全体テーマを「Patterns as time」とし、分割したそれぞれのエリアを担当したのは、設計事務所AtMa Inc.(以下、AtMa)と建築デザイン事務所noiz architects(以下、noiz)。あえて境界線を設けるという、一風変わったこの展示はどのようにして実現したのか?「Time Printing」をテーマに、空間をつくり上げたAtMaの鈴木良さんと小山あゆみさんにお話をうかがった。
時間の捉え方が違う両者だからこそ、生み出せた相乗効果
——まず、どのような経緯で今回のインスタレーション制作がはじまったのでしょうか。
AtMa 小山あゆみさん(以下、小山):はじめは「MiD CiD」という、日本の伝統的な色彩や紋様を現代にフィットするように再構築するDNPのブランドに、デザイナーとして参加していました。柄を認知してもらうためになにができるかをDNPさんと一緒に考えていて、ミラノデザインウィークに出しましょうと提案したのがはじまりです。
AtMa 鈴木良さん(以下、鈴木):国内外にいろんな展示イベントがありますけど、やっぱりミラノデザインウィークの集客力はダントツで、世界中の人に見てもらえます。DNPのブランド価値を考えると、ミラノが一番よいのではと思いました。
——AtMaはふたりで活動されていますが、なにかそれぞれの担当などはあるのですか?
鈴木:プロジェクトについては基本的にふたりで考えます。店舗をつくる現場で知り合ったのですが、僕はインテリア事務所出身で、小山は絵を描いたり、アパレルのVMDをしていたりで、それぞれ観点が違います。仕事でも、それぞれの視点から出た意見をぶつけ合ってつくっています。
最初から僕がこれ、小山がこれという分業にはなっていません。だけど、それぞれにしかできないこともあるので、その場合は専任で担当する形です。
小山:クライアントのブランドカラーが、わたしのほうが近いとか鈴木のほうが近いとかはあります。あとはABプランで、お客さんにはどっちがどっちとは伝えずに提案することもありますね(笑)。
——展示テーマの「Pattern as Time」をどう解釈してつくり上げていきましたか?
小山:「MiD CiD」と日本の伝統的な紋様の「江戸小紋」、そのふたつを組み合わせて空間に落とし込むプランを立てたものの、最初はなかなか豊田さんたちの展示との接点が見つけられなかったんです。でも、リサーチをしていく中で、豊田さんは一瞬の時間を捉えていて、わたしたちは歴史や長い年月を捉えている、違う解釈で時間を捉えていることなど、対比できるものがどんどん見つかりました。
——作品に対して、どのような反響がありましたか?
小山:印象的だったのが、noiz側の展示は見に来た人がその作品の中に入り込んで写真を撮る人が多く、私たちの方は作品そのものを撮っている人が多くて、対比を感じました。
鈴木:ダイレクトに感想を言ってもらえるので、今後のモチベーションにもなりましたね。あと、モックアップをつくる時間がなく、あくまでパースでの検証、CGでの検証しかできていなくて不安だったのですが、照明を担当いただいた岡安泉(岡安泉照明設計事務所)さんにイメージを実現してもらったのが大きかったですね。点灯するまではやって見ないとわからないこともあったので……。今回の会場である、ミラノ中央駅高架下の展示スペース「Ventura Centrale(ヴェントゥーラ チェントラーレ)」の場が持つパワー、ポテンシャルを生かすということも気にしていました。
江戸小紋の長い歴史を最新技術でプリントする
——DNPの技術は具体的にどのような部分に用いられたのでしょうか?
DNP 関本卓哉さん(以下、関本):AtMaの展示モチーフである江戸小紋や「MiD CiD」をアクリルに施すスキャニングが必要なんですが、江戸小紋って手彫りで作られた高精細な型を、その意匠を残したままデータにしないといけないんです。そこは印刷会社の出番です。スキャニングしようにも、ボロボロのものもあるのでかなり難度は高かったですが、細かいところも当社のデザイン部門がしっかりやりきってくれました。
——展示までの準備期間が短かったそうですが、強いていうならもっとやってみたかったことはありますか?
鈴木:いろいろあります(笑)。ただ、時間がなかったことはそこまでマイナスに捉えていなくて、限られた時間の中でいいものをつくりたい一心でやっていました。ストーリーやコンセプトについても、ふたりでしっかり内容を詰められたと思います。ただモノとしてのクオリティとしては、時間があればあっただけブラッシュアップができるのですが、それだとキリがないのでこれはこれで完成系かなと思っています。もっとやってみたい気持ちもありますが、後悔は感じていません。
小山:インスタレーションとはまた別で、照明プロダクトとしてみるなら、こうしたほうがいいなどはありますね。
——お互いの作品を見ていると重なり合うポイントがありますが、二つの作品が並ぶことで相乗効果や化学反応はありましたか?
小山:それはすごくありました!写真だと伝わりきらないかもしれませんが、それぞれ光にも動きがある中で、noizの電子ペーパーがついて黒と白が消えたりついたりする中で、鳥肌がたつような感覚が両サイドからきて、何度も見てきたはずなのに、ぞわっとしたほどです。
鈴木:ひとつのインスタレーションを右左に分割するなんて、なかなかできません。レイヤー的に作品が見えてくるおもしろさはどうなるかなと思っていましたが、そこはプラスに働きましたね。SNSにアップされている写真も、両方の展示が入るよう撮影されたものが多いことも印象的でした
小山:あと、全体の照明を担当してくださった岡安さんが、魔法使いと言われている理由がわかりました(笑)。作品に光が入ったのを初めて見たのが会場だったので、感動は倍増でしたね……!
鈴木:点灯した瞬間は、施工業者さんからも歓声があがりましたね。岡安さんが現場で照明にプログラミングを加えてくださったんですが、そこでよりメッセージ性も強まったと思います。
関本:AtMaさんには自身のエリアだけでなく、施工全体を見ていただきました。「一緒にいいものを!」という思いを最後まで一貫して協力していただいたので本当に感謝しています。チーム全体をまとめていただき、ありがとうございました。
取材・文:八木あゆみ 撮影:細倉真弓 編集:瀬尾陽(JDN)
AtMa inc.
https://atma-inc.com
PATTERNS AS TIME
https://www.dnp.co.jp/contents/mdw2019/jp/
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