世界最古の美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ2026」に挑む―B-OWNDが世界に提示する美の基準とは?(前編)

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世界最古の美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ2026」に挑む―B-OWNDが世界に提示する美の基準とは?(前編)

株式会社丹青社(以下、丹青社)が手がけるアート・工芸作品のプラットフォーム「B-OWND(ビーオウンド)」。事業開始から7年を経て、2026年5月9日からイタリア・ヴェネチアで開催される、ヴェネチア・ビエンナーレ2026の公式サテライトイベント「Personal Structures」への出展が決定した。

なぜ、空間づくりのプロである丹青社が、“工芸“の領域で世界に挑んだのか。そこには、日本の美意識を起点とした新たな評価軸を世界に提示したいという想いがあった。

本記事では、事業立ち上げから現在に至るまでの軌跡を振り返り、今回の展示に込めた想い、そしてその先に描く未来像について、B-OWNDの発足人である石上賢さんと、本展示の空間デザインを担当した上垣内泰輔さん、山口俊太郎さんの3名に話を聞いた。

目指すのは「アーティストの創作基盤の整備」と「美の価値基準の拡充」

――まずは、これまでのB-OWNDについてお話を聞かせてください。改めてB-OWNDはどのような事業でしょうか?

石上賢さん(以下、石上):B-OWNDは2019年に事業化した、アートや工芸作品のオンラインプラットフォームです。現在は、工芸の付加価値をプロデュースすることを目的として、アーティストのマネジメントからギャラリーの運営など、幅広く事業を展開しています。

石上賢

石上賢 株式会社丹青社 事業開発センター B-OWNDプロデューサー/キュレーター。新卒で丹青社に入社し、2年目にはB-OWNDを提案して事業化。現在はB-OWNDの戦略設計から展示のキュレーションまでを行う

――なぜ、事業化しようと考えたのでしょうか?

石上:私の父が画家、母が画商、兄がアーティストという芸術一家で育ったので、もともとアートへの興味がありました。そこで、丹青社でもアート事業に携わりたいと考え、入社2年目のときにB-OWNDの提案を行い、事業化に至りました。

その頃は、アーティストと購入者をつなぐプラットフォームとして、すべての作品にブロックチェーンによる証明書を付け、オンラインで販売するところから始めました。

――当時はブロックチェーンの先駆けとして話題になっていましたよね。2019年の立ち上げ当初は、どのようなことを目指していたのでしょうか?

石上:当初も今も目指していることは変わりませんが、1つは、アーティストの安定した経済基盤をつくること。というのも、工芸の市場規模はここ40年で8割も減少しており、また従事者も30万人から5万人へと縮小傾向にあります。そこで、アーティストが安心して創作できる基盤を整えていきたいと考えています。

もう1つは、美の価値基準を広げることです。これまでのアートの評価軸は、西洋や欧米の美意識が基準となって形成されてきました。一方で、日本は茶の湯に見られる“わびさび”のような独自の美意識を持っています。これらは茶室や掛け軸、生け花などさまざまな要素で構成されているため、こうした統合的な美意識を再定義し、世界に提示することを目指しています。

――プラットフォームとして取り組まれている中で、B-OWNDの転機となった出来事はありますか?

石上:大きな転機は、陶芸家の古賀崇洋さんの個展を開催したことです。それまではオンラインで工芸作品を販売していましたが、実際に作品を見たり触ったりせずに届けることに難しさを感じ始めていました。そこで、アーティストのプロデュースに挑戦し、2021年6月に渋谷で古賀さんの個展を開催しました。すると、開始2時間で数千万の売り上げを達成。この経験から、展示にも力を入れるようになりました。

古賀崇洋個展「Anti Wabi-Sabi 創造力は自粛できない」(2021年6月、渋谷)

石上:まずは国内で展示を実施し、博多や大阪、東京のほか全国の百貨店などでB-OWND企画のさまざまな展示を行いました。それぞれでアート部門の歴代最高売上を記録し、常設展示のお声がけもいただけるようになりましたね。その後、2023年と2024年に連続して出展したマイアミのアートフェアを皮切りに、ニューヨーク、ラスベガス、香港、台湾、上海などエリアを拡大しています。

――海外での展示で、特に印象に残っている展示はありますか?

石上:2023年に出展した、世界最大規模のアートフェアであるマイアミでの展示が特に印象的でした。工芸作品に加えて、箏とEDMを掛け算したTRiECHOESのライブパフォーマンスや1,000人近くの方が参加したエントランスでのアート茶会を行った結果、たくさんの方に作品を手に取っていただけました。ただ作品を並べるのではなく、日本の伝統文化と新しい要素を掛け算した体験も含めた空間全体として提示することで、作品の魅力がより伝わるんだと実感しました。

「SCOPE MIAMI BEACH2023」(マイアミ)にて行ったアート茶会

「SCOPE MIAMI BEACH2023」(マイアミ)にて行ったアート茶会

1通のメールから、世界最古の美術展への挑戦がスタート

――それでは、今回ヴェネチア・ビエンナーレ2026への出展につながった経緯を教えてください。

石上:きっかけはマイアミでの展示です。その際、ヴェネチア・ビエンナーレでキュレーターを務める方が来場し、茶会を体験いただいたことから、今回お声がけいただきました。2025年の6月に突然メールが来たので、最初は詐欺じゃないかと疑ってしまいました(笑)。しかも「B-OWNDを最優先に考えているから、希望の場所で展示を行っていい」とのことで、とても協力的に進めていただきました。

――今回の展示では、3名それぞれどのような役割を担当されたのでしょうか?

石上:私はB-OWNDの立ち上げ以来、プロデューサー兼キュレーターとして、全体の戦略設計や展示企画を担ってきました。本展示においても、展示するアーティストの選定や、なぜヴェネチアで実施するのかといった部分も含め、全体の方向性を設計しています。

上垣内泰輔さん(以下、上垣内):私はおもにB-OWNDの部屋の空間デザインを担当しています。石上さんの想いをどのように空間として伝えるか考え、展示空間を手がけました。

上垣内泰輔

上垣内泰輔 株式会社丹青社 デザインセンター プリンシパルクリエイティブディレクター。1988年に入社して以来、複合商業施設の空間ディレクションや海外の大型展示会パビリオンなど、数多くの空間デザインを手がける

山口俊太郎さん(以下、山口):私はアーティストの展示空間のデザインを担当しています。6名のアーティストそれぞれに複数案デザインを用意し、対話を重ねながら、ヴェネチアならではの鑑賞体験になるように空間に落とし込みました。

山口俊太郎

山口俊太郎 株式会社丹青社 デザインセンター クリエイティブ&ディベロップメント局 クリエイティブ&ディベロップメントユニット ビジュアルデザイングループ グループ長/チーフクリエイティブディレクター。ジャンル問わず、PRやビジュアルデザインを担当

展示コンセプトは「関係の論理」。分断されてきた美の価値構造を結び直す

――では改めて、本展の概要についてお聞かせいただけますか?

石上:本展では、アートや工芸作品のプラットフォームであるB-OWNDが、展示全体のキュレーションとプロデュース、空間デザインを担っています。ヴェネチアの歴史的建造物パラッツォ・ベンボ(Palazzo Bembo)を会場に、日本の工芸を手がける6名のB-OWND参画アーティストと、1つのアートコレクティブ、さらに同時出展する集英社マンガアートヘリテージとコラボレートした全7室の展示を行います。

パラッツォ・ベンボの外観

会場となったパラッツォ・ベンボの外観 ©Federico Pilli

石上:東洋古来の「縁(関係)」や「空(くう)」の思想に基づいて、自然と人工、工芸とアートといった分断されてきた価値観を再接続することを提示しています。

展示コンセプトは、「Relational Logic-Beyond Dualism, a World Reconnected(関係の論理 — 二元論を超え、結び直される世界)」です。先ほどもお話した通り、西洋の価値基準と東洋の価値基準は異なるものの、作品が西洋の価値基準に当てはまらないと、アートとして価値が認められにくいという背景があります。

現状の付加価値では、西洋と東洋の美術品最高額でも大幅に違いがあるのがわかる(B-OWND資料より)

石上:例えば、工芸もクラフトと訳されると、機能が生まれますよね。すると、ファインアート(純粋芸術)ではなくアプライドアート(応用芸術)に属することになる。ただ、西洋ではファインアートが最も価値が高いとされるため、機能を持つことで価値が変わってしまうんです。

このように、「機能があるかないか」「アートか工芸か」と分断して考えられてきました。そこで、私たちはあえて分断せず、両者の関係を捉え直すことで、新たな美の価値基準を提示することをコンセプトにしました。

――今回、アートコレクティブや作家ごとに部屋をつくり、全7室の展示空間を構成したと伺いました。

山口:はい。本展では、空間全体で二元論を超える表現をつくりあげました。まずアートコレクティブでは、500年以上の歴史を持つ茶の湯に集英社マンガアートヘリテージが加わり、伝統文化とポップカルチャーが融合する。また、茶会としての空間をつくることで、ゲストを鑑賞から参加へと導くようになっています。

Room1は、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』のマンガアートとコラボレート。鑑賞と使用、伝統とポップカルチャー、ハイアートとローアートという二項対立を超えた表現を提示した
©Hirohiko Araki & LUCKY LAND COMMUNICATIONS / Shueisha Inc.(撮影:Kouki Hatano)

山口:Room7の四代目田辺竹雲斎さんの部屋では、竹による巨大なインスタレーション作品を、ヴェネチアの歴史的建築物の中で大胆に表現しています。

Room7会場写真。竹工芸家・四代目田辺竹雲斎さんの作品は、仏教的な「空(くう)」をテーマに、内と外、人と自然、過去と未来をつなぐ道を表現した(撮影:Kouki Hatano)

――作品ごとの空間づくりにおいても、何かコンセプトを決められたのですか?

上垣内:B-OWNDのポリシーを伝える空間は「Way is us」をコンセプトに設計しました。この「Way」には「道」と「方法」という2種類の意味が込められています。

山口:まずゲストを作品に導く導線として、作品を覆う膜で「Way/道」を表現しました。そして、道によって導かれた先には、各アーティストの世界観を表現した部屋があります。その展示空間から、工芸作品を「道具と芸術」として分断せずに見る「Way/方法」を感じていただける構成になっています。

会場レイアウト図

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