第310回 AtMa inc. (クリエイティブユニット)

[齋藤精一の推薦文]

プロダクトデザイナーの社会的な役割は何だろうか?

まだ誰も形にしていない新たな造形を見つけ出すことなのか。時代が求める新しい機能を提示することなのか。それとも、リユースやサーキュラーエコノミーを現実のものとして実装していくことなのか。

今年のミラノサローネで、多くの方から「ALCOVAの日本人デザイナーの取り組みを見たほうがいい」と聞き、足を運んでみた。地下の暗い空間に広がっていたのは、名作J39をAtMaが美しく再構築したJ39.5だった。

そこには、名作への優しい敬意とともに、長い時間をかけて「リメイク」という概念を超えた強固なプロダクトデザインが存在していた。形だけではなく、物語や感情が丁寧に編み込まれたデザイン哲学が、確かな存在として表現されていたように思う。今後の彼らの活動にも、ぜひ注目していきたい。

齋藤精一(パノラマティクス主宰)

建築デザインをコロンビア大学建築学科で学び、2006年、株式会社ライゾマティクス(現:アブストラクトエンジン)を設立。社内アーキテクチャ部門を率いた後、2020年に「CREATIVE ACTION」をテーマに、行政や企業、個人を繋ぎ、地域デザイン、観光、DXなど分野横断的に携わりながら課題解決に向けて企画から実装まで手がける「パノラマティクス」を結成。2023年よりグッドデザイン賞審査委員長。2025年大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクター。

https://panoramatiks.com/

編集部からの推薦文
AtMa inc.にはじめてJDNの記事に登場いただいたのは、2019年のミラノデザインウィークでのインタビュー。DNPの展示にクリエイティブパートナーとして参加し、「Time Printing」をテーマに空間をつくり上げた際、その取り組みについてお話をうかがった。

このプロジェクトをはじめ、彼らが手がけてきた空間やプロダクトからは、それぞれの背景にあるストーリーやパワー、ポテンシャルを丁寧に見極め、敬意をもって探求している姿勢が伝わってくる。木や石、ガラス、タイルといったどんな素材でも、まるで特殊なフィルターを通したかのようにその場に自然となじませるデザイン力も、彼らの大きな魅力である。
AtMa inc.(クリエイティブユニット)

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

鈴⽊良と⼩⼭あゆみにより2013年に設⽴されたクリエイティブユニット。ファッションショップやレストラン、ウィンドウディスプレイなどの空間のデザイン、ホテルやアパートメントのディレクション、プロダクトデザイン、インスタレーションなどのクライアントワークに加え、近年では社会課題などを取り上げた⾃主制作に取り組み、また⾃⾝の作品やアーティストとのコラボレーションを⾏えるスペースの運営と3つの軸を持ち、活動の幅を広げている。

FRAME AWARDS (Emerging Designer of the Year2020)、Design Anthology Awards、PARIS DESIGN AWARDS、KYOTO GLOBAL DESIGN AWARDSなど受賞。武蔵野美術大学空間デザイン学部非常勤講師。

https://atma-inc.com/project/
https://www.instagram.com/atma_inc/?hl=ja