デジタルとフィジカルを跨ぎ、「コモングラウンド」を建築する:第4回みんなでクリエイティブナイト(前編)

デジタルとフィジカルを跨ぎ、「コモングラウンド」を建築する:第4回みんなでクリエイティブナイト(前編)

デザインの役割や価値について“みんな”で考えていく、エイトブランディングデザインとJDNの共催イベント「みんなでクリエイティブナイト」。「アフターコロナとデザイン」をテーマに6月26日に開催された第4回の様子を、3回に分けてお伝えしていきます。

当初、今回のイベントは「新しい建築とデザイン」をテーマに開催を計画していましたが、新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言の発令など、社会全体が大きな変化を迎える時期におけるこれからの“新しい”を考えていくためにも、改めて「アフターコロナとデザイン」をテーマに設定しました。開催方法も、これまではエイトブランディングデザインのオフィスにて開催していましたが、初のオンライン配信を実施しました。

ゲストに迎えたのは、noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授である建築家の豊田啓介さんと、創造系不動産代表を務める高橋寿太郎さんのおふたり。ファシリテーターをブランディングデザイナーの⻄澤明洋さん(エイトブランディングデザイン)が務め、コロナの時代のデザインについて語り合いました。

レポートの前編では、豊田さんによるレクチャーをお届けします。

「騒音」とされるものに価値を見出す

建築デザイン事務所「noiz(ノイズ)」は、おもにデジタルとフィジカルの境界、情報と物質の間にあるものをどのようにして等価に扱うのかをテーマに活動をしています。

<strong>豊田啓介</strong> 建築家 noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授  1972年、千葉県出身。1996年、東京大学工学部建築学科卒業。1996〜2000年、安藤忠雄建築研 究所を経て、2002年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所 noiz を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領 域横断型プラットフォーム gluonを金田充弘と共同で設立。コンピューテーショナルデザインを 積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、建築やインテリア、 都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。現在、東京藝術大学アートメディアセ ンター非常勤講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師、芸術情報大学院大学(IAMAS)非常勤講師、 東京大学生産技術研究所客員教授(2020年〜)。「WIRED Audi INNOVATION AWAED 2016」 受賞イノヴェイター。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017年〜2018 年)。著書に「Rhinoceros+Grasshopper 建築デザイン実践ハンドブック」(共著、2010年、 彰国社)など。

豊田啓介 建築家 noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授  1972年、千葉県出身。1996年、東京大学工学部建築学科卒業。1996〜2000年、安藤忠雄建築研 究所を経て、2002年コロンビア大学建築学部修士課程(AAD)修了。2002~2006年、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所 noiz を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。2017年、「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領 域横断型プラットフォーム gluonを金田充弘と共同で設立。コンピューテーショナルデザインを 積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティング等の活動を、建築やインテリア、 都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。現在、東京藝術大学アートメディアセ ンター非常勤講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師、芸術情報大学院大学(IAMAS)非常勤講師、 東京大学生産技術研究所客員教授(2020年〜)。「WIRED Audi INNOVATION AWAED 2016」 受賞イノヴェイター。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017年〜2018 年)。著書に「Rhinoceros+Grasshopper 建築デザイン実践ハンドブック」(共著、2010年、 彰国社)など。

音楽の歴史を紐解くと、クラシックしかまだ世の中になかった頃に、ジャズという種類の音楽が生まれた時、それは「騒音=ノイズ」と見なされていました。いま聴けばそれは「ジャズ」という音楽だとわかるのですが、もともと「ノイズ」だとされていたものが音楽として捉えられるかどうかは、聴く側の社会がそれをきちんと評価できるのか、そしてその感性を育てることができるのかが重要になってきます。

ジャズに限らず、ヒップホップやテクノといった新しい音楽が誕生した時にも同じことが言えますが、もしそれらが騒音としてしか見なされないとしたら、それは評価する側である社会の問題です。そういった、まだ世の中では「ノイズ」とされてしまうような価値を掘り出していきたいという思いが、僕らが「noiz」と名乗っている理由です。

「野老朝雄展「CONNECT」(2017)のために制作さ れたコラボレーション・映像作品」

最近手がけた仕事としては、オリンピックのロゴにも使われている野老朝雄さんの組市松紋というパターンの無限の可能性を表現するアニメーションを作成しました。野老さんは幾何学的なパターンを多用したデザインをたくさんされていますが、「動かしてみたら絶対おもしろいだろうな」という作品がいっぱいあるんですね。野老さん自身はコンピューターをそんなに使うわけでないのですが、野老さんがデザインしたパターンが、スケールが変わったとしても成立するということを示したいと思い、アニメーションという形式で表現しました。

noizの仕事ではコラボレーションをすることが多いのですが、最近のものだと、台湾の台南美術館の駐車場の入り口の階段をパブリックアート化するプロジェクトに、原研哉さんと参加しました。原さんはグラフィックのアーティストなので、原さんが思い描くものを立体にした時に、どんな可能性が生まれるのかということを、コンピューテーショナルな技術を駆使して設計しています。

微妙な光の反射を増幅する装置としてのインスタレーションを1ミリ以下の精度で3Dレーザースキャンを行い、デザインと施工までをデジタル技術に落とし込んで制作を進めています。この仕事では、そういったかたちをつくる方法自体を考えながら進めていった感じですね。

この「ヴォロノイ畳」は、「なぜ畳は四角じゃなきゃいけないのか」という疑問から生まれたものです。アルゴリズムでいろいろなかたちをつくることができるので、部屋のかたちをデータ化できれば、さまざまな条件や制約状況も満たした世界に一個だけのパターンの畳をつくることができる。どんな部屋のかたちでもできるし、スキャンすれば世界中どこからでも正確なデータを送ってもらえるので、たとえばブエノスアイレスやケープタウンからだとしても、自分だけの畳が同じ値段でフルカスタムにつくることができます。

い草の農家や畳職人さんは、いま絶滅危惧種になりそうなんですけど、こういった技術を用いることによって、新しいマーケットが世界に開けるんです。デザインとしてもおもしろいし、日の当たる角度によって、銀色や緑色に見えたり、畳本来の魅力もバリューアップできる。世界中でこういったものを買いたがる人っていうのはある程度いるはずなので、伝統産業も守ることができるんです。これは岐阜県の「国枝」という明治35年創業の会社と一緒にやってるんですが、Webサイトの立ち上げと販売まで、うちの事務所でやっています。

デジタルの領域を含めた「コモングラウンド」の建築家として

等々力の住宅(写真:高木康広)

これは、すべてゲームエンジンを使って設計した等々力の住宅です。建築では、通常CADやBIMといったソフトウェアを使用しますが、建設の分野に限られていますし、挙動も重いんですよね。ゲームエンジンは、もっとさくさくと記述ができて、スキャンしたデータをインタラクティブに動かすには圧倒的に強い。この写真も、実際にできあがったものじゃなくて、レンダリングしたシミュレーションの画像なんです。ゲームエンジンを使えばカラーバリエーションや色のテクスチャーマッピングなども簡単にできるので、より感覚的に自然な素材や質感が圧倒的に気軽に扱えます。

1980年以降のグローバル企業の世代的変遷(©noiz)

こういった仕事をしていると、自分たちでも現実と仮想の境目がなくなってきます。建築は、3次元のものを扱う職業だったのが、テクノロジーをベースとしたデジタルの領域が入ってくることで、コストや時間、効率など、これまで扱えなかった次元もパラレルに扱えるようになってきています。

つまり、建築家が扱う領域も従来の三次元に閉じるのではなく、50次元、100次元といったレベルで拡張しはじめていて、かたちだけじゃない使い方や機能性といった領域にも広がってくる。それらを広義の建築として捉えることが、僕らの活動だと言えると思います。建築家として、そういった分野においてなにができるのかを考えながら仕事をしていますね。

Diagram for Expanded Dimension of Architecture(©noiz)

現実の人たちが認識する世界と、デジタル世界のアバターやロボットなどが認識する世界、それらが共通するものがいま存在しないので、その共通フォーマットをつくるのも建築家の仕事なんじゃないかと思い、最近では「コモングラウンド」という言い方をしています。さきほどお話しした建築の空間や都市をゲームエンジンで建築するための開発をはじめているのも、その一環です。

僕らは、2025年の大阪・関西万博の誘致会場計画のディレクションを担当したのですが、先日森美術館で開催された「未来と建築」展でPARTYさんと共同で製作した展示では、畳のアルゴリズムと同じ原理であるヴォロノイパターンをつかった都市計画を提案しています。

未来都市は、2次元の絵や3次元の模型で表現できるような物理空間ではなく、今後高次元になっていくので、せめて4次元か5次元のインタラクションで機能する都市のあり方を展示しようとしたものです。物理空間における会場だけじゃなくて、オンラインのバーチャル会場があることが前提で、さらにその間に、物理とバーチャルの空間がインタラクションするためのコモングラウンド会場がある、その3つをデザインしないと、2025年のイベントとしては成り立たないと思うんです。いま、そのためのノウハウを開発しようとしています。

最近では、「Fortnite(フォートナイト)」というゲームでトラヴィス・スコットのライブが行われて話題になりましたが、人の集まり方やイベントの在り方は、劇的に変化してきていると思います。2025年の万博の累計入場目標数は2,800万人なのですが、トラヴィス・スコットのコンサートのほんの数日での接続者数、つまり来場者数が2,800万だった。なので、万博でもそういったアプローチを考えなきゃいけないですね。

万博の仕事に関わるようになってから、企業のトップの人と会うようになったんですが、昭和的な時代的価値観を共有していることを前提として期待されているのがなんだか嫌になってしまって。なので、むしろそういった偉い人たちと会うときには、あえてこういったTシャツにキャップという格好でいくようにしたんです(笑)。そうすれば、見るからに普通とは違う話をする人だなって感じなので、最初から前提の共有を諦めてもらえる。そういうのもあって最近は、キャップかぶって頑張ってます(笑)。

西澤さん、豊田さん、高橋さん

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文・編集:堀合俊博(JDN) 写真:深地宏昌(エイトブランディングデザイン)