近年、台湾では「台湾デザインウィーク」が開催されるなど、デザインを軸にさまざまな活動が活発に行われ、JDNでもレポート記事で取り上げました。
今回は、台湾南部の台南と高雄に多く点在するレトロな風貌の建物に着目。100年近い歴史を持つこれらの建物の中には、当時の姿を残したまま営業を続ける店舗もあれば、現代的なセンスでリノベーションされ、カフェやショップとして活用されている場所もあります。
本記事では、注目の4つの建築をピックアップし、建物の歴史と現在の使われ方をご紹介します。
銀月書店 Moonlight Books
「銀月書店 Moonlight Books」は2025年、建物の2階にオープンしたコーヒーと本を掛け合わせた複合式書店。店内には人文・芸術を中心に選ばれた書籍が並びます。
系列店舗である台北の「浮光書店」「春秋書店」「風景書店」で培ってきた運営理念を受け継ぎながら、「正工設計」と協働して誕生。長年にわたり磨き上げてきた選書のセンスと空間づくりの美学が落とし込まれています。

写真提供:銀月書店 Moonlight Books
「銀月書店 Moonlight Books」が入店している建物は、昭和時期(台湾では日本統治時代)の1930年に完成し、まもなく築100年を迎えます。和洋折衷の建築様式が特徴的で、外観には西洋のアール・デコ様式が取り入れられている。

「銀月書店 Moonlight Books」が入る建物外観
かつてこの一帯は「台南銀座」と呼ばれ、ハイカラなエリアとして賑わいを見せていました。そしてこの建物には「五福商店」という輸入雑貨デパートが店を構えており、店内には、当時としては先進的だった日本や欧米からの輸入品が数多く並んでいたとのこと。
現在のファサードには創建当時の姿が色濃く残されており、正面に掲げられた「福」や「GOFUKUSHOTEN」の文字からは当時の様子を垣間見ることができます。歴史的建築物の修復プロジェクトとして、オーナー一家と行政の協力のもと整備が進められ、数年に渡る修復を経て現在の姿へと生まれ変わりました。
外観でもっとも目を引くポイントは、屋上に並ぶ3つの切妻装飾。美しい曲線のシルエットや、草花やタッセルをモチーフにした繊細な装飾が、見る人に異国情緒を感じさせます。さらに、3階部分に設置されたアーチ形の窓枠が建物全体に柔らかい印象を与えてくれます。古き良き台南の趣と現代的なエッセンスが巧みに融合したこの建築は、台南の新たなランドマークとして注目を集めています。

写真提供:銀月書店 Moonlight Books
店内は落ち着きのあるダークブラウンを基調に統一され、昭和レトロな様相。大きな窓から太陽光がたっぷりと差し込み、明るく開放的な空間を演出しています。広いスペースを贅沢に使ったカフェスペースでは、コーヒーの香りを嗜みながらゆったりとした時間に浸ることができます。

文学ブレンドコーヒー「フランツ・カフカ(黒ブドウ・ブルーベリー風味)中煎り」。ほのかな酸味があり、暑い日に飲みたくなるすっきりとした後味が特徴の一杯だ
住所:台南市中西區中正路126號2樓, 700
営業時間:11:30~20:00(座席は時間無制限)
定休日:年中無休(旧正月期間のみ3日間休業)
https://www.instagram.com/moonlightbooks.tainan
PEKO PEKO ぺコぺコ早午食
昔ながらの風情を大切にする台南では、台湾の他都市と異なり、細い道が張り巡らされています。ブランチレストラン「PEKO PEKO ぺコぺコ早午食」も、路地裏に佇む隠れ家スポット。店内には時の流れを思わせるランプや旧型テレビが配置され、古き良き台南の趣が感じられます。

写真提供:PEKO PEKO ぺコぺコ早午食
こちらのブランチカフェは、もともと古民家だった建物をリノベーションし、2017年にオープン。改装前は独特の廃れた雰囲気が漂っていましたが、現在は温かく親しみやすい空間へと再生されています。日本人目線では、台湾の古い建造物によく見られるむき出しになった床のタイルが珍しく感じられるのではないでしょうか。
オーナーによると、1階の木製棚は古民家から引き継いだもので、丁寧に修理と塗装を施した上で、今は思い出の品を並べる棚として使っているそうです。カフェの営業と一緒にたくさんの時間を過ごしてきた大切なスペース。また、「古い建物は何かとメンテナンスが大変ですが、これからもこの空間の美しさをお客さまに感じてもらえることを願っています」と話してくれました。
建物の歴史を語るパーツとして注目したいのが、お店の入り口に敷かれているタイルの床。長年の雨風や人の出入りによって傷んでいるため破損しやすいですが、その都度できるだけ元の形に貼り合わせて修復を行っています。タイル自体を作り直せないため、割れるたびに惜しい気持ちになるのだそうです。

お店の入り口 写真提供:PEKO PEKO ぺコぺコ早午食
一方、店内の床に広がるタイルはほとんどが破損の少ない状態を保っています。地震のダメージにより多少のひび割れは見られますが、幾度となく手入れや交換を行ってきた配管や電化製品と比べると、これらのタイルは美しさと耐久性を兼ね備えたパーツといえます。

写真提供:PEKO PEKO ぺコぺコ早午食
「PEKO PEKO ぺコぺコ早午食」では、コーヒーや台湾茶、ブランチ、スイーツを提供。「ペコペコ」という店名は、オーナーが日本語を勉強していた際に、空腹でお腹が鳴る様子を表すこの言葉を面白いと感じ、名付けました。お腹をペコペコにした人たちが、お店を訪れてお腹いっぱいになって満ち足りた気持ちで過ごしてほしいという想いも込められています。

トリュフとポルチーニのキッシュプレートと、キンモクセイの金萱茶。サイズが大きくて食べ応えのあるキッシュは、ワンプレートでかなり満腹に
住所:台南市中西區民生路一段132巷5號, 700
営業時間:9:30~16:00(食事の提供は15:00まで。売切れ次第終了)
定休日:水曜日(臨時定休日はInstagramまたはFacebookを参照)
https://www.instagram.com/peko_peko_cafe/
銀座聚場
台湾南部最大の都市、高雄の塩埕区にある「銀座聚場」は、2020年に誕生した複合施設。1〜2階はカフェ、3〜5階は最大8人まで宿泊可能な一棟貸しの民宿として運営されています。リノベーションの設計は、塩埕エリアで長年活動を続けてきた「一起設計」との協働によって行われました。

店舗正面 写真提供:銀座聚場
日本統治時代である1936年に竣工されたこの建物は、東京・秋葉原の銀座商店街を参考に作られた商店街「高雄銀座」の中に位置します。このエリアは港から近いため、人や物が行き交い、当時は喫茶店やバー、劇場、商店、書店、浴場などが集まる最先端のエリアとして栄えていました。商店街の中には日本人経営のお店が多く並んでいたようです。
その後、戦争による被害や、衰退、再開発を経て現在に至ります。近年は一部の店舗がリノベーションされ、商店街の歴史を活かした新たな魅力を模索しています。散歩をしてみると意外な発見があるかもしれません。

商店街の様子 写真提供:銀座聚場
「銀座聚場」のお店に入ってまず目に入る段差のある空間は、人々が集まって交流する場として「浴場のような空間」をイメージしてデザインされたバーカウンター。下に降りるとまるで湯船に入っているような感覚になります。

1階の座席 写真提供:銀座聚場
民宿部分の入口にあたる3階は、かつて美容院の見習いたちが宿泊する女子寮として使われていました。中でもピンク色の洗面台は保存状態がとても良く、当時からあまり手を加えていないそうです。実はこの洗面台、通常よりも幅の広い設計。見習いたちはここでお互いに洗髪技術を磨いていたのかもしれません。

3階の洗面台 写真提供:銀座聚場
古い家具や部品を活かしてリノベーションされた「銀座聚場」には、当時の暮らしを感じさせるクラシックな雰囲気が漂います。1人でも仲間とでも、時間がゆったりと流れる温もりのあるひとときを過ごせる場所です。

1〜2階のカフェでは、ドリンクや特製スイーツを提供。写真は、クリーミーブラックとキャラメルアールグレイプリン。プリンは滑らかな舌触りで、一口食べると香りが広がる
住所:高雄市鹽埕區鹽埕區五福四路260巷8號 803
■カフェ(1〜2階)
営業時間:13:00~19:00
定休日:月〜木(臨時定休日はInstagramを参照)
■民宿(3〜5階)
一棟貸しの民泊として運営。1〜8名が宿泊可能。
https://www.instagram.com/takaoginza.38
全美戲院
最後は、特色ある建物として人々に愛されてきたレトロ建築を紹介します。外壁にびっしりと設置された手描き映画看板で知られる「全美戲院」。前身となる映画館がこの地で営業をスタートしたのは1950年のこと。1971年には再上映映画館に転身し、現在の全美戲院として再出発しました。
映画のほかに演説や演劇の舞台としても利用され、長きにわたり台南人の娯楽シーンを支えてきました。人々の思い出を彩る場所、そして貴重な歴史的建築物として重視されており、建物とともにその記憶や文化を大切に守り続けています。

「全美戲院」外観
建物には日本統治時代の鉄筋コンクリート技術が使われています。設計はフランス人設計士によるもので、当時のヨーロッパで歌劇院などに使用されていたアール・デコ様式に基づいています。ファサードは、中央が幅広く両側をやや狭くしたシンメトリー設計で、当時の建築シーンにおける美意識がうかがえます。また、1階部分に設置された大きな庇(ひさし)は、古写真をもとに復元されたそうです。
外壁のディテールが楽しめるのもこの建物の魅力の1つ。左右のアーチ窓の脇にはタツノオトシゴやコウモリのレリーフがあしらわれ、随所に菱形の装飾も見られるなど、アール・デコ様式のこだわりが色濃く反映されています。

タツノオトシゴのレリーフ
幼い頃からこの土地に親しみ、時代の流れを辿ってきたという2代目責任者の吳俊漢さんに、建物の中で最も魅力を感じる場所をうかがいました。彼は「ある一部分だけではなく、高さや幅、空間の比率など、あらゆる要素が組み合わさって生まれた全体的なバランスがこの建築における美学だと考えています。人間と同じように、1つのパーツだけでなく、全体の調和がその人の魅力になるんです」と語っていました。
この建物は現在までの間に大規模なリノベーションは行われておらず、開院当時の姿を守り続けています。つまり、一般的な意味でのリノベーション建築ではないものの、そのあり方は、リノベーションの本質を浮かび上がらせています。
リノベーションとは、単に建物を物理的・視覚的に美しく整えることだけではありません。既存の建築に刻まれてきた歴史を尊重しながら、時代の変化に応じた視点で残すもの、残さないものを選択するプロセス、つまり建物の価値を改めて読み直す行為ではないでしょうか。時代の記憶が染みついた全美戲院は、今もなお変化を重ねながら、訪れる人々を惹きつけています。

「全美戲院」館内

劇場
全美戲院は、2024年公開の日台共同制作映画『青春18×2 君へと続く道』にも登場しており、台南を訪れるなら外せない観光スポットとして日本人観光客にも高い人気を誇っています。館内では映画にちなんだポストカードを購入することができ、お土産を選ぶのにもぴったりの場所です。

館内の売店
新しさと懐かしさが共存する台南と高雄の建築は、単なる古い建物の再利用にとどまらず、その土地の歴史や人々の営みを今の時代へと繋ぐ存在です。次に台湾を訪れる際は、少し視点を変えてレトロな建物に目を向けてみると、観光地を巡るだけでは気づけない魅力に出会えるかもしれません。
参考資料:
『大井頭放電影:臺南全美戲院』(2021) 王振愷 遠足文化事業股份有限公司出版
『台南街屋』(2020) 城邦文化事業股份有限公司 尖端出版
『銀月書店:台南五福商店百年建築,在古蹟裡讀書喝咖啡』關於昆妮的奇幻之旅
取材・執筆・撮影:竹田歩未 現地案内人:易軒 編集:岩渕真理子(JDN)




