「気が短い」「マイペース」「派手好き」「ひとりが好き」などなど……実は多くの生きものは、人間とよく似た個性や特徴をたくさん持っています。
大阪の生きているミュージアム「NIFREL(ニフレル)」にて、企画展「あなたも愉快な生きものだ!展」が2024年3月6日からはじまりました。企画したのは、絵本を中心に活動するユニットtupera tupera(ツペラツペラ)と、デザインチームのminna(ミンナ)です。
本展は「生きものたちと自分との共通点を見つける」を展示テーマに、多様な生きものたちの個性に気づき、自分自身の個性も振り返る“じぶんにふれる”企画展。“感性にふれる”施設・ニフレルとユニークな作品を創造する2組のさまざまな仕掛けを楽しむことができます。
本記事では、内覧会での様子を交えてレポートします!
生きものや自然の魅力を間近に楽しめるニフレル
ニフレルは大阪・万博公園のそばにある、水と陸の生きものを共にあつかうミュージアム。世界最大級の水族館「海遊館」が運営している同施設は、水槽で囲まれた海遊館とはまた異なる趣で、独自の演出が施されているのが特徴です。
たとえば、ここには壁に埋められた水槽がないのも特徴のひとつです。生きものの姿をより近く、さまざまな角度から観察できるようにという意図から、生きものに合わせた色彩や光、映像の演出がおこなわれ、さらに光のアーティスト・松尾高弘が手がける大型のメディアアートも設置されています。
このようにさまざまな演出を凝らしているニフレル。本展では既存の生きものや水槽、空間演出はそのままに、生きものとの共感を生み出し、理解を深める工夫が試されました。
「はずかしがり屋」の生き物とは?生きものと自分の共通点や違いを見つける
■いろにふれる
最初の展示エリア「いろにふれる」では、水槽の上部に「仲間と一緒にいると安心する」などの吹き出しが浮かんでいます。
近づいて水槽をのぞきこむと、「集団行動が好き」というキャプション付きでトリオで肩を組むキャラクターのパネルが設置されています。生きものの姿を眺めるだけでは伺いしれない魚の性質が、直感的に理解できる仕組みになっています。
■わざにふれる
2つめのエリア「わざにふれる」には参加型の展示があり、自分と生きものの共通点を発見するスペースが登場します。
まず「あなたはどんな生きものだ?カード」コーナーで、「はずかしがり屋」「器用」「ジャンプ力がある」など30種類の中から、自分の性質に近いカードを4種類選びます。そしてあらためて水槽をのぞくと、自分とおなじ特徴を持つ生きものが見つかるという仕掛けです。
■ニフレルメイクス
2階ニフレルメイクスでは、「わたしは愉快な生きものだ!ワークショップ」が待ちうけています。多彩な生きものパーツを組み合わせ、お面をつくれる体験型企画です。完成後はお面をつけて館内をめぐり、写真撮影も楽しめます(参加有料:1人1,000円、ペアで1,800円)。
「お面をつけるとつけないでは、ガラッと自分の中に変化が起こりますよ」とスタッフの方に促され、筆者も挑戦。たしかに“愉快な生きもの”に扮して館内をめぐってみると、自分がどんな個性を持つ生きものなのかと自覚が芽生え、なにか高揚感が沸いてきました。
「見る」から「見られる」へ。自分自身も見られる生きもの
本展では、tupera tuperaは絵やお面パーツなどのビジュアル制作を、minnaはグラフィックデザインや空間演出、映像や音楽のクリエイティブチームのアサインを担当しています。
小畑館長は「ニフレルではこれまでもアーティストとのコラボレーションを重ねてきましたが、今回はより生きもののことがたくさんの人に伝わればと、人以外のものも対象に作品づくりをしている2組に依頼しました」とコメント。
これまでも「tupera tuperaのかおてん.」などさまざまな展覧会を企画制作しているtupera tuperaですが、実際の生きものがいる場所での展示ははじめてとのこと。そんな彼らが注目したのは、展示空間における“見る-見られる”の関係でした。
「美術館や動物園、水族館では見る-見られるの関係が決まっていることが多いです。でも実はそれを見ているあなたも、生きもの側から見たら興味深い生きものなのかもしれない。生きものを通して自分自身を見つめ直すことができたら、より生きものへの理解が深まるのではないかと考えました(tupera tupera)」。
本展では、生きものを鑑賞するその人間もまた生きもので、鑑賞される側にもなりうることに気づかされ、クスッと笑える仕掛けがしばしば埋め込まれています。
たとえば「見られる」側を体験し、生きものの立場に近づけるフォトスポット。陸や海中、岸辺を模した3つのブースがあり、お面をつけて記念撮影ができます。より本格的に「見られる」側を体験できるよう、前面にアクリルをあえて設置したそうです。
そして「あなたはどんな生きものだ?カード」も、ケースに4枚のカードをセットして裏返すと、カタカナで命名をされてしまうというつくりに、企画の妙があります。
「ぼくら人間以外の生きもの、たとえばヒトヅラハリセンボンなんて、自分がその名前で呼ばれているとは1ミリも思っていないはずなんです。名前を付けられるというのは理不尽なことだと思うんですが、その理不尽さも面白い。人間のみなさんにもその体験をしていただきたい(minna)」。
動物園の文化史からひも解いた今回の展示
前述もしましたが、見る-見られるの関係は固定的な傾向がある動物園や水族館。『動物園の文化史』(溝井裕一・著)によると、背景には動物園がキリスト教の影響下で発展したことがあるといいます。キリスト教では人間と動物が一線を画する存在で、人間が動物を支配することを前提とするからです。
しかし、日本人の自然観を支えるアニミズムでは、人間と動物をおなじ生きものとしてあつかう傾向があり、西洋由来の動物園がなじまなかった歴史も紹介されています。この理解に沿うと本展は、生きものと人間との関係を、日本人に合う形へと翻訳しているようにも思えます。
そういえばここは「太陽の塔」のお膝元。作者の岡本太郎氏は1970年の大阪万博でその地下に、世界中の仮面などの民族資料を展示していました。
氏が書いた「万国博に賭けたもの」という文章には、「人間はそもそも根源的に疎外されている。ほかの動物とは違う(中略)そして、 祭りにおいてこそ絶対と合一する」とあり、太陽の塔での展示に人間と生きものとの共同性を取り戻す意義を込めていたことがわかります。
お面をつくり、身につけることで自然観を捉え直すことができる本展には、太陽の塔との共通点も感じられ、興味深い内容になっていました。
最後にminnaの角田さんは本展について、「多様であることが愉快で面白い!とポジティブに捉えられる企画展にしたいという思いも込めました。一見派手で面白おかしく見えるかもしれませんが、それはあくまで入り口で、根底のところでは自分にふれ、生きものにふれながら、生きものとの共通点を発見し、ニフレルの中をめぐりながら自分自身を見つめ直す機会にしてほしいです」と、コメントしました。
「あなたも愉快な生きものだ!」は、2025年1月13日まで開催中。子どもも大人も楽しみながら、生きものと自分自身に対する思考を深めることができる奥深い展示となっているので、ぜひ訪れて体験してみてください。
開催期間:2024年3月6日(水)~2025年1月13日(月・祝)
https://www.nifrel.jp/cp/yukainaikimono/
取材・文:平塚桂 編集:岩渕真理子(JDN)