世界最古の美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ2026」に挑む―B-OWNDが世界に提示する美の基準とは?(後編)

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世界最古の美術展「ヴェネチア・ビエンナーレ2026」に挑む―B-OWNDが世界に提示する美の基準とは?(後編)

新たな美の評価軸のために“空間ごと輸出”する

――本展の空間デザインをする中で、どんなことを意識されましたか?

上垣内:意識していたのは、動画で撮った時にどう見えるかをイメージしてデザインすることです。普段の私たちの仕事は商業系がメインなので、静止画でデザインすることが多いです。ただ、今回は“体験設計”なので、パッと見た瞬間にインパクトが残るか、目線はどこに行くかを大切にしていました。また、瞬間的な見え方だけでなく、歩きながら作品の世界観を感じられることも意識しています。

会場の様子

――ほかに空間デザインの中で特に印象に残っていることはありますか?

山口:もちろんすべてのアーテイストの部屋が印象に残っていますが、特に印象的だったのは、B-OWNDの転機でも話が出ていた陶芸家・古賀さんの展示ですかね。石上さんとも長くお付き合いされている方なので、お互いの想いを理解されている点も多く、イメージが固まるのがすごく早かったです。

また、今回は「頬鎧盃」という展示で、鎧にも器にもなることから、二元論として伝えたいことが明確でした。

Room3会場写真。陶芸家の古賀崇洋さんの作品を展示。「わびさび」の静謐(せいひつ)さと「婆娑羅(ばさら)」の華美さを融合させた「NEO WABI-SABI」を提唱 © Matteo Losurdo

山口:鎧としての力強さをより印象づけるために、壁一面に作品を置き、正面には武将の像を据えました。さらに、左右の壁に反射させる素材を用いることで、空間に広がりを持たせ、その力強さを直観的に感じられる構成にしています。

古賀さんの部屋は本展の最初に位置するので、ここで「Way is us」としての見方をゲストに体得してもらい、その視座を持ったまま最後まで鑑賞してもらうことを意識してつくりました。

上垣内:アーテイストからも嬉しい反響がありましたよね。普段ホワイトキューブに飾られることはあっても、自分だけの部屋に飾られることはないと。Room4の酒井智也さんは「この部屋ごと持って帰りたい」とおっしゃられていて、改めて私たちは空間とのシナジーをプロデュースしているんだなと実感しました。

Room4会場の写真。陶芸家の酒井智也さんによる作品が展示された

――内外からの反響がすでに大きそうですね。一方で大変だったことはありますか?

山口:今回、空間にこだわり抜いて設計しているため、施工の難易度も高かったと思います。また、文化やスキームの違いもあり、現地の方との意識のすり合わせに時間を要する場面もありました。ですが、設計の意図を丁寧に伝えて共有することで、空間をつくり上げることができました。

石上:空間づくりのプロである丹青社がデザインを手がけたので、設計もつくりこまれていて、現地の方からは「これはモストチャレンジングプロジェクトだった」と(笑)。ただ、完成した空間を見て、「なぜこれをやりたかったのかよくわかる」と言っていただけたのは嬉しかったですね。

施工中の様子

――では、なぜ空間づくりに強みを持つ丹青社が本展に挑むのか。その意義もお聞かせいただけますか?

石上:いわゆるアートギャラリーの展示では、どうしてもホワイトキューブの中で、作品のみを見せる形式に留まりがちです。しかし、工芸作品は茶室のような空間の中で成立してきた文化があり、言葉や作品単体では本来の価値を伝えることが難しいと思います。だからこそ、現代においても空間ごと輸出して、体験してもらう必要がある。

そこで、個別に分断されていたものを接着させ、総合的に見せられる技術が丹青社が強みとする空間デザインであると言えます。また、丹青社が持つデザイン力とアートを掛け合わせることで、双方の付加価値をより高められるのではないでしょうか。

ルネサンス時代の中心地ヴェネチアで、東洋からルネサンスを起こしたい

――今後B-OWNDが丹青社にもたらす可能性はどのようなものだと思いますか?

石上:さまざまなコラボレーションを生み出せることでしょうか。B-OWNDは、これまでも永井豪先生の『マジンガーZ』や円谷英二先生の『ウルトラマン』など、ポップカルチャーと工芸作品を掛け合わせた取り組みを行ってきました。

実際に反響も大きく、伝統的な日本文化である工芸と現代を接続する役割を果たしています。また、ポップカルチャーに日本の歴史背景や文脈を付加できるなど、双方に新たな価値をもたらすことができると思います。

上垣内:あと、B-OWNDは私が15年ほど展示会設計で携わっている、グランドセイコーともコラボレーションしましたよね。すでに認知度の高い企業ですが、より広い年齢層に知ってもらうために、B-OWNDの工芸作家に同ブランドの紋章である獅子を制作してもらったんです。

グランドセイコーブティック 表参道ヒルズでの展示写真

グランドセイコーブティック 表参道ヒルズでの展示写真(撮影:株式会社 ナカサアンドパートナーズ)

上垣内:これにより、ブランドに対して多角的な訴求が可能になりました。マーケティングを動かすための手段として工芸を活用することができましたし、これからも空間とB-OWNDは密接につながっていくと思います。

――コラボレーションからさまざまな可能性が広がりそうですね。

石上:そうですね。直近だと、成田空港の4階と5階のリニューアルに伴い、B-OWNDが展示をキュレーションさせていただきました。空港は日本文化の入り口でもあり、出口です。そこで工芸を活用して、海外の方々に日本文化を提案したり、輸出していく役割をB-OWNDが担えたらいいなと考えています。

――それでは最後に、今回の展示を経て、B-OWNDの展望を教えてください。

石上:まず、東洋から新たなルネサンスを起こしたいと考えています。これまでの美の価値基準は、西洋のルネサンスを起点に形成されてきました。だからこそ、新たに世界の美の価値基準を生み出すためには、日本あるいは東洋から新しい潮流を立ち上げる必要があると思っています。その意味でも、今回の開催地であるヴェネチアには大きな意義があります。

ヴェネチアは西洋のルネサンスを象徴する街であると同時に、西洋と東洋の架け橋であり続けた街です。そこで、東洋のルネサンスを起こしたいと考えるB-OWNDが展示をする。そのことに意味があると思います。

石上:もう1つは、アートの価値、特に単価を高めていくことです。そのためには「文脈化」「流行化」「権威化」の3つが必要です。文脈化は過去の歴史を紐解き、なぜ今つくるのかを示すこと。流行化はコラボレーションやSNSなどを通じて認知を広げていくこと。この2つは7年間の取り組みで進めてきました。

そして今後は、国際展への出展などを通じて、美術館や専門的知識を持つ方からの評価を積み重ね、権威化を推進していきたいです。だからこそ、今回のヴェネチア・ビエンナーレのような、世界的な美の潮流が決定される国際展に出展することに意味がある。積極的に挑戦していくことで、B-OWNDに所属するアーティストの価値だけでなく、B-OWNDの全体の価値向上にもつなげていきたいです。

■B-OWND
https://www.b-ownd.com/

文:岡﨑量子(Playce) 写真:小野奈那子 取材・編集:石田織座(JDN)