コロナの時代を生きるための「変化」:第4回みんなでクリエイティブナイト(後編)

コロナの時代を生きるための「変化」:第4回みんなでクリエイティブナイト(後編)

Q.新しい密な関係をつくるデザインとは、どんなイメージでしょうか?

西澤:それじゃあ、働き方に関する質問を取り上げようと思います。

このコロナの状況では、三密を避けるためのソーシャルディスタンスの対策をする必要が出てきましたが、僕はこれにははっきり弊害があるなと思ってて。テレワークでもできる仕事はあると思うんですが、仕事上のコミュニケーションなど、密だからこそよかった仕事はあると思うんですね。

僕らはいまほとんどの打ち合わせをオンラインでやっていて、エイトブランディングデザインのクライアントは、半分ぐらいが地方の方なのでそういったことも利便性があるのですが、新しく取引をはじめるお客様は、もれなく対面での打ち合わせを希望されるんですね。ブランディングは会社の社運を賭けて真剣に議論したいものですし、やっぱり密だからこそ話せる内容というものたくさんあるので。アフターコロナ/ウィズコロナであっても、密な関係は絶対必要なことだろうと思うんです。

質問にある「新しい密な関係」という言葉がいいなと思うんですが、対面における密というものも、もしかしたら旧態依然としたものなのかもしれないと。その時に、新しい密とは何なのか。

高橋:実は私、最近空調のデザインができる人の話が気になっていまして。ウイルス対策の観点で、いま空調のデザインについての意識が高まっているみたいですね。どういうふうに風を流すかとといった空気の流れはデザインできるものだし、建築家の皆さんは得意分野だと思うんですね。

高橋さん

やっぱり、人は基本的に直接会って話したいものだと思うんです。けれど、いまは直接会いたいということに、リスクを取らなければいけなくなってる。でも、すべての機会というわけではないにしろ、大事な人に対しては「会う」というリスクを取るというか、会うなと言っても、人は大事な人とは会うと思うんです。そのときに、空調の設備がちゃんとしてるような部屋がたくさんあれば、そのリスクや会うことのハードルが下がると思うんですよ。会う時間はもっと貴重になってくると思うので、「新しい密」というものは、そんなデザインだろうなと思います。

豊田:僕の立ち位置から話すと、物理空間でしかなかった人間の関係に対して、Zoomがミーティングツールとして認められてきているいま、今後はバーチャルのVR空間がオフィスとして認められて、その中で会議をするということがあるかもかもしれないですね。やっぱり、リモートになればなるほどコミュニケーションチャンネルの分厚さは諦めていかなきゃいけないと思います。

でも、その代わりに薄く軽く、そして広くなっていくコミュニケーションの中で、そういった状況ならではの「密」のあり方があるんだと思っています。オンラインで複数のチャンネルで同じプロジェクトを共有していく体験を通して、それらを一緒にやってる人との親密さが新しく生まれる感覚はありますね。マルチチャンネルで同じものを共有していくなど、物理的な密じゃなくても共有体験はデザインできそうな気がしています。

西澤:「フォートナイト」でのトラヴィス・スコットのライブは、リアルよりもむしろおもしろかったんじゃないかと思いますよね。

豊田:全然違う体験のデザインですね。大きな会場のライブだと、観に行ったとしてもごま粒ぐらいの大きさでしかアーティストの姿が見えない。もちろん、会場全体での共体験や圧倒的にお金をかけた演出が楽しいわけですけど、フォートナイトでの自分の身体ごと音と一緒に持ってかれるような体験は、やっぱりすごかったと思うんです。観ているのが生身のトラヴィス・スコットじゃないというのは誰もが分かっていても、それは体験としてこれまでにないもので。そういった新しい体験のデザインは今後いっぱいできる気がしますよね。

Q.なぜ緊急事態宣言中に、建築家やデザイナーはメディアに出ていないのでしょうか?

西澤:ちょっと角度を変えた質問がきてますね。こういった有事の際に、建築家やデザイナーが、社会問題を解決する人として認識されてないのって悲しいなと思うのですが、実際のところ、デザイナーや建築家もアフターコロナに対する問題提起や、そういった発信をしてないなとは思ってて。そんな中でも、豊田さんは積極的に発言されてますよね。

豊田:そうですね。建築の分野にいて、建築家のよくないところだなと思うのは、建築家たちが見ている問題意識と、それを解決する道具立て、そしてそれを表現する領域が、すべて建築の中に閉じてしまっていることだなと感じていて。いまの時代だったら、建築家はオンラインでいろんなところに出て発信できるはずで、そうしていれば建築以外の領域でも価値を生むことができるかもしれないと思うんです。

西澤:このアフターコロナというテーマは、建築家やデザイナーにとってはひとつの「問い」なので、どのように解いていくかということは、本来得意なはずだと思うんです。僕がちょっと残念だなと思ったのが、こういった局面で、デザインや設計、テクノロジーでどう解いていくかをデザイナーは発信できていないですし、テレビといったメディアなどにはまだ呼んでもらえてない。おそらくそれは、デザイナーや建築家がそういったことに答えてくれる人だという認識が一般的にはまだないからだと思うんですよ。具体的なかたちをつくる人たちとは思われていても、考え方の部分まで設計する人だというところまで認識されていないので、やっぱりもっとそういったことを発信していかなきゃいけないなと思います。

高橋さんはこの質問に対してどう思いますか?

高橋:不動産の分野では、今後地価がどうなるのかであったり、オフィスのあり方など、表面的な経済活動について意見を述べている方はいますけど、不動産は短期的にそこまで変わらないと思うので、不動産に関わる人が、アフターコロナといったことに対して何か答えれる人とは見られていないと思いますね。ここが一つの転換点になるのかなと思いますが、今回の災害に関しては受身だったかなと。

コロナの時代を生きるための「変化」

西澤さん、豊田さん、高橋さん

西澤:最後に、僕から投げ掛けたいと思うんですが、今回の「アフターコロナとデザイン」というテーマに関して、おふたりにメッセージをいただきたいと思っています。

ウィズコロナ/アフターコロナについて、建築家、不動産、旅行会社、もしくはクリエイティブという視点から、今後担っていく役割や、やらなくちゃいけないと感じていることについてお話いただければと思います。

豊田:さきほどの質問がすごく示唆的だったと思うんですが、20世紀においては、高度経済成長や土建国家といった背景によって、建築業界が変わらなくていい領域であり続けたまま大きくなってしまったと思うんです。コロナを期に、物質と情報の間をもっとスムーズに捉えなきゃいけないという議論も含めて、かなりの発想の転換が求められています。その時に、建築業界が社会に変わることを求めるんじゃなくて、まず自分たちが勇気を持って変化することで、提供できる価値が広がっていくんだと思います。

西澤:なるほど、ありがとうございます。

僕も重要なのは「変化」だと思っていて、自分の実体験としても、このコロナの状況でもうまくやっている人たちは、こういった状況になる前から変化を楽しんできた人たちだと思うんです。おもしろいことには首を突っ込んで、全部トライしてきたような人が、この逆風と思われるコロナ禍の状況を追い風に変えていて。

常に変化し続けることの重要性はよく言われていることですが、いまの状況であらためてそう思いますね。クリエイターとかデザイナーは、本来はそういったことを本質的に持ってる人たちだと思うんですが、豊田さんの話にもあったように、「俺はこの分野の専門家だ」といった縮こまった視点になった瞬間につまらないことになるんだろうなと。常に変化を楽しむのが大切なのかなと思います。

それでは最後に、職歴からしても変化を一番楽しんでいる高橋さんにいい感じに締めてもらおうかなと(笑)。

高橋:ハードル上がりましたね……。私も、やっぱりこれからは大事なキーワードは、変化だと思っていまして……(笑)。

西澤:3人とも被った!(笑)

高橋:いや、でも本当にそうだと思ってて。じゃあどうすれば変化できるのかという視点で考えてみると、人間は変化が嫌いな動物なので、基本的には変わりたくないと思うんですね。創造系不動産スクールでも、自分自身が持ってる壁をどうやって超えていくかっていう、まさに変化をテーマにやっているんですが、私自身キャリアが変化していく中で思うのは、やっぱり場所を無理やり変えてしまうっていうのが、変化にとって一番近道だと思います。

私も、実は自分自身が変化することはなかなかできなかったのですが、環境を変えてみたら、自分の想像力を超えて変わっていく感覚があったんですね。いすみに行かなかったら旅行業をやろうなんて絶対思わなかったと思いますし、変化のためには、場所を変えてみることを積極的にやってみるといいのかなと思いました。

西澤:ありがとうございます。難しく考えず、変わるための第一歩として、とりあえず場所を変えてみる。はい、いい感じに締めていただいたところで、「みんなでクリエイティブナイト」初のオンライン配信を終了させていただこうと思います。みなさんありがとうございました!

豊田&高橋:ありがとうございました。

西澤さん、豊田さん、高橋さん

文・編集:堀合俊博(JDN) 写真:深地宏昌(エイトブランディングデザイン)

当日配信された動画はこちらからご覧いただけます!

【関連記事】
・デジタルとフィジカルを跨ぎ、「コモングラウンド」を建築する:第4回みんなでクリエイティブナイト(前編)
・建築と不動産、建築と経営の「あいだ」を追究する:第4回みんなでクリエイティブナイト(中編)

【次回で最終回!】

2019年8月2日の第1回目開催より、2年半にわたって実施してきた「みんなでクリエイティブナイト」ですが、次回の開催で最終回となります。

本イベントのフィナーレとなる第9回目は「ブランディングとデザイン」をテーマに、日本のブランディングデザインを代表するおふたりの仕事を振り返りながら、今後のブランディングデザインの可能性について、宮田さんと西澤さんに語り合っていただきます。

また、今回も登壇者への質問を事前に受け付けています。トークセッションのトピックとして取り上げさせていただきますので、ぜひ質問をお寄せください!

質問投稿フォームはこちら:https://forms.gle/9UzW4vX3EjW7HCBS8

※質問受付締め切り:1月31日(月)

■開催概要

第9回テーマ:「ブランディングとデザイン」

開催日時:2月1日(火)18:00~19:30

会場:YouTube Liveにてオンラインでの開催

参加費:無料
申
込:リンク先より詳細をご確認ください
https://www.8brandingdesign.com/event/contents/creative-night/minna09/