デザインの立ち話-剥がせる接着剤「LOOPGLUE」がデザインする循環

デザインの立ち話-剥がせる接着剤「LOOPGLUE」がデザインする循環

こんにちは、山崎です。先日、we+の安藤北斗さんからご案内いただき、ある発表会に参加してきました。内容は「剥がせる接着剤」という興味深いもの。くっつけるのが接着剤なのに、剥がせるって何…?と、思いませんか。

接着剤といえば、小学生の頃のプラモデル作りを思い出します。当時まだスナップフィット(はめ込み式)は一般的ではなく、一つひとつのパーツを接着剤でくっつけていました。瞬間接着剤ではないので、やり直しはできます。ただ合わせ面が汚くなり元には戻らないので、「接着剤を塗る前の状態に戻したい!」という失敗が時々あったのを覚えています。

剥がせる接着剤とは、私のような不器用者を救ってくれるものなのかな?とイメージしながら、会場に向かいました。

水で剥がせる海藻由来の接着剤

発表された「LOOPGLUE(ループグルー)」は、強固な接着性と、水による容易な分解・剥離性を両立した海藻由来の接着剤です。対象は紙・段ボール、木材、石膏ボードなどの多孔質物質。残念ながらプラモデルには使えません。では何に使うのか?というと、おもに展示会での木工パネルへのシート貼りが想定されています。

LOOPGLUE、記者発表時のパッケージやロゴ

LOOPGLUE、記者発表時のパッケージやロゴ

展示関係者には説明不要ですが、短期展示の壁面などは「サブロク(3×6尺)」「シハチ(4×8尺)」などと呼ばれる基本サイズの木工パネルを組み合わせて作られることが多く、表面にグラフィックを出力したシートを貼って仕上げます。

木工パネルは何回かリユースされますが、そのためには接着剤で貼ってあるシートを剥がす作業が必要で、普通の接着剤だと相応な手間がかかり、必ずしもきれいに剥がせません。しかしこの「LOOPGLUE」の場合、なんと“水に濡らすだけ”でペラっときれいに簡単に剥がせるのです。

通常の接着剤で剥がした状況

LOOPGLUEで剥がしている様子

LOOPGLUEで剥がしている様子

JDN在籍時、デザインコンテストの表彰式で展示の制作をしたこともありますが、正直なところ接着剤のことまでは考えていませんでした。発表会で「LOOPGLUE」の開発に関わったwe+、博展、セメダインの3社からの説明を聞き、剥がせる接着剤の革新性がよくわかりました。さらにすごいなと感心したことが2つあります。

共創で生まれ、ビジネスモデルを構築。社会実装へのリアルな裏付け

「LOOPGLUE」が生まれたきっかけは、海洋問題に取り組む一般社団法人3710Lab(みなとラボ)が主催した2023年の「第二回 国際海洋環境デザイン会議」でした。その展示の会場構成をwe+、施工を博展が担当。

廃棄物の削減と再利用を目指すとともに、海洋資源活用の可能性を探るディスカッションも行われました。そこで交わされた「海藻から接着剤ができるのではないか?」という会話が出発点です。

LOOPGLUEの原料となる海藻は、生態系への影響を抑えるため、自然のライフサイクルを終えて海岸に漂着したもののみを採取している

それからwe+と博展で研究や実験を進めていき、海藻による接着剤の実現可能性が煮詰まった段階で、社会実装するには製造のプロが必要と考え、セメダインに相談したそうです。

LOOPGLUE(黒い棒グラフ)と既存の接着剤の接着力の比較、遜色ない結果がでている

新規事業や新規商材の立ち上げで難しいことの一つは、ファーストカスタマーを見つけることですが、このプロジェクトには展示を専門とする博展がいて、初期段階の需要と実証を担保しています。そして、製造面でもセメダインという強力なパートナーを見つけることができました。1社だけだとこうはいかず、共創ならではと言えるでしょう。

デザインを起点とする新規提案は数多く見てきましたが、製造の安定性や商流、収益化の仕組み(ビジネスモデル)の構築でつまずくケースが少なくありません。「LOOPGLUE」は最初のこれらのステップがひとまずクリアできていて、今後のさらなる広がりに期待が持てます。

分解することを想定し、資源の循環をデザイン

そして、もうひとつ、we+が何をデザインしたか、ということです。接着剤という言葉だけを聞くと、プロダクトのデザインなのかな?とも思いますが、そうではありません。we+が担当したのは、博展とともにプロジェクトを始めたこと。

そして、海藻を研究し、その成分に着目し博展とともに剥離できる接着剤の可能性を追求した一連の調査や商品開発の工程です。

LOOPGLUE記者発表は、博展オフィスにて、we+、博展、セメダインの3社による開発プロセスの展示と共に開催された

ただ、こうした説明だけでは、その本質が見えてこないように思います。重要なのは、ものを作り、その後、それを分解して、資源として循環させるサーキュラーエコノミーを実現しようとしていること。そのための手段を作り、それを用いた仕組みを構築しようとしていること、これこそが「LOOPGLUE」の価値なのではないかと思います。

安藤さんにもくわしくお話を聞きました。

we+の安藤北斗さん、we+のオフィスにて

安藤:実は「接着剤をデザインしよう」と、最初から決めていたわけじゃないんです。海藻のリサーチをしていて「これ、面白いかも」と素材に触れていました。その後、偶然に同級生がセメダインの担当者だったことが転機になりました。そこから「接着剤っていう道具そのものをデザインしてもいいんじゃない?」という話に繋がって。

今まで僕らは、「成果物」をデザインしてきました。でも今回、接着剤という「副資材」に向き合って気づいたのは、もっと本質的な部分でした。デザイナーって、完成品だけじゃなくて、ものづくりのプロセスや仕組み、グランドデザインと呼ばれる領域から作れるんだ、って。接着剤に取り組んだことで、デザインできる範囲がグッと広がった手応えがあります。

LOOPGLUE

安藤:次は建築資材やリフォーム市場など、もっと素材の深部に入り込んでいきたいですね。素材の内部構造からデザイナーの視点でコントロールできれば、今までになかった価値が作れるはずですから。

あと、このプロジェクトが爆速で進んだのは、関わった3社の関係性があったからこそです。セメダインさん、博展さんという信頼できるチームと、友人関係や現場での繋がりがベースにあったから、複雑な調整抜きで突っ走れた。この成功体験は自信になりましたし、次はもっと生活の根っこを変えるような「副資材のデザイン」に挑戦していきたいですね。

資源の使い道や仕組みを根本から見直す「Rethink」を実現する「LOOPGLUE」

資源を循環させ、環境負荷低減と経済成長の両立を目指すサーキュラーエコノミー。その文脈で「Rラダー」という言葉が使われます。サーキュラーエコノミーを実現する優先順位をRecycleなどのRから始まるキーワードで示したもので、たとえば10段階だと「10R」と呼びます。

ゴミを燃やして熱を活用したりリサイクルすることは、Rラダーだと最終手段に位置付けられています。少し驚きませんか?

一方で「LOOPGLUE」は、Rラダーにおいて優先順位が2番目に高い「Rethink(資源の使い道や仕組みを根本から見直す)」を体現しています。「何を作るか」だけでなく「どう壊し、循環させるか」までをデザインしたそのあり方は、私のプラモデルの失敗談に留まらず、ものづくりのプロセスを根本から問い直す「Rethink」の視点そのものだと思います。

Rethinkの実現は簡単なことではないと思いますが、「LOOPGLUE」はその一例を鮮やかに提示しています。今後の発展に期待ですね。ではまた。

※「サーキュラーエコノミー」「Rラダー」「10R」については、別のメディアで書いた記事でまとめているので、よろしければご覧ください

【関連サイト】
LOOPGLUE we+
https://weplus.jp/ja/work/loopglue/
LOOPGLUE 博展
https://www.hakuten.co.jp/works/loopglue
LOOPGLUE セメダイン
https://www.cemedine.co.jp/company/news/a409ss0000001s8v.html
みなとラボ 3710Lab.
https://3710lab.com/contents/10112/

山崎泰

山崎泰

丹青社「場と人」編集長・ジャーナリスト。丹青研究所で商業施設の調査・企画に携わった後、1997年に丹青社の社内新規事業「Japan Design Net(JDN)」創業に参加。メディア「JDN」「登竜門」の編集長、コンテスト制作の事業化を経て2011年にJDN取締役。2025年、丹青社に移籍。デザインに関する取材執筆多数。

丹青社「場と人」
https://batohito.tanseisha.co.jp/