J39.5 at ALCOVA

2025

「J39.5」は、ボーエ・モーエンセンがデザインしたJ39チェアを組み替えて再構成したチェアのシリーズです。ヴィンテージ家具店の倉庫で、脚が欠け、背もたれが割れたJ39に出会ったことが、このプロジェクトのきっかけでした。

修理にはコストや時間、手間がかかるため、修復が難しい破損したヴィンテージのJ39が倉庫の奥にいくつも眠っていました。私たちはそれらを引き取り、新たな価値を見出すことで、家具と人との循環的な関係を築けないかと考えました。

J39は、モーエンセンがシェーカーチェアを再解釈して生み出した椅子です。その姿勢への敬意を込めて、新たな素材は加えず、残されたオリジナルパーツのみを組み替えました。1という完全なデザインではなく、0.5という発想の転換を加えることで、時代性を反映したリデザインを試みています。

また、より持続可能なアプローチとして、素材の循環にも取り組んでいます。椅子の部材として再利用できないほど傷んだパーツは、チップ状に粉砕してパルプ化し、紙を製作しています。その紙を裂いて撚ることでペーパーコードを作り、座面として再活用しています。かつて椅子の脚だったものが座面になり、素材は形を変えながらも、椅子を構成し続けているのです。

ヨーロッパでデザインされた椅子が日本に渡り、再解釈されたものが再びヨーロッパへ戻る——。土地や文化を越えてデザインのアプローチを繰り返すことは、相互理解を深めるきっかけにもなると感じています。

これら3つのアプローチを通じて得られた新たな視点と、家具とのサーキュラーな関係を通して、人・モノ・素材・文化・環境・時代の相互理解について、これからも考え続けていきたいと思います。

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

AtMa inc.(クリエイティブユニット)

鈴⽊良と⼩⼭あゆみにより2013年に設⽴されたクリエイティブユニット。ファッションショップやレストラン、ウィンドウディスプレイなどの空間のデザイン、ホテルやアパートメントのディレクション、プロダクトデザイン、インスタレーションなどのクライアントワークに加え、近年では社会課題などを取り上げた⾃主制作に取り組み、また⾃⾝の作品やアーティストとのコラボレーションを⾏えるスペースの運営と3つの軸を持ち、活動の幅を広げている。

FRAME AWARDS (Emerging Designer of the Year2020)、Design Anthology Awards、PARIS DESIGN AWARDS、KYOTO GLOBAL DESIGN AWARDSなど受賞。武蔵野美術大学空間デザイン学部非常勤講師。

https://atma-inc.com/project/
https://www.instagram.com/atma_inc/?hl=ja

2025/7/9 11:45