そこで今回は、医療機関向け製品のブランディングや病院の広報誌、高血圧症の治療アプリなど、JDN編集部が気になった「医療・ユニバーサルデザインのサービス・取り組み」を6つご紹介します。
■医療器材の再生処理プロダクトブランド「SALWAY(サルウェイ)」
欧米のユニークで優れた医療機器を輸入・販売するメーカーの株式会社名優が、医療機関の中央材料室向け製品の新ブランド「SALWAY(サルウェイ)」をスタート。
中央材料室とは、医療機関での手術や診察に使用した器材を洗浄・滅菌し、再び使用できるようにする業務「再生処理」をおこなう場所。再生処理の重要性の啓発と日本の再生処理の精度向上を目指してブランディングプロジェクトが始動しました。
ブランディングを手がけたのは、「ブランディングデザインで日本を元気にする」をコンセプトに活動する株式会社エイトブランディングデザイン。
再生処理の達成基準である「無菌性保障水準(Sterility Assurance Level)」を指す(SAL)と目指す道(WAY)をあわせた「SALWAY(サルウェイ)」というブランド名には、SALを達成するために、現場で真摯に取り組む人々とともに歩むという想いが込められています。
ロゴデザインは、医療業界に必要な信頼性と合理的で堅牢な製品群の特性を、ボールドな文字とスクエアでシンプルにデザイン。2つの重なる四角で再生処理の基本である検証を重ねる様子を、中心の白い空間でロックされた滅菌状態を表現しています。
またWebデザインでは、製品解説動画やよくある質問、インタビューなどの記事コンテンツが充実。ブランドムービーでは、再生処理の命に繋がる取り組みと現場の人々の真摯な姿を届けるなど、現場の困りごとを解決しながら仕事の重要性や価値を伝えることを目指しています。
■UDデジタル教科書体
一般的な教科書体は、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(読み書き障害)、視覚過敏などの特性を持った子どもたちには読みづらいという課題がありました。
そんな問題を解消したいという想いから、株式会社モリサワが2016年にリリースしたのがUD(ユニバーサルデザイン)フォント「UDデジタル教科書体」。書体のデザインは、デザイナーの高田裕美さんが手がけました。
ロービジョン研究の第一人者の中野泰志教授による比較研究実験の結果に基づき、従来の教科書体よりも可読性に優れていることが実証された「UDデジタル教科書体」。
筆書きの楷書ではなく硬筆やサインペンを意識し、手の動きを重視しています。書き方の方向や点・ハライの形状を保ちながらも、太さの強弱を抑えた書体デザインとなっています。
また、英語学習教材に適した欧文書体「UDデジタル教科書体 欧文」や国語の授業や漢字の学習におすすめの「UDデジタル教科書体 筆順フォント」など、文字を学ぶ教育現場に最適なラインナップが充実。
書き順に沿って一画ずつ色を分けて表示することができるフォントは、部首の色分けや複雑な漢字の線の色分けなどもでき、特性を持った子どもに限らず漢字が苦手な子どもたちの学習もサポートしてくれます。
株式会社モリサワ
2018年 第12回キッズデザイン賞 審査委員長特別賞 受賞
2023年 UDフォント開発と普及促進について「STI for SDGs」アワード 優秀賞受賞
https://www.morisawa.co.jp/topic/upg201802/
■月額課金制サービス「Care Design Center –ケアデザ–」
介護施設、障害者施設、児童施設など日本の医療福祉業界のネガティブイメージは、特に若手人材や未経験人材が仕事に一歩踏み出すにあたり高いハードルとなっています。
そこでNPO法⼈Ubdobe(ウブドベ)が立ち上げたのが、医療福祉業界の課題をデザインで解決する月額課金制サービス「Care Design Center –ケアデザ–」です。
「Care Design Center –ケアデザ–」は、Ubdobeがこれまで10年以上の活動で蓄積した知識やベストプラクティスの共有、トレーニングやワークショップを開催。
医療・福祉・教育の専門知識を持つ担当者が、予算に応じた月額課金制メニューで企業のブランディングブレーンとなり伴走し、法人内での発信力強化を目指します。
同サービスは、現場の発信力向上≒法人内の機能向上を目指すと同時に、業界全体のブランディング強化を図ることを最終目標としています。
■高血圧症向け治療アプリ
高血圧症患者の治療の一環として取り組むことが推奨されている、生活習慣の改善。
個々人の考え方や意欲、職場・家庭環境、生活スタイルなどに左右されるため継続が難しいといわれる生活習慣の改善を手助けしてくれるのが、「高血圧症向け治療アプリ」です。
「高血圧症向け治療アプリ」は、医療機器として承認され、医師の診断のもと医療機関にて患者へ処方される治療プログラムです。薬と同様、医療機関にて医師の診断のもと処方され、患者は公的医療保険による一部負担金で利用することができます。
大きな特徴は、患者が使う「患者アプリ」と医師が使う「医師アプリ」で構成されていること。患者はこれまで「治療空白期間」だった病院の外でも高血圧治療に必要な生活習慣の修正における正しい知識やサポートを治療アプリから受け、日々の生活習慣の記録や改善のための目標に取り組むことができます。この「患者アプリ」は、行動変容の理論をベースにデザインされており、生活習慣の変化を効果的にサポートします。
患者が取り組んだ内容は「医師アプリ」に自動で共有されており、医師はその情報も活かしてより個々人に合ったアドバイスの提供をおこなうことができるため、治療効果、治療の質を高めることにも繋がります。また、短い診察時間で効果的に患者にフィードバックできるように画面が構成されています。
また、院外での治療介入はアプリ内で完結することで、医療機関側の負担は増えないこともメリットのひとつです。
治療アプリからの日々のサポートと、アプリのデータに基づく医師からの指導により、新しい“スマート降圧療法”を実現。今まで継続が難しいとされていた生活習慣の修正と定着化を促す治療法として注目されています。
■東北大学病院 広報誌『hesso』
東北大学病院がデザイン会社とともに企画・編集をおこなう病院広報誌『hesso』。すべての人にわかりやすく医療や健康を伝えることを目的に、『hesso』を中心に人の輪ができる“おへそ”のような存在を目指してつくられています。
デザインを担当するのは、山形県を拠点に活動するデザイン会社「akaoni(アカオニ)」。患者だけでなく、健康な人や若い世代、親子など幅広い層が手に取りやすいよう、あえて病院らしさを感じない温かみと信頼感のあるデザインが採用されました。
地域のカフェや図書館、児童館、美術館、駅構内など多様な場所に設置し、過去10年で累計約30万部を地域の人々の手元に届けています。
さらに、病院内の取り組みや専門性の高い多様なスタッフの業務を可視化することで、医療従事者や事務職員、ボランティア、委託業者など、組織内の風通しの良さにも繋げています。
また、媒体のデジタル化が加速するなかでも『hesso』は読者からの反響に応える双方向性を大切に、かつ高齢者を置き去りにしないという方針のもと紙媒体での発行を継続しています。
2021年には、それまでの編集方針を引き継ぎながら、「一人ひとりに寄り添うサプリメント」という新たなコンセプトを設定。
誌面の主軸を取材から寄稿に切り替えるなど編集負担を軽減しつつ、メッセージ性を高める改良を重ねています。10年目の2023年度からは発行頻度を年4回から6回とし、医療への関心を高めるためのコミュニケーションの機会を増やしています。
■障がいや病気の兄弟姉妹がいる子どものきょうだい向けの情報サイト「うぇるしぶ」
任意団体うぇるしぶ発起人の岡田麻未さんが運営する、障がいや病気がある兄弟姉妹がいる子どもの「きょうだい」のための情報サイト「うぇるしぶ」。
友達や社会との関係に戸惑いが生じやすくなる時期だと考えられる8~18歳の思春期。その気持ちを言葉にして誰かに伝えることは簡単ではありません。ひとりで複雑な気持ちを抱え込まず、ひとりの「子ども」としてのびのびと健やかに育つためには、まわりの大人がその気持ちを想像したり気づいたりしてあげることも大切です。
「うぇるしぶ」は専門家監修のもと、そんな人に伝えづらい思春期の兄弟のモヤモヤした気持ちを情報化し、周囲の大人が知り、学ぶための啓発をおこなっています。
コンテンツはすべて無料。子どもの兄弟たちがライフステージごとに必要な情報が得られるよう読みやすさが工夫されています。また、親や教師向けにも兄弟の気持ちや寄り添い方を発信し、「安心できる環境でのびやかに育つこと」「可能性を活かし、自分らしい未来を選択できること」ができる社会を目指しています。
どの事例も世の中の課題に向き合い、解決していくための手段としてデザインを活用してします。デザインの活用が広がっているなか、いまあるサービス・取り組みにどのような課題があり、どのように解決に導いているのか探ってみていはいかがでしょうか?
文:高野瞳 編集:岩渕真理子(JDN編集部)