2026年3月28日、京都市内のカフェ・スペース「FabCafe Kyoto」にてグッドデザイン・ニューホープ賞セミナーが開催されました。
「デザインを学んでいても、就職してどう仕事に活かせるのか」「デザイナーという仕事において大切なことを知りたい」「ひとりの社会人として、先輩デザイナーの話を進路の参考にしたい」。そんな悩みを抱える30名ほどの学生や若きクリエイターらを前に、3人のデザイナーが自身の過去の経験や、仕事に対する姿勢や大切にしていることなどについて語りました。

登壇したのは、会社員として株式会社ジャクエツに勤務する遊具デザイナー・田嶋宏行さん、JIN KURAMOTO STUDIO代表のプロダクトデザイナー・倉本仁さん、UMA/design farm代表のデザイナー・原田祐馬さん。それぞれの言葉で、「デザインという仕事の役割」が語られました。本レポートでは、その内容をダイジェストでお届けします。
グッドデザイン・ニューホープ賞

グッドデザイン・ニューホープ賞は、将来のデザイン分野の発展を担う新しい世代の活動支援を目的として2022年にスタート。大学や専門学校などに在学中の学⽣や、卒業・修了直後の新卒社会人を対象に「優れたデザイン」を選び、推奨しています。2026年度の応募締切は2026年8月17日13時までです。
本アワードでは受賞者同士の交流会や審査委員と直接対話できるフォローアップ・ゼミ、デザインの解像度を深めるワークショップなど、さまざまな受賞者・一般向けプログラムを開催し、デザイン人材のスキルと視座の向上を支援する多様な機会を提供しています。今回紹介するグッドデザイン・ニューホープ賞セミナーもそのうちの一つ。
それでは、ここからは登壇された田嶋さん・倉本さん・原田さんによる講演の内容と会場の様子をお伝えしていきます。
遊びを通じてコミュニケーションをデザインする仕事

田嶋宏行 遊具デザイナー。株式会社ジャクエツ スペースデザイン&パブリックスペース開発課係長代理を務める。同社で携わった遊具研究プロジェクト「RESILIENCE PLAYGROUNDプロジェクト」が2024年度グッドデザイン大賞を受賞
■社会課題と向き合う中でデザインの正解を探していく
田嶋宏行さんは、32歳の時にグッドデザイン賞の大賞を受賞しています。冒頭で田嶋さんは、自分が今回の3人の登壇者の中で最も参加者や学生との年齢が近いこともあり、若い人たちの指標となるような話ができればと意気込みを語りました。
田嶋さんが所属している株式会社ジャクエツは、福井県を拠点に幼児保育の教材教具や遊具などの企画・製造から建築、まちづくり、コンサルティングまで行っています。オフィスの真横に遊具を制作する工場があるため、「こんなものを作りたい!」と思ったら、すぐさま試作ができるという理想的な環境なのだそうです。
試作ができたらそれを近所の幼稚園に持っていき、園児たちに実際に使ってもらう。そうすることで「なるほど、子どもたちはこう遊ぶんだ」という発見へとつながり、それが新しいアイデアになることも多いといいます。

医療的ケア児を対象とした「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」で田嶋さんが制作に携わった、揺れ体験がつながるトランポリン遊具「YURAGI」
田嶋さん「そもそも遊具は曖昧で抽象度が高いもの。決まったカタチがあるわけでもなく、遊具のデザインの正解は遊びながら作っていくものです。ジャクエツという会社のコンセプトも『未来は、あそびの中に』となっているとおり、僕自身も『遊びを研究する』というちょっと変わった仕事に日々携わっているわけなんです」。
ちょうど田嶋さんがジャクエツに入社したばかりの頃、”子どもたちの身体能力”が社会課題のひとつとしてクローズアップされていました。スマホの見過ぎで子供の運動能力が落ちているのでは?という社会問題に対して、遊具で解決を図る、ということについて当時の田嶋さんは考えていたそうです。それから時を経て、現在は身体能力の問題以前にそもそも少子化が大きな社会課題で、このまま何もしないと地方の幼稚園やコミュニティが失われてしまうという段階に。
そうなってくると田嶋さんが取り組むべき領域は「子供の遊具」だけではなく、大人と子供が遊ぶ状況や、医療的ケア児と健常者が遊ぶ環境、ひいてはそういうことが可能な遊び場がある街を作る、といった「インクルーシブな視点で捉える遊具」にまで広がっていったのでした。
■医療的ケア児のための遊具を作るプロジェクトへの参加が転機に
ひとくちに「医療的ケアが必要な子どもたちと一緒に遊べる遊具作り」といっても簡単ではありません。そこで田嶋さんが最初に取り組んだのが、重度の障がいを持っている子たちも遊べる遊具ってなんだろう?こういう遊び場ってどうだろう?という根本的な疑問に向き合うことでした。ワークショップなどを通じて、作りながら考え、考えてはまた作ってを繰り返していきました。
そして2024年にある転機が訪れます。それは医療的ケア児を対象とした社内プロジェクト「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」に参加したときのことだったと田嶋さんは振り返ります。
田嶋さん「当時僕は、障がいのある子たちは『遊ぶことが難しいのだろう』と勝手に思い込んでいました。でも実際には、彼ら自身は彼らの中に自らの遊びを持っている、ということがわかってきたのです」。

「たとえば公園によくある馬型のスプリング遊具は、じつは『跨る』という行為ができないと乗ることができないんです。普段考えたこともないと思いますが、跨る行為ができない子供にとってはあの遊具が自分たちのものじゃないと思っている。だから公園に行かずに、家と病院の往復だけということが起きています」。
「だったら寝たまま遊べるスプリング遊具が選択肢にあれば、その子供たちだって遊べるし、遊べるなら近くの公園に自分の居場所ができるということにもつながる。それこそが遊具を『デザイン』することでもあるし、このプロジェクトのひとつの意義なんじゃないかなと思っています」。
もともとは深澤直人さんとのコラボレーション遊具「OMOCHI」のデザインに憧れ、純粋にデザインを追求するつもりだったという田嶋さん。しかし入社後は外部プロジェクトをはじめとした地域系プロジェクトに積極的に参加するようになったことで、純粋にデザイン性を追求する仕事より、ワークショップなどを中心としたより広範囲な領域に携わるプロジェクトを多く手がけることにつながったといいます。
それは、自社の仕事だけではなく、自ら外部プロジェクトに積極的に関わっていたからこそのこと。インハウスで仕事をしながらも外部プロジェクトに関わり、仕事の選択肢を広く持っておくことがデザイナーのキャリアを豊かにするひとつのヒントになりそうです。
デザイン開発におけるスタート地点は「課題開発」

倉本仁 プロダクトデザイナー。家電メーカーのインハウスデザイナーを経て、2008年に〈JIN KURAMOTO STUDIO〉を設立。iF Design Award、グッドデザイン賞、Red Dot Design Awardなど受賞多数
■その製品を作るべき理由を探すことであるべきデザインが浮かび上がる
倉本仁さんは、これまで家具や照明、メガネ、車など、形あるものはもちろん形のないものも含めて、さまざまな課題に対してデザインで解決していくというスタンスで仕事を積み重ねてきました。具体例として挙げたのは、ある椅子のデザインです。
倉本さん「コロナ禍で在宅ワークをする人が増えたときのこと。ダイニングで使っていた椅子で1日8時間デスクワークすると腰が痛くなりますよね。一方でオフィスチェアを自宅に持ってくると大きすぎたり、インテリアに合わなかったりする。となると、そこにマーケット課題があると考えました。デスクワークにも耐えうる機能を持ちつつ、家庭空間にもなじむワークチェアが必要である、と」。
このように、デザインの仕事には、ただオシャレな家具をつくるだけではない側面があります。そこには必ず”つくる理由”や”課題”があり、その解決策を形にしていくのがデザインの役割だということです。白紙とペンを前にして闇雲に形を考えるのではなく、人に会いに行って話を聞いたり、現場に出向いたりする「リサーチ」を行うことで、求められているカタチの輪郭が見えてくるのだといいます。
そのわかりやすい実例として、倉本さんが独立してすぐの頃に起きた、ある出来事も紹介されました。初めて椅子のデザインを発注された大事な仕事で、倉本さんはある壁にぶつかりました。すでに世の中には名作と呼ばれる椅子がたくさんあるのに、そもそも自分が椅子を新たにデザインする理由が見出せなくなり、途端に手が動かなくなったのです。
締切も迫っており、焦った倉本さんはクライアントに電話をかけ、この仕事を降りることも考えていると率直に話したと言います。するとクライアントから「デザインをする理由はあるよ」と思いがけない言葉が返ってきました。

その方は倉本さんに、「たとえばかつてソファはテレビの真ん前にあってお父さんが座ってビールを飲みながらプロ野球なんかを見るものだった。しかし今はスマートフォンやタブレットが登場し、生活が個人化し、ライフスタイルが多様化する中で、家族がいろんな方向を向きながら暮らしている。そうなるとソファの形も変わってくる。つまり椅子だって同じことなのでは?」という話をされたそうです。
倉本さん「目から鱗でした。すぐに不動産屋さんに出かけていき、販売されているマンションの間取りや家具の配置などを徹底的にリサーチしました。すると最近のマンションは高層化によって窓外の景色が重要になる一方で、空間は縦に長くて奥行きがあり、狭くなっているということがわかりました」。
倉本さんは早速、リサーチで得られたライフスタイルを取り入れた椅子のデザインに着手。景色をよく見せるために背もたれは低くして圧迫感を減らし、アームを短くすることで狭い空間でも使いやすくするなど、自然に目指すべきデザインが見えてきたといいます。この出来事がきっかけで、倉本さんは自分の頭でデザインするというより、モノの置かれる環境や状況そのものがデザインの正解を示してくれていることに気付かされたと語りました。

倉本さんがデザインした「JK」 / arflex Japan(2012)
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