PARTY伊藤直樹が実践する、成長に寄り添ったデザイン教育

第8回みんなでクリエイティブナイト(前編)

PARTY伊藤直樹が実践する、成長に寄り添ったデザイン教育

デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「教育とデザイン」をテーマに、2021年9月22日にYouTube Liveにて配信された第8回目の模様を、 3回に分けてお伝えしていきます。

ゲストに迎えたのは、PARTYのクリエイティブディレクター兼CEOの伊藤直樹さんと、UMA/design farm代表の原田祐馬さんのお二人。ナビゲーターは、エイトブランディングデザイン代表のブランディングデザイナー・西澤明洋さんが務めました。

レポートの前編となる本記事では、伊藤さんによるレクチャーをお届けします。

複数の肩書きを持つ働き方

伊藤直樹 クリエイティブディレクター/アーティスト/起業家 2011年、未来の体験を社会にインストールするクリエイティブ集団「PARTY」を設立。現在、クリエイティブディレクター兼CEOを務める。WIRED日本版クリエイティブディレクター。京都芸術大学情報デザイン学科教授。2023年4月開校予定の私立高等専門学校「神山まるごと高専」カリキュラムディレクター。The Chain MuseumやStadium Experimentなどの事業もおこなう。アート作品に日本科学未来館の常設展示「GANGU」、森美術館「未来と芸術展:2025年大阪•関西万博誘致計画案」など。受賞歴はグッドデザイン賞金賞、メディア芸術祭優秀賞、カンヌライオンズ金賞など国内外で300を超える。

PARTY代表の伊藤直樹です。普段は基本的にクリエイティブディレクターの仕事をやっているんですが、「The Chain Museum」というアートに関する会社の代表もやっています。スマイルズの遠山正道さんと一緒にはじめた会社で、2年弱ほど経ちました。アーティストと鑑賞者をつなぐプラットフォーム「ArtSticker」といったサービスのほかに、「sequence MIYASHITA PARK」というホテルのプロデュースとして、若手のアーティストを応援したいという思いから、全室にアート作品を入れる仕事もしています。

「The Chain Museum」https://t-c-m.art/

The Chain Museumが提供する「ArtSticker」https://artsticker.app/

The Chain Museumがプロデュースを手がけた「sequence MIYASHITA PARK」に展示されているアート作品

このように、僕はクリエイティブディレクターのほかにアーティストや起業家、教育者など、職業としての肩書きが増えてきているんですね。というのも、PARTYでは社員に副業を勧めていて、「社員50」「社員80」など、フリーランスをやりながらPARTYの仕事と契約してくれているメンバーなどもいて、さまざまな契約形態があるんですよ。なので、組織としても副業をすることで肩書きが増えるのは推奨していますし、僕自身もそうでありたいなと思っているので、いろいろ仕事をするようにしていますね。

5年前ぐらいからこのやり方をしていて、どんどんそういった働き方の人が増えてきている感じがあります。それ以前から勤めていた社員の中にも、たとえば「社員100から社員80にしたいです」など、そういった形態へ移行している人も多いです。ひとつのことだけやっているのはつまらないと感じる人もいるので、いろんなことをやってもらうことで、学んだことを組織に還元してもらえるといいなと思っています。

成長に寄り添うための教育

京都芸術大学では10年ほど情報デザイン学科で教えています。情報デザイン学科は、実は数十年前に日本で最初に「情報デザイン」という名前を付けた学科で、Webデザインを教えてほしいと呼ばれたのをきっかけに授業を持つことになりました。そのほかにも、アプリのUI/UXやプロジェクションマッピングといったデジタルインスタレーションなども、課題を通して教えています。

たとえば、「場とスマホ」というテーマでGPSデータを使ったスマホアプリを課題で考えてもらい、プロトタイプをつくってもらう授業や、アイドルのライブ演出をテーマに、学生たちに自分で楽曲も考えてもらって、演奏するだけじゃなくて演出も考えるような、そんな授業もやっています。

「BAPA」当時の様子 ©︎BAPA http://bapa.ac/

©︎BAPA http://bapa.ac/

©︎BAPA http://bapa.ac/

京都芸術大学のほかにも、朴正義さんが代表を務める「バスキュール」というクリエイティブスタジオと一緒に、デザインとテクノロジーを合わせた学校「BAPA」を2014年から3年間やっていました。はじめた当時は「Art and Code」がキーワードで、いわゆるデザインや広告におけるアートディレクターとコピーライターが組んで仕事をするように、アートディレクターとプログラマーやエンジニアが組む動きが出てきていたんですね。なので、そのための知識や技術を教えるための学校をつくりました。

はじめたきっかけは、「こういう学校って意外になくない?」ということを朴さんと話していたことでした。教育の分野は分断しがちで、デザイナーとエンジニアも時に仲が悪いみたいな感じもあったんですね。二人で話しながら、「じゃやろうか」みたいな感じで持ち出しではじめて、渋谷ヒカリエのホールを借りたりと結構お金がかかったんですが、1期生からたくさんの人が来てくれて。競争率が高くなってしまい、入学者を選ぶのが心苦しいぐらいだったんですが、そこからいま企業で活躍してくれている人やアーティストが出ていたりします。

3年間、毎週仕事が終わったあとに学校の運営をやっていたのでスタッフ共々大変だったんですが、スタッフの一部も生徒として参加していて、一緒に切磋琢磨することで成長できたのがよかったなと思います。

「ものをつくる力」と「ことを起こす力」を育む、神山まるごと高専

こういったBAPAでの経験は、いま取り組んでいる「神山まるごと高専」のヒントになっています。この学校は、徳島の神山町に23年4月開校に向けて設立準備中で、いろんな方に寄付金をいただいたことで21億円の資金が集まり、校舎の建設費や、さまざまな先生に来ていただける準備が整ったので、これから文科省に申請するところです。僕はカリキュラムディレクターとして、申請するためのカリキュラムの構成を、元ZOZOのCTOであり、校長先生を務める大蔵峰樹さんと一緒に考えています。

©︎神山まるごと高専 https://kamiyama-marugoto.com/

神山まるごと高専のファウンダー。左から、寺田親弘氏(理事長)、CRAZY WEDDING創業者の山川咲氏(クリエイティブディレクター)、ZOZOテクノロジーズ元CTOの大蔵峰樹氏(学校長)、伊藤直樹氏(カリキュラムディレクター)©︎神山まるごと高専 https://kamiyama-marugoto.com/

もともとカリキュラムディレクターに就任したのは、10年ほど前に、名刺交換サービスをやっている「Sansan」代表の寺田親弘さんが、神山町にサテライトオフィスをつくっていて、僕らもそこにサテライトオフィスを出したことがきっかけでした。さらに、神山出身でスタンフォードの修士号を持っている大南信也さんという方がいるんですが、神山のみならず、日本にシリコンバレーをつくりたいという思いからグリーンバレーという団体を設立されたんです。そのためにはやっぱり学校がないといけないと、大南さんと寺田さんが考えはじめたことが、神山まるごと高専のはじまりです。

そこで、デザインとエンジニアリング、テクノロジーを本気で教えて、アントレプレナーシップも学べるような高専がいいよねという話がおふたりの中で生まれた際に、その具体的なカリキュラムを考えてほしいという依頼が僕にあったので参加しました。

僕らは、PARTYとしてどうやって強くなっていくかということを日々考えている中で、「ものをつくる力」ということを4つに分解して考えています。基本的にデザイナーやエンジニアに必要なのことは、「言葉に強くなる」「数字に強くなる」「絵に強くなる」、そして「プログラミング強くなる」。この4つの言語を操れるようになることが大切です。

©︎神山まるごと高専 https://kamiyama-marugoto.com/

ただ、僕もそうなんですが、人間には得意、不得意があるじゃないですか。「神山まるごと高専」では、それをみんなで補い合おうということを基本のコンセプトとして、カリキュラムの中に落とし込んでいます。そしてそこに起業家精神をプラスすることで、「ものをつくる力」と「ことを起こす力」を養う。この円を中心に、いままさにカリキュラムを構成しています。

僕はPARTYの代表ですが、スタッフたちに対しては雇っているという感覚があまりなくて、成長してもらいたいなと常に思っているんですよ。そのためには、教育、というとちょっとおこがましいんですが、スタッフの成長に寄り添い、サポートしていく意識が必要で、その中で自然と教育に興味を持ったんですね。その後、大学などでも教えるようになり、もっと早い段階からその人に寄り添うことができれば、自分たちのところに来てほしい人材の教育に、自分たち自身で関わることができるのではないかと、いまはそんなことを感じながら教育に携わっています。

写真:松田瞳(エイトブランディングデザイン) 文:堀合俊博(JDN)