工芸から3Dプリンティング、感染症対策まで。プロダクトデザイナー・鈴木啓太のいまとこれから

第5回「みんなでクリエイティブナイト」レポート(中編)

工芸から3Dプリンティング、感染症対策まで。プロダクトデザイナー・鈴木啓太のいまとこれから

デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「これらからのプロダクトとデザイン」をテーマに、ザートデザイン代表・グッドデザイン賞審査委員長のプロダクトデザイナー・安次富隆さんと、PRODUCT DESIGN CENTER代表のプロダクトデザイナー・鈴木啓太さんのおふたりをゲストに迎えた第5回目の模様を、3回に分けてお伝えしていきます。

前編に続き、中編では鈴木さんのレクチャーをお届けします。

富士山グラスから相模鉄道、給食容器まで

私は、2012年にデザイン会社「PRODUCT DESIGN CENTER」をつくり、これまでにさまざまな領域、業界の仕事に関わってきました。日用品といった小さいものから、鉄道車両のような大型のものまで、または、工芸といった古い技術から最先端のテクノロジーにいたるまで、あらゆるプロジェクトを手がけてきました。

<strong>鈴木啓太</strong> プロダクトデザイナー 1982年愛知県生まれ。2006年多摩美術大学卒業。古美術収集家の祖父の影響で、幼少時からものづくりを始める。2012年PRODUCT DESIGN CENTER設立。デイリーアイテムや公共のプロダクトを中心に、国内外でプランニングからエンジニアリングまでを手がける。近年では工芸を取り入れたプロダクトも多く発表。アジアのもの作りへの理解に加え、欧米企業との仕事を通して、美意識と機能性を融合させたデザインを生み出している。2018年柳宗理記念デザイン研究所にて、同デザイナー以外では初となる個展を開催。2019年は車両デザインを手がけた「相模鉄道20000系」がローレル賞2019を受賞。

鈴木啓太 プロダクトデザイナー 1982年愛知県生まれ。2006年多摩美術大学卒業。古美術収集家の祖父の影響で、幼少時からものづくりを始める。2012年PRODUCT DESIGN CENTER設立。デイリーアイテムや公共のプロダクトを中心に、国内外でプランニングからエンジニアリングまでを手がける。近年では工芸を取り入れたプロダクトも多く発表。アジアのもの作りへの理解に加え、欧米企業との仕事を通して、美意識と機能性を融合させたデザインを生み出している。2018年柳宗理記念デザイン研究所にて、同デザイナー以外では初となる個展を開催。2019年は車両デザインを手がけた「相模鉄道20000系」がローレル賞2019を受賞。

コンシューマー向けのものから公共のものまで、かなり幅広いデザインを手がけているのが私の特徴だと思います。私がつくったものの中で、もっとも知られているかもしれないものが「富士山グラス」というビールグラスですが、これが自分のキャリアのはじまりでした。

「富士山グラス」

「富士山グラス」

その後、電化製品や日用品、ベンチといった公共物、工芸のようなもの、電車、そして一番最近のものだと、今年の春から神戸市の公立の中学校で使われている給食容器をデザインしました。

鈴木さんがデザインした給食容器

鈴木さんがデザインした給食容器

ネイビー色の鉄道車両が特徴の、横浜の鉄道事業者「相模鉄道」の最新通勤車両をデザインしたプロジェクトは、相模鉄道100周年に向けたブランディングの一環としてスタートしたもので、私はプロダクトデザイナーとして参加しています。いまは横浜から都心に乗り入れて、多くの方に見ていただく機会もあるのかなと思います。

鉄道をデザインするにあたって、楕円形状のつり革をデザインするところからはじめました。さらに、外装だけではなくビスやねじの一本といった内装の、かなり細かい部分までデザインしています。実質デザインした期間は2年に満たない時間だと思いますが、とても大型のプロジェクトですので、デザイン開発には4年半ぐらいかかりました。

相鉄線の車内

セラミックの3Dプリンティングで描く未来

TALIESIN® ELEMENTS

TALIESIN® ELEMENTS

これは、フランク・ロイド・ライトというアメリカの建築家のデザインによる照明器具「タリアセン」へのオマージュ企画に参加した際にデザインしたものです。毎年この企画では、3人のコラボレーターが招聘されていますが、私が参加した年は、妹島和世さんと永山祐子さんというメンバーでした。

私は、タリアセンという照明器具の構成にかなり忠実に制作しました。もちろん変えている部分もありますが、このデザインにおいて新しいところは、正方形で緑色のセラミックパネルのすべてを、3Dプリンターでつくっているところですね。人間が最も長く使ってきた素材というのは、陶器や磁器、セラミックスなんです。セラミックスを材料に3Dプリンティングをするという新しい技術に出会い、いまはそれを使ってさまざまなものづくりをしているところなのですが、ここでは3Dプリンティングした後に釉薬をかけて、通常の焼き物と同じように工房で焼くという、おもしろいつくり方をしています。

TALIESIN® ELEMENTS

また、一昨年に「鈴木啓太の線」というタイトルで、はじめての個展を金沢美術工芸大学が所有している柳宗理記念館で開催したのですが、そこではこれまでデザインしてきたものと、私がデザインをした包丁のプロセスを一堂に並べました。

「鈴木啓太の線」の展示の様子

「鈴木啓太の線」の展示の様子

この包丁のデザインプロセス自体も、3Dプリンティングを活用しています。細かすぎてよく分からないかもしれませんが、微妙にかたちの違う包丁をつくり続けたプロセスをここでは展示しています。

人が手で使う道具のデザインは、ごまかしがきかないものが多いんです。なので、できるだけ長い時間をクライアントからいただき、かなり細かく検討していきます。丁寧にものをつくる、誠実にものをつくるということは、私が目指していることのひとつなので、プロジェクトによってはかなり突っ込んだものづくりをしています。私の理想としては、100年使うことができるクオリティまでデザインをつくり込んでいきたいと考えています。

これは、2019年のミラノサローネの期間中に展示したインスタレーションの映像です。「Emergence of Form」という展覧会で、日本の素材のメーカーであるAGCをクライアントに、この時はじめてセラミックの3Dプリンティングに出会いました。

これは、ものが生まれてくる瞬間やかたちみたいなものを切り取り、展示するというものです。AGCはガラスがとても有名ですが、その他にもさまざまな素材を取り扱っているので、AGCのいろんな側面というものを、このインスタレーションを通じて見せようという企画でした。

いまは3Dプリンティングを実用化し、事業化に向けてAGCセラミックスと一緒にいろいろと研究しています。この技術を使うと、通常の陶器や磁器とは異なり、焼き上げたときに一切歪みが出ないことが実現できるようになりました。これによって、これまで工業デザインの世界やプロダクトの世界ではあまり使われてこなかったセラミックスという素材が、これからどんどん工業の中に突入していき、使われるようになっていく未来を思い描いています。

コロナ禍にプロダクトデザインができること

伊勢丹新宿本館のウィンドウディスプレイ

これは今年の5月に、伊勢丹新宿店本館で行ったウインドウディスプレイのデザインです。私と伊勢丹との仕事の歴史は結構長く、彼らがやりたいことをいろいろ聞きながら企画をつくり、デザインまで落としていくことを一緒にしています。この時は、サステナビリティをテーマにアイデアを考えて欲しいという依頼がありました。

通常、私の仕事はデザインをするだけではなくて、「何をつくるのか」という問いを立てるところからはじめているので、この仕事でも、サステナビリティということばを伊勢丹なりに解釈するとどういうことができるか、ということから考えました。

伊勢丹新宿本館のウィンドウディスプレイ

そこで、廃棄されてしまう花を再活用したウインドウをつくることを提案しました。花というものは日々大量に消費されていますが、花は生き物ですので、売れないものは廃棄されてしまう現実があります。そういったものを上手く生かし、店内の全11面のスペースを使って、季節感と共に華やかなものを伝えていこうという考え方です。

また、今年伊勢丹新宿店本館は、緊急事態宣言を受けて一度閉店したんですが、再オープンするときに、きちんと感染症対策に配慮したデザインに力を入れたいと考えました。これは三越伊勢丹に対して自主提案をして採用になったものです。

三越伊勢丹での感染症対策のデザイン

当時、コロナの影響でさまざまなリテールの方々が、どうやって人を集め、どのように誘導するのかを非常に悩んでいました。こういったことをデザインすることは、いま生きている人たちにとってはじめての経験なので、リファレンスはほとんどない。

なので、私はデザイナーとして、たとえばテーマカラーを決めて人を上手く誘導しようとか、感染症対策をきちんとお客様にしてもらうために消毒用のポンプをきちんと目立たせること、エレベーターやクレジットカード端末、トイレなどのボタンを押す場面で、直接手で触れずに押すことができるカードを配布するなど、いろんなことをやりました。それらを新しい買い物体験として楽しもうということが、大きなコンセプトとしてありました。

三越伊勢丹での感染症対策のデザイン

コロナ禍での私のもうひとつの仕事は、「ONE FLOWERWARE」というプロジェクトです。4月に緊急事態宣言が出て、私を含めて全国のいろいろなものづくりの人たちが苦しんでいるという状況の中で、何か一緒にプロジェクトをして盛り上げたいという気持ちがあり、全国の窯元と、ものづくりに関わっている人たちと一緒に、みんなが共通して円型の花瓶をつくり上げました。

「ONE FLOWERWARE」

「ONE FLOWERWARE」

工芸とテクノロジーの融合

「日産アートアワード」のトロフィー

「日産アートアワード」のトロフィー

これは、日産が主催している「日産アートアワード」のグランプリの方に渡したトロフィーのデザインです。京都の「開化堂」という茶筒で有名な会社の工房で、すべて一から手で叩き出してつくられています。かたち自体は非常に3次元的、テクノロジー的な形状なんですが、それを人間が長い時間かけて再現していくというところに面白味を感じています。

10月22日から代官山蔦屋で開催する「SMALL OBJECTS, LARGE HERITAGE」というイベントでは、いろんなものを展示して、その場で購入できるだけではなく、ものごとの裏にある背景やアイデア、いろんな人たち思いを体験してもらえるようなイベントにしたいと考えています。その中で、二つ新しいプロジェクトを発表します。

「KINPEI」プロジェクトの倒木スピーカー

「KINPEI」プロジェクトの倒木スピーカー

一つは「KINPEI」という、三重県の松阪市にいらっしゃる横濱金平さんという方とのプロジェクトです。横濱さんは、木全体を振動させて音を鳴らすという技術をつくられていて、私がそれをかたちにしていくというものです。代官山蔦屋のイベントでは、自然災害で倒れてしまった、神宮御山杉という伊勢神宮の樹齢300年以上の倒木を使ったスピーカーを販売します。木から音が鳴るということは、いまだほとんどの人が体験したことがないと思います。私も初めて横濱さんのアトリエでこれを見たときに、本当に感動しました。

「KINPEI」プロジェクトの倒木スピーカー

「KINPEI」プロジェクトの倒木スピーカー

もう一つのプロジェクト「OYANAGI」は、福井県の工房で江戸時代からつくられている「越前箪笥」の、新しい収納家具のプロジェクトです。いずれも企業ではなく、小さな個人のイノベーター、アーティストの人たちと一緒に仕事をすることにいまは取り組んでいます。

「OYANAGI」

「OYANAGI」

工芸の仕事は、祖父の影響もあり私が個人的に興味を持っていたということでもありますが、そういった仕事を通して、個人のイノベーターという新しい時代の到来を感じています。これからは、工芸とテクノロジーをいかに混ぜていくかというようなことを、いろいろと挑戦していきたいと思っています。

構成・文・編集:堀合俊博(JDN) イベント当日撮影:深地宏昌(エイトブランディングデザイン)

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【次回で最終回!】

2019年8月2日の第1回目開催より、2年半にわたって実施してきた「みんなでクリエイティブナイト」ですが、次回の開催で最終回となります。

本イベントのフィナーレとなる第9回目は「ブランディングとデザイン」をテーマに、日本のブランディングデザインを代表するおふたりの仕事を振り返りながら、今後のブランディングデザインの可能性について、宮田さんと西澤さんに語り合っていただきます。

また、今回も登壇者への質問を事前に受け付けています。トークセッションのトピックとして取り上げさせていただきますので、ぜひ質問をお寄せください!

質問投稿フォームはこちら:https://forms.gle/9UzW4vX3EjW7HCBS8

※質問受付締め切り:1月31日(月)

■開催概要

第9回テーマ:「ブランディングとデザイン」

開催日時:2月1日(火)18:00~19:30

会場:YouTube Liveにてオンラインでの開催

参加費:無料
申
込:リンク先より詳細をご確認ください
https://www.8brandingdesign.com/event/contents/creative-night/minna09/