いて見せるにはぴったりの場所だ。そこに、落ち着いたトーンで統一しながらも表情豊かなファインペーパーを重ねたり、穴をあけて奥行きを出したり、と少しずつ様相を変えながら連続する紙のステージを登場させた。

Photo by Masaki Ogawa

紙の上に置かれている、糸や木板、針金、釘、枝、ガラス玉、といった素材は、誰もが知っているものでありながら、よく見ると知らなかったような姿に変わり、不思議なふるまいを見せ、動きだしたりもする。三澤さんがこれまでに発表してきた「動紙」「紙の花」「Paper Construction」といった作品を体験したことがあればピンとくるだろう。回廊状に長く続く紙のステージ上で数百もの小さな素材がスポットライトを浴びて生き生きと存在する瞬間に、息をとめて見入る来館者の様子も印象的だった。

Photo by Masaki Ogawa

これまで10年にわたって発表してきた小さな作品群を総覧する構成は、今回の個展そのものを最新作と呼びたい新しい世界観を創出した。4月から6月まで継続する会期を経て、三澤さんの実力はミラノのデザイン界で周知されるに違いない。

Photo by Masaki Ogawa

ミラノ市内でのイベントでは、入場を予約制とする会場がこれまで以上に増えている。そのため、出展者側は事前の話題づくりが必須となり、鑑賞者側には情報収集力が求められるような状況だった。そして予約できず長い行列に並んででも、必ず見たい、体験したい、あるいは即座にSNSで発信したい、といった熱気がミラノの中心部を覆いつくしているようでもあった。

けれども、そうした喧騒にまどわされず静かな気迫が伝わってくる真摯なデザインにふれることができるのもまた、ミラノデザインウィークの魅力だ。語り継がれるインスタレーションや、歴史的な名作が登場する場として、まだまだ求心力はつきないだろう。

取材・文:高橋美礼 編集:石田織座(JDN)