スタートアップの美意識を生む、カルチャーのデザインとは?:第6回「みんなでクリエイティブナイト」

第6回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(後編)

スタートアップの美意識を生む、カルチャーのデザインとは?:第6回「みんなでクリエイティブナイト」

美意識が、コモディティ化するデザインに差を生み出す

石川:また、ユーザーと社員の垣根がほとんどない状態が正しいのではないかと思っています。パタゴニアなどのブランドはそうだと思いますが、社員がお客さんと同じように会社の製品を愛している。どうやったらそんな状態を設計できるんだろうと考えると、大事なのは、売れる商品をつくることはもちろん、会社として恥ずかしいことをしていないかなんです。会社のデザインを、商品と同じようにきちんとやれているのかという、その両輪で考えることが大事なんじゃないかなと思いますね。とても難しいことですが。

西澤:難しいですね。特にスタートアップはスケールさせていくことがモチベーションの経営者も多いですし、そこに資金調達も絡んでくるので。

石川:でも、テスラに投資家が集まっている理由は、会社の存在意義そのものにお金が集まっているということだと思っていて。多くの人がテスラを買う理由は、車のデザインよりもテスラという企業が目指す先にわくわくしている。そう思える状態をデザインできているのが肝だと思うんです。

D2Cブランドは、デジタルが強いというよりストーリーがしっかりした会社だと思うんですよね。「Allbirds」などのブランドは、そこがすごくおもしろい。お金の集め方も変わってきていて、会社が差別化できていて、どのくらいの市場を狙えるかだけじゃなく、どんなミッションでやっているのかがセットになることで、はじめてお金も集まるし、適正な規模にスケールしていくんじゃないかなと思いますね。

これからは、美意識が会社をやる上で重要になってくると思います。会社やブランドをつくるにあたって、どんな美意識を持っているのかということが、もしかしたらブランドを差別化することになるかもしれません。

なぜかというと、機能で選ぶ時代がある程度終わってしまったからなんですね。いまや冷蔵庫やオーブンレンジにはすごい機能がついていますが、実際に使っているのは冷やすことと温めるという機能だけで。その時に、商品を選ぶ基準として、その会社の人が幸せかどうかが理由としてあると思うんです。僕は幸せな人を増やしたいと思っているので、美意識がない会社は、今後なかなかサバイブできない気がしていますね。

西澤:「美意識」というキーワードがあがりましたが、言葉としてはやや重めのものなので、美意識とはなにかについてきちんと理解してないと、それが会社の役に立つものとして、カルチャーに落とし込めないんじゃないかなと思います。特にデザインやクリエイティブの力で組織をつくる時には、美意識という言葉を使いたくなるんですけども、そのまま言ってしまうともやっとしてしまうような気がして。お仕事をされる中で、会社の中に美意識を浸透させるためにどのようなことをしていますか?

石川:僕は、美意識にはふたつの意味があると思っていて。ひとつは、自分はここは譲れないという思想のようなもの。

西澤:単に美しい、美しくないという話ではないですよね。

石川:見た目だけじゃなくて、「自分はこれを大事だと思っている」ということも、ひとつの美意識だと思うんです。個人として持っている、譲れない価値観のようなもの。

もうひとつは、グラフィックやパッケージ、UI、そしてUXといった体験のデザインを、本当にやり切っているのかということです。いまは、なんとなくそこそこのものをみんながつくることができる。でも、僕はデザイナーとして活動してきて、文化がすごく大事だなと思っているので、歴史的な文脈の中での自分なりの新しい表現ができてこそ、愛されるものが生まれると思うんですね。

西澤:考え方からかたちまでの一貫性ということですよね。

石川:みなさんも使っているAppleのラップトップはアルミを削ることでつくられていますが、もともとメーカーにいた人間からすると、普通はこんなことしないですよね。なぜこんなに効率の悪いことをしているかというと、もう美意識以外にはないんです。

西澤:そうですよね、削る意味がわからないですよね(笑)。

石川:経営に対する美意識が、思想からものまで一気通貫している。そういったことは、日本の企業もやってきたと思うんです。

西澤:佐々木さん、いかがですか。

佐々木:僕は、最近デザインがロジカル主義になりすぎているなと感じていて。前よりも簡単にそれなりのものをみんながつくれるようになったので、理屈やロジックのコモディティ化が起きている。それに、「もの」から「こと」へといった、誰もがUXや体験の価値を重視するようになってきていて、意匠よりも体験のデザインが語られるようになり、そこにもフレームワークがあるので、差がなくなってきていますよね。

石川:まさに。

佐々木:さらに言うと、ストーリーもコモディティ化しつつあります。共感されるストーリーのフレームができつつある。

西澤:ストーリーも、テンプレ化してきていると。

佐々木:そうです。美意識は、デザイナーがプロフェッショナルとしてもがく中で生み出した、素人にはつくれないものだと思うんです。自分だけの狭い視野の中でただがむしゃらに頑張るんじゃなくて、歴史をきちんと勉強して、教養を身につけた上でデザイナーとしてもがいていく。それこそがAIにできないものをつくるための、最後の砦だと思うんですよね。

おそらく10年後には、ワンクリックでAIがそれっぽいものをつくれてしまうと思うんですよ、残念ながら。でも、最後は人間のみぞもつ美意識や、繊細な感覚が大事になると思っています。人に感動を与えているものは、簡単にはつくれないので。

石川:コロナ禍で、よりそうなっていく感じはしますよね。生活に余白ができたことで、考えたり、感じたりする時間が増えて、質に気がつく人が増えているんじゃないかな。

スタートアップにとってのデザインの役割とは?

西澤:最後は恒例の質問として、今回のテーマ「スタートアップとデザイン」の肝となる一言をいただいこうかと思います。

では、言い出しっぺの僕からお話します。僕の場合は、スタートアップだけじゃなく、大企業から中小企業まで幅広くお仕事させていただいていますが、ブランディングデザインとは、「約束と生き様」だとよくお話ししているんですね。そして、スタートアップこそそれが顕著だと思っています。

このサービスでなにがしたいのかを、社長は投資家や社員、そしてお客様に約束するわけです。そして、スタートアップには投資家も含めていろいろな人が集まるので、一緒にビジネスを走っていく上で、いかに生き様を示すことができるかが重要なんじゃないかなと。中小企業のブランディングと違うところは、その時間軸かも。スピード感がある分、よりどんな思いがあり、なにをするのかということをシンプルに突き詰めていくことが大事だと思います。

佐々木:僕は、スタートアップにとってのデザインとは筋肉みたいなものだと思います。筋肉は、多かろうが少なかろうが生きていけますよね。会社を人間の身体にたとえると、骨はエンジニアリングで、血液はお金にあたるのかもしれません。筋肉は鍛えれば鍛えるほど足が速くなって、重いもの持ち上げられて人助けができるのと同じように、デザインは誰かとコミュニケートすることや、つながりを生み出すことに寄与できる。そこをおざなりにしても成立はするんですが、もっと多くの人を幸せにして、共感してもらうためには、すごく大切なことだと思います。

西澤:筋肉。おもしろいたとえですね。それでは、石川さんに締めてもらいましょうか。

石川:考えれば考えるほど難しいですが、想像力と創造力、そしてコラボレーションの三つが肝なのかなと思います。想像力は、大切な人を思うような気持ちをみんなに対して抱けるのかということや、未来に思いを馳せる気持ちの解像度の高さ。まずはそれがないと、なにかをつくろうとしないと思うんですよね。市場規模などが理由ではないスタートアップにおいては、よりそうあるべきだと思うんです。

でも、いくら思いを馳せたところでかたちにできないと意味がないので、それをつくるための創造力が必要になる。そして、チームやメンバー同士のコラボレーションが成立するカルチャーを育むことが大切だと思うんです。カルチャーは、同じものを信じることができて、同じ方向性でもの感じるために必要で、それがないとずれてしまう。なんとなくミッションは合っていても、実はビジョンが違っていたということもよくあるので。

西澤:実感がこもっている話ですね。これからも「スタートアップとデザイン」というテーマはもっと深堀りしたいなと思っているので、また今後ともよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

写真:服部冴佳(エイトブランディングデザイン) 文・編集:堀合俊博(JDN)

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【次回で最終回!】

2019年8月2日の第1回目開催より、2年半にわたって実施してきた「みんなでクリエイティブナイト」ですが、次回の開催で最終回となります。

本イベントのフィナーレとなる第9回目は「ブランディングとデザイン」をテーマに、日本のブランディングデザインを代表するおふたりの仕事を振り返りながら、今後のブランディングデザインの可能性について、宮田さんと西澤さんに語り合っていただきます。

また、今回も登壇者への質問を事前に受け付けています。トークセッションのトピックとして取り上げさせていただきますので、ぜひ質問をお寄せください!

質問投稿フォームはこちら:https://forms.gle/9UzW4vX3EjW7HCBS8

※質問受付締め切り:1月31日(月)

■開催概要

第9回テーマ:「ブランディングとデザイン」

開催日時:2月1日(火)18:00~19:30

会場:YouTube Liveにてオンラインでの開催

参加費:無料
申
込:リンク先より詳細をご確認ください
https://www.8brandingdesign.com/event/contents/creative-night/minna09/