CARV STORE

2023 / RAINBOW SHAKE Inc.

CARV STOREは「CURVE(曲線)」をコンセプトに、豊かな曲線のアルファベットを組み合わせた唯一無二の造語「CARV」を店名としたセレクトショップです。国内外のユニークなアパレルを中心に、フレグランスやワインなども取り扱っています。店舗があるのは、東京の中でも高感度なファッションエリアである代官山です。

代官山はもともと住宅地であったエリアですが、建築家の槇文彦とこの土地の大地主である朝倉家がタッグを組み、商業施設「ヒルサイドテラス」を計画したことをきっかけに、1900年代から2000年代前半にかけてトレンドを発信するセレクトショップやブランドショップ、美容室、飲食店が多く開店し、盛り上がりを見せましたが、近年は落ち着いた状況が続いていました。

そんななか、この新しいセレクトショップの誕生によって新たなカルチャーが生まれ、代官山が再び上昇曲線を描くことが期待されています。「CARV(曲線)=個性」として捉え、「フリーハンドで書いた曲線は二度と同じものが書けない」という意味から、「個性や多様性を表現したショップ」を目指しています。

私たちはブランドのコンセプト「CARV=曲線」を多角的に探ることからスタートしました。例えば、「曲がる」「ねじる」「ひねる」「歪む」「膨らむ」「潰す」「弾む」「撓ませる」など言葉を派生させることで、動作や現象を具体的にイメージ。また、物理的に曲がる、意図的に曲げる、自然現象による曲がり、化学的に曲がるなど、その原因や効果への想像も広がりました。これらのイメージや検証結果を具現化し、空間に落とし込むことで、多角的な曲線表現を一つの空間に集約しました。

(1)空間を曲げる
丸型のアクリルパイプや歪みのあるガラスブロックを店内に配置し、アクリルパイプやガラスブロックを通して空間や商品に歪みを持たせた。

(2)什器形状や仕上げの曲線
什器やガラス棚の形状はもちろん、研磨機を使った仕上げや鏡面仕上げを施し、視覚的にも曲線を表現。什器に映り込む景色も曲げた。

(3)フリーハンドで描かれたハンガーラック
iPhoneのライトを使い店内に曲線を描き、その線を具現化したハンガーラックを製作。机上や図面では表現できないフリーハンドの曲線は職人の手作業で一つひとつ作られ、空間に表情・質感・感触を加えた。

(4)ワイヤーの曲線
ワイヤーを使った陳列や照明レイアウト。シーズンごとに商品の数や重量が変わるため、空間に描かれるワイヤーの曲線も変化し、洋服を掛けたり手に取ったりするたびにワイヤーと心が弾む。

(5)端材・廃材の意図せぬ曲線
石材工場から出る端材や廃材の石を調達し、陳列棚やワイヤーラックのオモリに転用。端材や廃材には意図しない偶発的な曲線があり、これを店内に取り入れて空間のアクセントにした。

(6)自然現象が生み出す曲線効果
レジカウンターの真鍮にサビ加工を施し、一定期間サビを進行させた後、曲線が描かれたところでクリア塗装を施して進行を止めている。サビは自然現象が作る曲線で、無機質になりがちな建築空間に自然の要素を加えた。

(7)重力で曲げる・撓ませる
什器の天板に伸縮性と耐久性のあるPVCコードを使用。商品の重み(重力)によってPVCコードが沈み、曲線が生まれる。

(8)発想を曲げる・ひねる
硬質に見えるが触ると柔らかいユニークな素材の什器や、重量感のある什器を宙に浮かせて使用。また、店内のアート作品にはショップコンセプトと親和性のあるシャルル・ムンカ氏の、他人が残した線や文字、記号、絵などをモチーフにした作品を飾っている。発想のひねり(発想を曲げる)によって新たな発見や気づきを生み、良い意味で来店者の期待を裏切る効果を狙う。

(9)過去に想像を膨らませる
店内には過去の工事の墨出し跡や筆跡、溶接跡などが残っているが、これらを過去の物語や建物の歴史を想像させる個性として捉え、そのまま空間のデザインとして残した。視点を多く持ち、見る角度を変えることで異なる感覚や世界が広がることを伝えたい。

代官山は1900年代から2000年代前半に盛り上がりを見せた後、一時的に下火になったが、新しいセレクトショップの誕生によって新たなカルチャーが生まれ、再び上昇曲線を描くことは間違いないだろう。

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

鈴⽊良と⼩⼭あゆみにより2013年に設⽴されたクリエイティブユニット。ファッションショップやレストラン、ウィンドウディスプレイなどの空間のデザイン、ホテルやアパートメントのディレクション、プロダクトデザイン、インスタレーションなどのクライアントワークに加え、近年では社会課題などを取り上げた⾃主制作に取り組み、また⾃⾝の作品やアーティストとのコラボレーションを⾏えるスペースの運営と3つの軸を持ち、活動の幅を広げている。

FRAME AWARDS (Emerging Designer of the Year2020)、Design Anthology Awards、PARIS DESIGN AWARDS、KYOTO GLOBAL DESIGN AWARDSなど受賞。武蔵野美術大学空間デザイン学部非常勤講師。

https://atma-inc.com/project/
https://www.instagram.com/atma_inc/?hl=ja

2025/7/9 11:45