Sansan 神山ラボ OMOYA

2019 / Sansan株式会社

サテライトワークの居住環境と古民家の再構成

Sansanは徳島県神山町に2010年よりサテライトオフィス神山ラボを設け、その敷地には築100年から70年ほどの古民家の母屋、納屋、牛小屋が程よい距離を保って建っている。オフィスとして使われるNAYAとKOYAはすでに整備されており、宿泊・研修棟である築約70年のOMOYAの居住環境を改善し、ワーカーが快適に過ごせるように改修することが今回の要望だった。

3棟に囲まれた中庭には大きなサクラの木があり、魅力的な場所であるにも関わらずOMOYAのキッチン裏に面し、その魅力が活かされていなかった。また、家の北側に位置する玄関土間は薄暗く、来訪者は西側に駐車してKOYAとOMOYAの間を通り抜けてキッチンの勝手口からアプローチするため、玄関の役割を失っていた。そこで、キッチンを新しいミーティングスペースへと改装し、新しいOMOYAの玄関をKOYAとNAYAに繋がる中庭の桜テラスに開いた空間とすること、玄関土間を新しい土間キッチンとすることで、滞在者にとって魅力的な居場所となるよう役割の交換を行った。

さらに、階段を東側の3畳寝室に納め、廊下や南寝室の壁を取り払い、単純な田の字型の平面へと再構成し、西側の和室は南北それぞれが独立した寝室としても使えるような、ひと繋がりの座敷とした。土間キッチン・ダイニング・和室を調理・食事から研修へ、一体となる居場所として変換した。

大部分の屋根、外壁、木製建具のほとんどを既存のままとし、柱・梁・竹木舞土壁・天井・長押・鴨居などもできる限り残し、新しく付加する部分と古い部分との調和を心掛けている。古民家の持つ田の字と付加空間プランの交換可能性を試み、空間を繋げ直すことで、現代のオフィスワーカーの居住、宿泊、研修に応える建築環境を創出した。生まれた時から古民家に住んだことのない世代に対して、その歴史を伝えると同時に未来の仕事や生活をイメージできるような改修を試みた。(吉田周一郎)

撮影:鈴木久雄

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

吉田周一郎+石川静/shushi architects(建築デザイン事務所)

自然をフィールドに、建築と建築をめぐる領域をデザインするクリエイティブチーム。長年、別な道で建築を生業としてきた吉田周一郎と石川静が、2021年春にshushi architectsts(シュシ アーキテクツ)として合流。シュシには、「主旨(コンセプト)」がぎゅっと詰まった、「種子」のような建築をつくり、仲間とともに育て、世界中に花を咲かせたい、という思いが込められている。

吉田周一郎
徳島県生まれ、京都大学建築学科修了。鹿島建設建築設計部、RCRアーキテクツ(スペイン)を経て、2008年に吉田周一郎建築設計を設立。2016年にshushi architectsに改称。

石川静
東京都生まれ、東京都立大学建築工学科卒業。NTTファシリティーズ、三菱地所設計を経て、2021年にshushi architectsに合流。

https://shushi.tokyo/

2021/8/4 14:35