PRANK PROJECT AOYAMA

2023 / PLAY PRODUCT STUDIO CO.,LTD

本物件は、1999年にレストランとして計画された商業ビルであり、現在にいたるまでに数回の改装がおこなわれています。私たちは、ブランドのコンセプトワードである「PRANK(いたずら)」という言葉に込められた遊び心から、デザインの発想を探ろうと考えました。

前テナントの解体が進むなかで、あるはずの壁がすでに破壊されていたり、窓を構造から切り離すためにコンクリートの壁に亀裂が生じていたりと、予期しない建築の状態が数多く見つかりました。調査の結果、当時の設計上(構造的に問題がなかったため)、それらは不要な壁や窓であると判断され、破壊あるいは切り離されたことが明らかになりました。

私たちは、そうしたかつて「不要」とされた建築要素を、建物の文脈を読み解きながら、丁寧に修復するのではなく不完全なままの状態を許容することで、現代における「PRANK(いたずら)」という遊び心が空間に宿るのではないかと考えました。

スクラップ&ビルドとは異なるアプローチとして、解体そのものをデザインプロセスの一部と捉え、机上での提案や検討だけでなく、解体の全工程に立ち会い、その範囲の判断も現場で行いました。こうした方法は、結果として解体時に生じる廃棄物の削減や、無駄な製作物を減らすことにもつながったと考えています。

建物が持つ物語を丁寧に読み解き、PRANKの視点をもって空間と向き合うことで、残すべきものと加えるべきもののバランスを熟考し、オリジナルな空間の創出を目指しました。

たとえば、破壊された壁で構成された空間には、特徴的な木目を持つウォルナットのR壁やタイルの床を設け、構造が露出した階段には上質なカーペットを敷くなど、相反する要素を組み合わせています。また、元レストランの厨房にあった配膳用エレベーター部分には棚を設け、その空間を売り場として再構成するなど、随所に新たな機能を加えました。

既存のステレオタイプから解放され、相反する要素の共存や、不完全さ・偶然性といった要素も受け入れることで、柔軟な発想が生まれ、「PRANKな空間」へとつながっていくと考えています。

この考え方は、建築や空間デザインにとどまらず、家具や什器にも応用できるのではないでしょうか。店内に配置された家具はいずれも、20世紀を代表するスーパーデザイナーたちが手がけたものであり、現在では名作と呼ばれるものです。しかしそれらも、当初は遊び心から生まれたアイデアだったのかもしれません。

遊び心から生まれたアイデアやプロダクトが、時を経て、見る側の視点や価値観の変化によって「価値」へと昇華されていく。時代によって「PRANK」と感じられるものも変わっていくでしょうし、「PRANK」という言葉自体の意味も変容していくかもしれません。

PRANKを感じる空間の中に、現代的なコンテンポラリーデザインと、過去の名作家具の両方を配置することで、発想が価値に変わっていく物語を表現しています。

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

鈴⽊良と⼩⼭あゆみにより2013年に設⽴されたクリエイティブユニット。ファッションショップやレストラン、ウィンドウディスプレイなどの空間のデザイン、ホテルやアパートメントのディレクション、プロダクトデザイン、インスタレーションなどのクライアントワークに加え、近年では社会課題などを取り上げた⾃主制作に取り組み、また⾃⾝の作品やアーティストとのコラボレーションを⾏えるスペースの運営と3つの軸を持ち、活動の幅を広げている。

FRAME AWARDS (Emerging Designer of the Year2020)、Design Anthology Awards、PARIS DESIGN AWARDS、KYOTO GLOBAL DESIGN AWARDSなど受賞。武蔵野美術大学空間デザイン学部非常勤講師。

https://atma-inc.com/project/
https://www.instagram.com/atma_inc/?hl=ja

2025/7/9 11:45