デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授である建築家の豊田啓介さんと、創造系不動産代表を務める高橋寿太郎さんのふたりをゲストに迎えた第4回の様子お伝えする本レポート、後編ではいよいよ3人による鼎談の内容をお届けします。
イベント当日は、JDNにて事前に募集した読者からの質問に対してそれぞれが答えながら、テーマである「アフターコロナとデザイン」について語り合いました。
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西澤明洋さん(以下、西澤):それでは本題の「アフターコロナとデザイン」に入っていこうと思うんですけど、いきなり僕の仮説から入ってしまうと、コロナをきっかけにものごとが極端に変わることはないんじゃないかなと思ってるんですよね。いま、大きく変化しているのは、以前からその種があったところだと思うんです。
たとえば、この時期にEC事業をはじめた僕らのクライアントは、いま外出して買い物がしにくくなっている状況なので、売り上げをどんどん伸ばしている方が多いんですが、それはコロナとは関係なく、もともとECの準備をきちんと進めていたからなんですよね。コロナ以前に、今後の変化の兆しみたいなことをきちんと予見して、先にはじめてしまっていた人たちが、この機会にその成果や手ごたえを感じてるんじゃないかなと思うんです。
そういったことから、おふたりにお話を聞いていきたいなと思います。さっそく事前にいただいていた質問にお答えしていきましょう。
Q.コロナ後も変わらない、人間にとって普遍的なデザインとは何でしょうか?
西澤:しょっぱなから難しい質問で飛ばしていこうと思いますけれど(笑)。コロナ禍でばたばたと環境が変わってきてはいるものの、真ん中にあるデザインの芯は変わらないんじゃないかなと僕は思うんですが、いきなりこの質問、どうでしょうか?
豊田啓介さん(以下、豊田):いきなり深いの来ましたね。ビールもっと飲んどけばよかった(笑)。
いま西澤さんがおっしゃったみたいに、別にコロナだけが社会を変えるということではなくて、表面張力みたいに、針でつつけば割れるような状態だったことが、コロナをきっかけに変化しているにすぎないと思うんです。僕らの仕事においては、「デジタルツイン」という言葉が最近よく言われていますが、テクノロジーによって実空間とデジタルを、ペアでどうビジネス化するかという期待は明らかに高まっているのを感じています。
たとえば、アフターコロナでは「出勤率を30パーセントにしなくてはいけない」「席の配置は物理的に距離がとれているか制御しなくてはいけない」といったことが突然必須のニーズになってきています。出社率だけならエクセルでも管理できましたが、毎日変わる出社の顔ぶれや部署、移動やミーティングまで含めて距離や空気の共有を管理しようとしたら、オフィスのデジタル化とその中での空間的管理はもう不可欠でしかありません。そういったデジタルツイン的な考え方だと、テクノロジーと物理的な空間がシームレスになり、その分野におけるニーズが突然顕在化するわけです。
ただ空間やモノをデジタル記述したものをデジタルツインといいますが、それらがセンサーやいろんなデバイスも組み込まれている汎用的な状況をちゃんと探し出して、環境側からあらかじめ提供しておこうというのがコモングラウンドという考え方で、コロナ禍でその必要性も一気に認知され始めていると感じます。デジタルツインやコモングラウンドについてはまだまだ端緒に着いたばかりなので、これから技術的にやらなきゃいけないことはたくさんあるんですが、そういった時に、あらためて場所の価値とはなにかと、考え直されていくと思います。その場所がもつ歴史や地形、物語など、決してデザインできないものの価値が、今後間違いなく上がっていく。それは、僕がスマートシティに関わる仕事をする中でもすごく感じることですね。
西澤:建築家は、リアルなものを扱い、設計していくことが当たり前とされている中で、豊田さんはデジタル領域を追求されていますが、手がけられたお仕事を見ていても、まずはリアルなものを扱っていますよね。たとえば、原研哉さんとコラボレーションされた仕事も、リアルな場所をデジタルで精密に読み解き、リアルにつくっていく。そう考えると、手法はデジタルではあるけれど、根っこにあるものは建築家として同じなのかなと思うのですが。
豊田:そうですね。デジタルとアナログというものは、どうしても二項対立的に捉えられてしまっていますが、それらの混ぜ方や組み合わせ、抽出の仕方というのはさまざまなはずで、どこからどこまでをデジタルもしくは物質で扱うのかという“編集性”は、まだまだたくさんあるはずなんですね。デジタルなはずなのにすごく物質感や素材感が際立つものや、デジタル技術を経ないとできあがらないものを取り扱ったり。僕らは仕事を通して、その可能性をいろいろ見てみたいというのがあります。
西澤:豊田さんは、もともとnoizを立ち上げる前は、バックボーンとして建築の修行をどこかでされてたんですか?
豊田:僕は安藤忠雄建築研究所出身なんです。
西澤:めちゃくちゃローテクな世界ですよね。
豊田:安藤事務所は設計のロジックが明快なんで、ある意味ではものすごくアルゴリズミックなんですね。「建築家の意志」といった抽象的なものを、いかに幾何学とロジックに落とし込んで、誰がつくったとしてもその強度が出るものにしていく、ということが明確な事務所なので。そこで学んだからこそ、いまの仕事ができてるっていうのは間違いなくあります。そういう意味でも、素材感といったデジタル化できなさそうなものを、いかにテクノロジーとリンクさせるかといういまの考え方のバックボーンとしての影響はあるかもしれないですね。
西澤:高橋さんはどうでしょうか?建築設計から不動産営業、そして創造系不動産からスクールまで、高橋さんの仕事における普遍的なものが、共通項としてあると思っていて。それらの根っこの部分でのつながりってなんでしょうね?
高橋寿太郎さん(以下、高橋):そうですね、もちろんものづくりが自分のバックボーンというか、スピリットとしてはあるので、不動産やスクールをやるにしても、そういった気持ちを大事にしているということはあると思います。活動をしていく中で、どちらかというと建築や不動産というより、「人が移動するっていうのはどういうことなんだろう?」「どうすれば人は移動したいという欲求が湧くんだろう」など、「移動」が自分のテーマのひとつとして加わった感じはあります。最近はいすみで登記をして旅行会社もはじめたのですが、そこには「移動」について考えていきたいから、という発想がありました。
西澤:設計するものが建物じゃなくて、人の動線、移動そのものになってきている。
高橋:建物の中での動線というよりも、人はどういう時に不動産を売ったり買ったりするのか、ということですよね。結婚や進学、転職などのライフイベントがあったときに、人は引っ越したり、家を買ったり、建築家に頼んで家を建てたりする。そういった、人が「移動」するタイミングについて考えはじめましたね。
建築家・隈研吾が語る「箱からの脱出」
西澤:先日建築倉庫さんとのオンラインイベントで、建築家の隈研吾さんと対談したんですが、隈さんはアフターコロナの建築や、世界がどう変わるのかということについて、「箱からの脱出」という話をされてたんですね。隈さんのような、「箱=建物」を散々つくってきた人がどうしてそういった考えになったんだろうと思いながら聞いていたんですが、これまで「箱」をつくってきたおふたりは、「箱から脱出する」ことについてどう思いますか?僕からしたら、ふたりともすでに建築という箱から出てる人なんですが(笑)。
豊田:そうですね、僕の場合は物理的な領域だけを扱うのが建築じゃないという考え方がベースにあるので、別に箱であってもいいし、箱でなくてもいいというのは前提なんですよね。
スマートシティに関わる仕事の中でよく話しているのは、きちんとシステムに組み込まなきゃだめだということです。すでにあるものをデジタル化するのではなくて、プラットフォームをどうデザインするかを考えなくてはいけない。なにが組織として足りてないのかなど、組織やシステムそのものを構造化していく。そういったシステムのデザインも、建築家の仕事でもあってもいいんじゃないかと思うんです。
西澤:高橋さんはどうですか?「箱からの脱出」ということについて、どうとらえますか。
高橋:そうですね、建築の世界から不動産やスクール、旅行業もやっているので、常に箱から出てるような感じかもしれませんけど、逆に不動産やスクールといった事業は、建物や空間といった「箱」にとても制約されていて、それなしにはできないような仕事だと思うんです。旅行業に関しても、私たちがやっているのは観光地案内ではなくて、空き家の紹介をしているんですね。
西澤:実はそのツアー好きで僕も参加してるんです。いまお寺とかの空き家もあって、すごいおもしろいですよね。
高橋:大正か昭和くらいからある剣道場とかもありますよね。明治時代に建った古民家など、そういったものが地方にはごろごろあるんですね。
そういったものを扱っているとですね、やっぱり「箱」っていうものからは全然逃れられていない。ただ、建築や不動産って、いずれにしても制度的なものに紐付いたハードなので、そこで行われるコンテンツというか、それが利用される動機に目を向けることが最近多くなってきていると思います。それは、もしかしたら「箱」という制約から少し出ていっている感覚なのかもしれません。
Q.「教育」という観点において、アフターコロナではいま以上にオンラインが活用されていくと思いますか?
西澤:いまは学校の先生方はオンラインで授業をしなきゃいけなくなって、普段の仕事に加えて仕事が山積みで大変だと聞いてますが、今後の教育は変わっていくのか。豊田さんどうでしょう?
豊田:教員がとても大変な思いをしているのは、突然の状況で大学という組織規模での対応がいきなりは難しく、どうしても個人対応に頼らざるを得なくなってしまったからですよね。社会のオンライン化やシェア、誘導化を阻害しているいまいちばんのボトルネックは教育だと思っているんです。でも、コロナ云々以前の話として、やっぱり教育っていま制度的にも社会通念的にも最も流動性低い構造を持っちゃってるのは確かで。
いま、プラットフォームとして「職」と「住」をどうシェアさせるかとか、インテグレートするかという方向に世の中がなってきていますが、「職」のシェアとしてのシェアオフィスや、「住」のシェアとしてのAirbnbなどがある中で、このコロナで顕在化した一番のボトルネックは「学」だと思ってて。学校は、所属がひとつじゃなきゃいけないし、多拠点小学校といったものもないじゃないですか。そういうことができて、はじめて多拠点での活動というのものが実現できるんじゃないかなと。
たとえば、子どもの教育について考えるときに、本当は自然の中で育てたいという気持ちがあったとしても、受験のことであったり、都会での生活や、文化的な生活についても学んで欲しいなど思っていても、いまは都会か田舎かのどちらかを選ばなくちゃいけない。自然と都会の割合を3:7にして、その時に応じて移動するようなことができればいいのに、現状では諦めざるを得ない。仕事や住宅に関しては場所を選ぶことができるのに、学校だけはそれができないんです。本来は、小学校ぐらいからそういったことができるシステムがあるべきだし、公立の学校もそういった考え方でいいと思うんですよね。
むしろ大学に関しては、リモートで単位を海外の大学とシェアできるような、そのくらいでもいいんと思うんです。オンライン学習やリモート講義などは、まだ全然本領が発揮できていないですよね。でもまだそうした概念が追い付いていないだけで、コロナのような状況で可能性が見えてくると、今後はもっとさまざまな組み合わせが出てくると思います。
西澤:実は僕らエイトブランディングデザイン、この5月で15周年だったんですね。今年は、15周年を記念してリアルなイベントをいろいろやろうと思ってたんですが、全部このコロナの状況で吹っ飛んでしまって。で、なにをしようかなと思ったときに、直感的に浮かんだキーワードが「教育」だったんです。このコロナの状況でオンラインだからこそできることって、「教育のデザイン」なんじゃないかなと思って。
この「みんなでクリエイティブナイト」のもとなっている「クリエイティブナイト」は、スタッフへの社内教育としてはじまったのが、いまみたいなかたちで発展していったんですが、僕らはこのコロナ禍にはオンラインの教育に可能性があると思っています。なんなら、みんなが教育者になっていくんだろうなと思ってるんですよ。
たとえば、ここ数年YouTuberとして活躍される方が増えてきて、僕自身もデザイナーとしてそういった場に出ていくことも当然頭をよぎるわけですよ。でも、最初は僕も恥ずかしいなと思ってて(笑)。本を書いたり、トークイベントぐらいだったらいいけど、動画で自分が映ってるの見るのとか嫌だなと思ってたんですけど、コロナをきっかけに思い切って挑戦してみたら、もっと早くやっときゃよかったなと思っていまして(笑)。
もちろん、リアルで教育することはとても大事なんですけど、たとえばこの会場でイベントをやる時は最大でも50人しか入らないんですが、オンラインだとシェアされる数がまったく違う。リアルの場合は「箱」に依存するんですよね。
豊田:縦に深く届くリアルに対して、オンラインは薄く軽く、そして広くリーチできる。まったく違うチャンネルですよね。
西澤:そうですね。たしかに深さが変わったのは感じてます。リアルの場では、もっとディープに会話ができたのが、こういったオンラインになることで、質が変わってくるのは感じています。
ただ、そのことも含めてうまく使いこなすことや、設計していくこと。教育のためのデザインは、まだまだ可能性があるなと思ってて、僕はけっこうわくわくしてますね。
西澤:高橋さんにもぜひ聞いてみたいんですけども、創造系不動産スクールはビジネス化して何年目ですか?
高橋:8年ぐらいやっていて、いま19期生を募集しているところです。
西澤:アフターコロナのオンライン教育は変わっていくと思いますか?
高橋:創造系不動産スクールは、オフラインでその場に集まって体験を共有していくかたちでずっとやってきたんですけど、この期間に急遽オンラインでの実施に変えました。ほかにも、いま関東学院大学の建築学部で不動産学基礎というレクチャーをやっていて、80人ぐらいの生徒に対してZoomで授業をやっているんですが、もう教育は基本的にオンラインにしたほうがいいんじゃないかと感じていますね。
オンラインだけではもちろん学びきれないものもあるので、オフラインも取り入れたり、それらが融合したものとかをやっていけばいいと思うんですけど、大原則としてオンラインをベースにしたほうがいいかなと思っています。まず出席率が違いますし、授業を受ける側からするとすごい集中できると思いますよ。
Q.アフターコロナの働き方、ワークプレイスをどうデザインしますか?
西澤:先ほどの教育に対して、働く場所についての質問ですね。豊田さんいかがでしょうか?
豊田:テレワークが推進されているとはいえ、製造業などをはじめ、ものや場所に縛られてしまう仕事も当然あるので、すべての働き方が変化するという話ではないと思います。デジタルとアナログに関しては、白か黒といった話ではなくて、その間にはグラデーションがあり、段階的にいろんな組み合わせがあるということに、僕らがもっと高い解像度で考えていくというところがポイントだと思います。
その混ぜ方の選択肢は、明らかに広がってると思いますね。いまはソーシャルディスタンスの視点がありますが、カフェで働くことも選択肢として普通になったし、いまのように自宅で働くことも、数か月前じゃ誰も想像しなかったことで。いまはオンライン会議で赤ちゃんの声が聞こえてるのをみんな許容するような精神が生まれていますよね。そうやって、選択肢がどんどん増えてくるのは必然でしかないとは思います。
たとえば今後、チェーンのファミレスやカフェ、コンビニがシェアオフィス化していくことだってあるかもしれない。そういったシステムなら、場所を新しくつくらなくても、場所の定義を編集するだけでできることだと思うんです。働く場所がオフィスじゃなきゃいけないっていう固定概念を変えた瞬間に、いろんな可能性があると思うんですよね。
カフェとかにいくと、明らかにNDA(秘密保持契約)に関わりそうな打ち合わせをしてる人がいっぱいいるじゃないですか(笑)。そういった人に対して、チェーンのシェアオフィスがセパレートブースを提供したりとか。
西澤:いいですね。僕、この前コンビニでめっちゃ見積りを大声で読み上げてるおっちゃん見ました。それ言ったらあかんやろみたいな(笑)。
豊田:なんかこう、NDA用ヘルメットみたいなものがあるといいのかなと。ヘルメットした瞬間にそこがオフィスになるというか(笑)。
一同:(笑)
西澤:高橋さんはどうですか、不動産のお客さんなどとの関わりから、アフターコロナのワークプレイスについて思うところはありますか?
高橋:そうですね。もちろん私もテレワークになって、ほとんどのミーティングをオンラインでするようになり、いまもそれが続いてるような状態なんですが、ゆくゆくはいすみで1週間仕事できるようにしたり、そういった働き方もどんどん取り入れていきたいなと思っています。
これはコロナの前からですが、地方創生の文脈で、人口が減ってしまった地域にもっと人を呼びたいという声があり、テレワークや地方のサテライトオフィスづくりの仕事はしていたんですね。地方は家賃が安いので、東京が拠点の会社が地方にオフィスを分散させるような、そういったお客様をどんどん呼び込んでいたり。でも、実際はそこまで進んでいなかったんですが、今回のコロナウイルスの影響でもっと加速すると思いますね。
私の世代は、関西から東京に出てきて仕事をするのが格好いいと思っていたんですけど、いまは東京のオフィスで働くよりも、地方でのんびりと仕事をして、日が暮れたらその日の仕事は終わりにするみたいな、そういう生き方が憧れられたり、見直されていくと思うんです。若い方ほどそういった価値観を持っているみたいなんで、今後はもっとそういった方が増えるんじゃないかなと思います。