これからのプロダクトデザインに求められることとは?:第5回「みんなでクリエイティブナイト」

第5回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(後編)

これからのプロダクトデザインに求められることとは?:第5回「みんなでクリエイティブナイト」

デザインの広義化?グッドデザイン賞の変遷からわかること

Q.グッドデザイン賞の応募作品について。時代の流れを反映しているなど、年ごとに応募の特徴は変わるものなのでしょうか?

西澤:安次富さんに来ていただいてるんで、こういった質問も来てますね。啓太さんもグッドデザインの審査員をされたことがありますが、どうですか?

鈴木:間違いなく変わると思いますね。

西澤:特に近年、意図的に変わっているのを感じますけどね。審査方針をアップデートしにいってるのかなと思っているんですが、そういったことは審査の現場ではないんですか?

鈴木:確かに、デザインということばの定義がとても広義な、複雑になってきているので、いろんな種類の専門家が集まって審査をしているのは最近の特徴ですかね。

西澤さん、安次富さん、鈴木さん

西澤:外側から見ていると、ここ5年ぐらいで意図的にデザインの広義化が、審査のテーマにある気がします。2、3年前ぐらいにサービス系のデザインがばーっと賞を取った時期がありましたけど、これはやっぱりデザインの意味を広げようっていう、審査側の意識もあるのかなと思っていました。狭義のデザインに収まらないようにしているというか。

安次富:逆なんじゃないですかね。もともとはグッドデザイン賞っていうのは、日本の工業製品の質向上のためにできたわけですよね。ですが、もともとデザインというのは、プロダクトデザインに限らず、グラフィックや仕組み、サービスなどのデザインもあったわけです。それらが、時代と共に審査の範疇に入るようになったに過ぎないと僕は思っています。だから、グッドデザイン賞が広げたわけではないというのが僕の見方です。

西澤:本来デザインとはそういうもので、より根源的に、ピュアになってるということですかね。

安次富:デザインということばが広がったと思うのは、「これもデザインだよね」という言い方がされるようになっただけであって、何かサービスの仕組みをつくるなどの行為自体は前からあったわけですよね。それらをデザインだと言うようになったに過ぎなくて、デザイン自体は同じで、広がったわけではないと思います。

コロナ禍における変化と、求められる「柔軟さ」

Q.震災のときもですが、コロナ禍をきっかけに自分が持っているものを見直したり、必要以上のものを捨てたり、ものを買う、ものを持つという行為を見直す人が増えたと感じます。プロダクトデザイナーとして、世の中にものを送り出す立場のおふたりに、上記のような価値観の変化に対して考えられていることをお聞きしたいです。

西澤:これは、デザインに限らず、ものに対する人の関わり方や感じ方が変わってるかもしれないという質問だと思うんですが、難しいですね。

鈴木:でも、間違いなく変わっていくと思うんですよね。震災後もやっぱり、みんなが不安な気持ちで過ごす中で、手仕事とかクラフトといったことにみんなが戻っていったように僕には見えていたんです。誰か信頼できる人がつくっているものを買おうとか、できるだけいいものを手に入れたいと思うことには、「信頼」というキーワードがはっきりとあったのかなと思います。コロナ禍でも、いろんなものごとや価値観が本当に変わっているなと思います。

鈴木さん

ちょっと質問の意図とは離れてしまいますが、私の事務所の半分ぐらいの仕事がコロナ関連のプロジェクトに変わりつつあって、そのほとんどが空間領域の仕事なんですね。これまで空間やインテリアデザインというのは、床、壁、天井といったものを、いかにきれいに仕立ててつくり込んでいくのかというものだったのですが、このような状況になって求められるのは、すぐ空間を変形させられることなんです。

極端なことを言うと壁にキャスターを付けて、動く壁をつくろうみたいな話になってくる。そうなると、これまでの空間デザインに対する一般的な概念がどんどん変わっていって、とにかく全部動かさなきゃいけない。そうやって、時代によって求められることがどんどん変わっていくことが、当たり前になっていくのかなと思っています。なので、みんながこれまとは全然違う価値観で、ものを所有したい、ものが欲しいという考えが生まれていくんだろうなと思います。

安次富:啓太さんが言ったことをちょっと引き取ると、柔軟さっていうものが非常に重要になってくると思います。あとはキャパシティ、大きさ。

柔軟さというのは、たとえばこの部屋が震災のときに変化して、多用できるとか、そういうことだと思うんですね。これからはすべてがクロスオーバーしていく時代だと思うんですね。だからいま、たとえばオーディオばかりつくっていたような家電メーカーが、マスクをつくりはじめる可能性があるわけですよね。そういうキャパシティがあるから生き延びられるわけで、これしかできないといった決めつけをしていると、結構厳しいと思うんです。

プロダクトも同じで、「ありもの使い」というのは非常に重要になると思うんです。緊急時に応用して別のものに転換できるとかね。そういう柔軟さを持ったプロダクトというのが、これから重要になるんじゃないでしょうか。

安次富さん、鈴木さん

西澤:なるほど。安次富さんのそういった柔軟さや、啓太さんがおっしゃった変化というキーワードなんですけども、そういったものを感じた最近の仕事はありますか?

鈴木:以前からそういった傾向はあって、それがコロナによって顕著になったということはみんなが言ってることですが、ものすごく二極分化していくだろうなという気がしますね。ひとつは、オフラインに限定していたさまざまなものが、この期間をきっかけにオンラインに開かれていくといった、テクノロジーと結び付いていくもの。もうひとつは、みんなが家の中で時間を過ごすようになることによって、身の回りのものを充実させたいというとても素朴な思いも生まれつつあると思うんです。

私自身は、これからのものごとを考えていくときに、画一的な考え方や断定的な視点でものごとを捉えていくのは危険なんじゃないかと思っています。たとえば、感染症対策などといった、検証していきながらデザインをつくっていく際には、ある程度客観性であったり実験や実証ができるということが前提になっていく。

西澤:変化、柔軟性といったキーワードに対して、安次富さんはどうですか?

安次富:「一器多用」という考え方が日本にはあって、たとえば蕎麦猪口というのは、蕎麦を食べる道具の名前だけれど、おしんこを入れてみたり、欠けたものは植木鉢にしてみたり、そうやってひとつのものをいろんなことに使っていくわけですよね。そんな柔軟性を持ったものづくりというのは、日本はもともとしてきたんです。そこからヒントを得たものを、私は意識はしてやってきているとは思います。

さきほど啓太さんが話していた、歴史に学ぶということはすごく重要ですよね。日本の場合、なぜそういった一器多用や使い回しということが行われていたのかというと、おそらく資源が乏しかったからだと思うんですよ。何でも湯水のようにあるわけではないので、身近なものを上手く使い回すという知恵で乗り越えてきた。

その点、ヨーロッパのものづくりは違いますよね。たとえばカトラリーにしても、デザート用であったり、用途によってどんどんつくるでしょ。だけど、日本の場合はお箸1膳だけ。そういう考え方に、いま私たちはもう一度学ぶべきなんじゃないかな。

3人が考える、「これからのプロダクトとデザイン」とは?

西澤さん、安次富さん、鈴木さん

西澤:それでは、恒例の質問で終わりたいと思います。今回のテーマ「これからのプロダクトとデザイン」について、3人それぞれが考えることで締めていきたいなと思います。

鈴木:すごく難しいですね。ただ、これからのプロダクトデザインは、正直に答えると、分かんないんですよね、本当に。僕も全然分からない。

だからこそ、僕がコロナ禍で始めたことというのは、とにかくオンラインでもいろんな業界の人たちと集って、情報交換をしたりディスカッションしていくことなんです。これからの時代というのは、本当に分かりにくい。過去を振り返っていったり、いま起きていることを考えると、予測はできますが、その通りになるか分からない。だから、いろんな可能性を検討・検証しながら、それが効果的であるかどうかということを確かめていくことが、デザインに必要なんじゃないかと思っているんです。

正解がない時代に突入していくわけですから、柔軟にいろんなチャレンジをしながら、何がスタンダードになり得るのかっていうのを、みんなで考えていくっていうことですかね。ものだけでは駄目ですし、空間やデジタルと結び付いていくっていうのは、まず当たり前にあることだと思います。そういう意味では、これからのプロダクトデザインというのは、柔軟であるべきということなのかもしれません。

西澤:なるほど。ありがとうございます。僕自身はブランディングデザインを専門にしているので、企画やグラフィック部分を主に手掛けているんですが、最近商品系の仕事とかにも多く携わっていて。この秋に発表したばっかりの仕事なんですが、ハンドクリームで有名なユースキン製薬さんの商品をお手伝いさせていただいて、そのプロダクトデザインを柴田文江さんに担当いただいたんですね。

ユースキン

僕らは全体のブランディングやグラフィックをやっているんですが、出来上がりを見て、柴田さんにお願いしてよかったなと思っているんです。それはなぜかというと、やっぱりもののディテールや質感なんですよ。

これからの時代、プロダクトが本当に大事になってくると思っていて、特に僕らみたいにブランディングの仕事をしてると、デジタルがすごい強いわけですよ。情報戦が加速していて、ネットでどういうふうにそれを制していくのかが問われる。でも、最後に手に届くものの手応えみたいなものは、ずっと残るんだろうなと、ユースキンの仕事を通して改めて思いました。

なので、僕はこれからのプロダクトデザインについてひとつキーワードを挙げるとすれば、人のあたたかさや温もり。プロダクトが担って欲しいのは、そういったものだと個人的には思います。

鈴木:それは本当にそう思いますね。すべてのものがデジタルに結び付いて、ものがなくなっていくみたいな未来が一時期言われていたと思うんですけど、僕はそうじゃないとずっと思ってますね。

たとえば、おしぼりみたいなもので人間が水分を摂取できるようになったとして、じゃあみんなそれでしか水を飲まないようになるかというと、やっぱりそうはならないと思うんです。水を飲む気持ちよさや、グラスの手触りとか、そういう普遍的な感覚は絶対残るわけなので、より象徴的に、大事になっていくと思います。

西澤:ブランディングをグラフィック主体でやっていると、視覚情報に頼りがちなんですけども、五感の中でも触覚っていう部分は、ちょっと違うギアがあると思うんです。いろんな記憶とセットになってる感じがするんですよ。そういったデザインはかなり根源的なものだと思うので、これからの時代はそういうところにちゃんと向き合ってないものは残らないんじゃないかな。

それでは、最後に安次富さんに締めていただきたいのですが。

安次富:おふたりのお話をうかがっていて、僕の考えているプロダクトデザインと若干齟齬があるので、そこから話しますね。

私が大学に入るときは、プロダクトデザインというのは、実はあまりメジャーなことばではありませんでした。誰も知らなかったし、日本で学べるのは多摩美しかなかった。当時浪人生の私は、デザインというのは区分けができないからこそ魅力があると思ってたんですね。でも、私立大学ではプロダクトデザイン、グラフィックデザインと分かれている。それがどうしても許せなかった。

ところが、そのプロダクトという聞きなれないことばを辞書で調べると、「生産」とあるんですね。生物の生と、産業の産。どちらも「うむ」と読む。そのときに、「こりゃいいや」と思ったんです。要するに、人が生むもののデザインだと理解したんですね。人が生むもののすべてができるのが、プロダクトデザインだと認識して、当時その学科を選んだんです。そういう意味では、人が生むものというのは、決して「もの」だけではありません。

安次富さん

なので、人が生むもののすべてをデザインしていくときに、ある目的や目標があって、それに対して具体的に何をすべきか、最適な解決策を考えて実現することがデザインだと思うんです。その中で、もしかしたらものをつくらないほうがいいという選択肢もあるかもしれない。それがこれからの時代だと思います。たとえば、ペーパーウェイトというものは商品としてあるんだけれど、石ころだってペーパーウェイトにはなるんですよ。

さきほど一器多用やありもの使いということをお話ししたのは、何もかも産めよ増やせよではなくて、いまあるものを上手く転用することや、流用することが大事になってくるのがこれからの時代だと思うんです。いままでは、どうしてもデザインというものが資本主義経済の中でお金を生み出す装置としてしか機能していないという側面があった。でも、コロナによって一気に人が行動を制限されることで、ヴェネツィアの運河がきれいになったとか、SDGsが求めてることが一気に起こってるわけでしょ。

西澤:「やらない」ということが、すべての解決になっている。

安次富:そう。それで僕らは気づかなきゃいけないんですよ。これからプロダクトデザインをどうするのかと考えたときに、もう一度原点に立ち返ってみる。本当にこれは必要なのかとか、そういうことを考えるきっかけをいま得ていると。そう理解したほうがいいんじゃないかなと、私は思ってます。

実は、私が学生のときにプロダクトデザイナーになろうと思ったのは、ものを減らすデザイナーになりたかったからなんですよ。そのときは、エコロジーということばはなかったんですね。高度成長期で、大量生産、大量消費の時代で、そのことがすごく気になっていた。

ものを減らすというのはどういうことかというと、最高のデザインを出すことこそが、ものを減らすことになる。たとえば、最高のテレビをデザインしたら、後に続くものがもう諦めてくれると思った。だからデザインを学ぶのだと考えていたんです。それはいまも変わらないんですが、最高のデザインとはなんだといったときに、つくらない選択肢もあるということなんですよ。そのことを、これからのプロダクトデザインにおいて、みんなでよく考えていきたいですね。

西澤:ありがとうございます。最高のまとめですね。三者三様のお話をいただき、今宵も締めくくりたいと思います。ありがとうございました。

西澤さん、安次富さん、鈴木さん

構成・文・編集:堀合俊博(JDN) 写真:深地宏昌(エイトブランディングデザイン)

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:第5回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(中編)

【次回で最終回!】

2019年8月2日の第1回目開催より、2年半にわたって実施してきた「みんなでクリエイティブナイト」ですが、次回の開催で最終回となります。

本イベントのフィナーレとなる第9回目は「ブランディングとデザイン」をテーマに、日本のブランディングデザインを代表するおふたりの仕事を振り返りながら、今後のブランディングデザインの可能性について、宮田さんと西澤さんに語り合っていただきます。

また、今回も登壇者への質問を事前に受け付けています。トークセッションのトピックとして取り上げさせていただきますので、ぜひ質問をお寄せください!

質問投稿フォームはこちら:https://forms.gle/9UzW4vX3EjW7HCBS8

※質問受付締め切り:1月31日(月)

■開催概要

第9回テーマ:「ブランディングとデザイン」

開催日時:2月1日(火)18:00~19:30

会場:YouTube Liveにてオンラインでの開催

参加費:無料
申
込:リンク先より詳細をご確認ください
https://www.8brandingdesign.com/event/contents/creative-night/minna09/