1つの提案が議論の触媒に
――プロジェクトで最も印象的だった出来事やターニングポイントはありますか?
松本彩瑛さん(以下、松本):私は2023年4月頃から本格的に参画し、3〜4時間におよぶ定例会議にも毎週のように参加するようになりました。普段は内装に関わるプロジェクトが中心だったため、建築・外構・植栽に関する専門用語は未知の世界でした。

松本彩瑛 株式会社丹青社 関西支店 営業統括部 営業1部 2課
松本:1番難関だったのは8階エリアのデザインです。巡りやすさや象徴性を追求する中で、なかなか決めきれず壁にぶつかってしまいました。その際に渡辺さんがあえて思い切った提案をしてくださり、それが触媒となって全員の士気が上がり、これまで以上に8階エリアに向き合い、熟考し切ることができました。最終的に自然を主役に据えた居心地の良い滞在空間へと再設計されました。

8階には緑の丘が誕生。多くの人が思い思いに過ごしている photo:KOUKI HATANO
松本:今回は本当に難関なプロジェクトだったので、営業・設計・制作の3職種で何度も調整を重ねました。そしてチームのみなさんにも何度も助けられながら進めていくことができました。
最終的には「愛情を持って作り上げられた」と全員が実感できるプロジェクトになりました。オープン直前に寺田さんがテナントスタッフさん向けにリニューアルの魅力を伝える手描きポスターを作成されたのを見た時は、みんなの涙腺が緩むほど感動しました。

期待を上回る、既存の植物を尊重する提案
万井:私はプロジェクトの全体ディレクションを担っていました。まず20年以上前にパークスガーデンのような企画が通るのが凄いなと思ったんですよ。いい意味での“常識破り”を感じていました。このプロジェクトは長期の視点で考える計画として、オープン時点を完成とはせず、植物が成長してこそ完成するという思想を強く意識しました。
アンコントロール(コントロールしきれない自然の部分)をあえて許容し、主役は植物とガーデナーさんたちである。商業施設の華やかさと自然の静けさは相反する要素ですが、長期視点で価値を高めていく道を選べたことは意義のある選択だったと感じています。大阪・なんば地区がさらに発展していく中で、「飾りではない本物の森」として、鳥や虫を含む生態系が際立つ存在になるはずです。

photo:KOUKI HATANO
渡辺:当初、これまで植物に携わってきてくださったガーデナーさんたちと、新たにプロジェクトに参画いただいた丹青社さんとの間では、寺田が重要な結節点となってくれました。
また、丹青社さんが会議の席を工夫して距離が近づく形にしたり、ガーデンツアーに積極的に参加したりする中で、ガーデナーさんの声を最優先に据える姿勢を徹底してくれたんですよ。ワードキューブ(自然の魅力を言語化したツール)でガーデナーの生の言葉を可視化したり、ずっと三者が近い距離でリニューアルプロジェクトに取り組めたのが本当によかったですね。
万井:リニューアルプロジェクトに携わる際は、既存の良さを活用しながらプロジェクトを進めることを心がけています。どの施設にも必ずどこかにチャーミングな魅力があって、そこを正確に見出すことがリニューアルをする際は大事だと思っています。

ガーデン内に生息している生き物についてもサインで案内
寺田:これまで仕事をする上で、業務を協力会社さまに発注する際は決して丸投げをせずに、自分たちが考え抜くことを教わってきました。ですが、このプロジェクトでは自分たち以上に、丹青社のみなさんが植物をはじめ、ガーデンのことを一生懸命に考えてきてくれてとても感動しました。真剣に向き合ってくださるプロフェッショナルな姿勢と誠実さに感銘を受けました。

寺田:また、2階のエントランスアーチの既存樹木移設は、特に印象深い出来事でした。長年育ってきた木を抜くという苦渋の判断を迫られ、その瞬間にガーデナーさんが泣いている姿を見て、私たちも思わず涙をこぼしました。あの出来事をきっかけに、「残して育む」というポリシーをプロジェクト全体で徹底するようになって、以降の設計・施工では、既存の植物を尊重する姿勢がより強くなりました。
最終的にリニューアルプロジェクトの日々を振り返ると、みなさんと基本計画の段階でとことん議論を尽くしたことで、全体骨子と各ゾーンのあるべき像が終始ぶれなかったことが成功の鍵だったように思います。だからこそ丹青社さんの提案は、毎回の定例で意図から大きくはずれるプランはありませんでした。それどころか期待を一回りも二回りも上回る提案の数々が印象的で、いつも資料のページをめくるのが楽しみでした。
「神は細部に宿る」を体現したプロの仕事
大嶋美香さん(以下、大嶋):リニューアルの話があった際、実は「木を抜く報告ばかりが来るのではないか」と少し身構え、植物目線で厳しめに意見を述べさせていただいたこともありました。しかし、毎回の打ち合わせで丹青社さんが丁寧に私の言葉に耳を傾け、ガーデナー各自の“推しポイント”のメッセージまでサインやリボンに反映してもらえました。

大嶋美香 パークスガーデン事務局(現:南海ビルサービス株式会社)/ガーデナー
大嶋:個人的な植物への愛着まで聞いてもらい、「こんなに現場の声を聞いてくれるなんて」と本当に感謝しています。他のガーデナー仲間約10名分の声も集め、季節ごとのメッセージとして取り入れていただきました。時にはデザイナーさんの意見とぶつかる場面もありましたが、必ずフォローしてくださり、信頼関係が少しずつ築かれていきました。

ガーデン内には今もっとも美しい姿で生育している旬の植物に気づいてもらえるように、ガーデナーさんが毎日目印のリボンを結んでいる
山崎:ガーデナーさんたちの思いや、植物への理解を深めることはとても重要なことだと感じていました。なので、何度もガーデナーさんと対話をして理解を深めていきました。大嶋さんもデザイナー側の思いをどうにか吸収できるように、いろんな場面で工夫してくださいました。
渡辺:山崎さんの細部までのこだわりがすごく、サイン計画では、鳥のくちばしの形1つとっても納得いくまで修正し、緑の色選びでは微妙な差のある50種類近くの中からガーデナーさんが好みを選ぶなど……。英語翻訳では、イギリス英語とアメリカ英語を実際に母語話者に確認してもらい、自然に伝わる表現を何度も調整し、ガーデナーさんが伝えたい思いを表現するために言葉の選び方やつなぎ方に徹底的にこだわりました。
また、制作担当の方が「ここが納得いかない」と何度も作り直す姿も見られました。「神は細部に宿る」という言葉がありますが、この言葉がプロジェクトを象徴していると思います。

こだわり抜いたサインが出迎える3階ガーデン photo:KOUKI HATANO
シーズン2・3と続く「本物の森」の価値
――今後の展望をお聞かせください。
万井:このプロジェクトは今回で終わるものではなく、シーズン2、シーズン3へと段階的に続いていくことに期待したいです。小さなサインの追加や、五感を刺激する仕掛けの拡充、ガーデナー個々が持つ季節ごとのメッセージ・見頃情報・生態系の案内を定期的に更新したいですね。
また、植物の成長フェーズを見据えたレビューとマイルストーンの設定も重要です。三者合同の定例会議やガーデンツアーなどを継続し、築かれた信頼関係を基盤に価値を最大化していけると嬉しいです。

渡辺:これを商業施設だけの一取組みとして扱うのではなく、開業時や今回のリニューアルに込めた本質的な想いの部分を、パークスガーデンをフックにNANKAIグループ全体の企業姿勢としてブランディングできるとより良いと感じています。植物は「植えたら終わり」ではなく、そこからが本当のスタートです。定期的なブラッシュアップを通じて、長く来館者に愛される価値を創出していきたいと思います。
商業性とネイチャーの両立、設計思想の転換、関係者それぞれが抱えた感情的負荷……すべてを乗り越えてきた経験を活かし、訪れるすべての人に「良い裏切り」を届ける空間として、パークスガーデンはこれからも進化を続けます。
三者(NANKAI・ガーデナー・丹青社)の深い信頼関係と、細部への妥協のない姿勢が、単なる緑地ではなく、生き続け、育ち続ける“都心の杜”へと変えていった今回のリニューアルプロジェクト。
何気なく過ごす日常や風景に息吹を吹き込むために、熱量と汗と涙を込めて作り上げようとするビジネスパーソンたちが確かにいると気づかせてくれるインタビューでした。

■株式会社丹青社
https://www.tanseisha.co.jp/
■なんばパークスガーデン
https://nambaparks.com/garden
取材・文:ジャスト日本 インタビュー撮影:里永愛 メイン画像:KOUKI HATANO 編集:岩渕真理子(JDN)
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