戦後建てられ始めた日本のマンション戸数は665万戸におよぶ(令和元年時)。このプロジェクトのように、100戸以上の規模のマンションが建設されると、その外観が街に与える影響は大きく、街の景観は一変する。
多くの大規模マンションは各住戸からの効率の良い避難のため、前面に連続するバルコニーを設けている。また分譲マンションの場合、空調室外機置き場としても必要である。そのため多くの分譲マンションは戸境壁で仕切られたバルコニーが並ぶ外観が特徴的となる。また80年代以降、外装に高級感を与えて、商品として売れるマンションを開発するために、外壁をタイル貼りにすることが増えた。タイル仕上げは商品としてのマンションの価値を上げる役割を担っているが、昨今タイル剥落事故が問題となっている。バルコニーや外壁タイルといったマンション特有のデザインを再定義し、マンションのための新たな表現を模索した。
この集合住宅の2階から上の住宅部分はバルコニーを全面に設置しているが、その上から開口部を均質に並べた外皮で覆うようにして、1階にある店舗と上層階を馴染ませ、住宅か別の用途か外からはわからない多義的なファサードとした。
コンクリートの外皮は目地が入った型枠を使用し、タイルを貼る代わりに凹凸をつけることで、横浜のクラシカルなコンテクストに合わせたレンガの表現を外装に纏った。塗装はクリアにしたため、遠くからはグレーのレンガタイルのように見える。バルコニーの中は木材で仕上げたいと考えたが、分譲マンションはメンテナンスなどクリアしなければならない課題が多いため、コンクリートの表面に羽目板の幅程度に目地を入れて、その表面に下地となるか薄い色を塗り、その上に濃い色を塗って乾く前に木目刷毛で掻き取り、羽目板のような仕上げをコンクリートの表面に再現した。
このプロジェクトではコンクリートの多義的な装いで、いかに街の歴史、景観、都市の賑わい、マンションの販売者と購入者それぞれにとっての価値、そしてメンテナンスなどを踏まえた建物の性能を引き受けて、新たな表現を提案できたのではないかと考えている。
敷地:神奈川県横浜市
用途:集合住宅
竣工:2021年5月
事業主:トーシンパートナーズ
設計監修:小山光+キー・オペレーション
設計監理:イクス・アーク都市設計
施工:大勝
構造:テラ設計工房
設備:弥生設計
写真:矢野紀行
敷地面積:503.70m2
建築面積:416.90m2
延床面積:4129.76m2