メインテーマは「テック・エデン」、30周年でさらなる熱気を帯びる「メゾン・エ・オブジェ」(2)

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メインテーマは「テック・エデン」、30周年でさらなる熱気を帯びる「メゾン・エ・オブジェ」(2)

編集部が注目、日本からの出展ブランド6組

前のページ冒頭で示したように、日本からの出展者は相対的にその割合が増えた。かねてより日本は、そのセンスや独自の文化、緻密なものづくり、そしてクラフトが残存している稀有な先進国として海外では注目されている。

そうした観点から特に注目した6ブランドについて、現地取材と会期後の追加取材によって紹介する。

■貝印「ō(オー)」(縫製ハサミ)

ハサミやカミソリといった刃物や調理用品で有名な貝印が、日本法人として初出展(メゾン・エ・オブジェ9月展にはヨーロッパ法人で参加)。展示内容は、外観の独特なフォルムが目を引く縫製ハサミ。

貝印の縫製ハサミ「ō」

貝印の縫製ハサミ「ō」

これは、パリで活躍する帽子・ヘッドピースデザイナーの日爪ノブキさんとのコラボレーションによるもの。貝印の縫製ハサミのフラッグシップブランドとして、お披露目の場にメゾン・エ・オブジェを選んだ。

“切断”という機能を追及した末にたどり着いたというフォルムは、機能美そのものと言える。白と黒で彩られたシリコン製の指穴がブランドを特徴づけている。貝印には「DUPS³(※)」というものづくりの開発指針があり、それを最高レベルで体現した重要なプロダクトとのことだ。無垢の木でつくられたケースは、創業の地・関市がある岐阜県産の栗材を使用している。

貝印の縫製ハサミ「ō」と、そのパッケージ

貝印の縫製ハサミ「ō」と、そのパッケージ

商談の場としてだけでなく、グローバル総合刃物メーカー「KAI」としての認知拡大も意図した出展で、ファッションメディアや縫製に関わるデザイナーなどの関心も得ることができたそうだ。

※DUPS³:Design=デザイン性、Unique=オリジナル性、Patent=特許・知的財産、3つのS・・・Safety=安全性、 Story=ストーリー性、Sustainability=サステナビリティ

■YAMAGIWA

2023年4月のミラノデザインウィークに続く海外展示となるYAMAGIWA。日本の老舗照明メーカーで、デザイナーとのコラボレーションも数多い同社だが、改めて欧州市場での存在感を高めて代理店を獲得したい、という目的でメゾン・エ・オブジェに出展した。

右は倉俣史朗デザイン、オバQの愛称で知られる「K-Series」、中央の背の高い照明は伊東豊雄デザインの「TALIESIN POLYGON」、左は同じく伊東豊雄による「MAYUHANA」

右は倉俣史朗デザイン、オバQの愛称で知られる「K-Series」、中央の背の高い照明は伊東豊雄デザインの「TALIESIN POLYGON」、左は同じく伊東豊雄による「MAYUHANA」

フランク・ロイド・ライトの知名度が予想以上に高く、YAMAGIWAが長く取り扱うフランク・ロイド・ライトがデザインした「TALIESINシリーズ」の反応がとても良かったとのこと。欧州、アジアの幅広い国々のインテリア関連のバイヤーや建築関係者が来場し、目的達成に向けた良い手ごたえもあったそうだ。

また、段ボールを積層させた特徴的な外観のブースが注目を集めた。環境に配慮して制作したもので、アイキャッチとしても、会話の入り口としても効果的に機能していた。

YAMAGIWAのブース、右側が「TALIESINシリーズ」 ©juanjerezstudio

YAMAGIWAのブース、右側が「TALIESINシリーズ」 ©juanjerezstudio

■French design in dialogue with Japanese craftsmanship(東京都EDO TOKYO KIRARI内)

出展タイトルにあるように、フランス人デザイナー3組と江戸硝子、東京本染注染、江戸組子など東京の工芸6組のコラボレーションによる新製品の展示。東京都とパリ市の共同事業で、コーディネートしたのは京都に一軒のみ残る和傘屋「日吉屋」代表の西堀耕太郎さんが設立した日吉屋クラフトラボ。

French design in dialogue with Japanese craftsmanshipより、デザイナーJacques Avernaと丸久商店の共同作

French design in dialogue with Japanese craftsmanshipより、デザイナーJacques Avernaと丸久商店の共同作

日吉屋クラフトラボは、15年以上の海外展示会の出展経験を持ち、2015年からはパリ市内に拠点を構え、現在は1区サントノレ(Saint Honoré)通りに事務所兼ショールームを開設している。これにより、展示会の事前・事後の営業活動が仕組みとして構築されており、メゾン・エ・オブジェをさらに有効に活用できる。今回は、会期後にパリ市の歴史的建築物ローザン館(Hôtel de Lauzun)でプレゼンテーションと商談会もおこなっている。

本企画は東京都による「EDO TOKYO KIRARI」というブースの壁面でアイキャッチ的に展開された。メゾン・エ・オブジェにはこうした自治体単位の出展が複数あるが、初日、2日目と見ている限りは、来場者や商談の数などが最も多かった印象だ。

French design in dialogue with Japanese craftsmanshipより、デザインスタジオAC/ALと木本硝子の共同作

French design in dialogue with Japanese craftsmanshipより、デザインスタジオAC/ALと木本硝子の共同作

■IWATA(株式会社イワタ木工)

2017年の初出展から4年ぶり5回目の出展となるIWATA。もとはメイクブラシの軸の製造を中心にした木工会社で、2014年から自社ブランドのけん玉ビジネスが拡大した。けん玉ブームに業績が大きく左右される状況からの脱却が課題となり、けん玉の価値を押し上げることを目指した。

IWATAのブース

IWATAのブースの様子

けん玉をつくるためのろくろ技術がアート作品にも利用されることに着目し、造形物としての美しさを見せることを決め、遊び道具という既成概念のない海外展示会で勝負することにしたという。

今回は主催者が選定するトップブランドのみが出展できる「Signature」での出展となり、本記事冒頭でも紹介した「WHAT’S NEW?IN DECOR」に新作のウォールオブジェ「VASTO」がセレクトされた。来場者からも、とても高い評価を得たそうだ。

メゾン・エ・オブジェを営業活動において最も重要な施策と位置付けているとのこと。世界中から感度の高いバイヤーやインテリアデザイン関係者が集まるだけでなく、日本のバイヤーもトップレベルばかりなので、製品の価値を伝えるには最適な場所である。また、実際の製品を目で見て触れるため、その価値を効果的に伝えることができ、顧客獲得に直結する、というのがその理由だ。

IWATA 新作のウォールオブジェ「VASTO」、「WHAT’S NEW?IN DECOR」の展示より

IWATA 新作のウォールオブジェ「VASTO」、「WHAT’S NEW?IN DECOR」の展示より

■ワイ・エス・エム

新作の照明「owl」「Lineair」を発表したワイ・エス・エム。埼玉県八潮市に本拠を構える特注照明メーカーで、LED照明や薄型導光版を使った照明器具の設計製造を得意とする。メゾン・エ・オブジェには自社ブランドの照明製品を出展し、今回で4回目となる。

ワイ・エス・エムのブース

ワイ・エス・エムのブースの様子

最初の自社製品は2017年に生まれた。海外展開は想定していなかったが、海外の有名デザインブランドのバイヤーからメゾン・エ・オブジェ出展を勧められ、認証取得や貿易実務の勉強をし、JETROの支援も得て2019年に初出展した。

出展するたびに成果が伸び、今回は最も高い成果があったという。日本の展示会と違い、決定権を持つ来場者が多いので、その場でオーダーが入り、また世界からの来場者が自分たちの仕事に感動してくれる、という嬉しさはほかでは得られないものだという。

現在でもビジネスの9割は特注照明という同社。自社製品の位置づけは、直接には特注照明のビジネスの補完だが、同社を知ってもらうきっかけになり、特注照明の引合にも繋がっているという。出展が新人採用に繋がったこと、スタッフ一人ひとりの活躍の場となったことも効果として大きいそうだ。

ワイ・エス・エム 新作照明「owl」(手前)、「Lineair」(奥の3点) 「Lineair」は1年前のメゾン・エ・オブジェで出会ったベルギーのデザイナーとの共同

ワイ・エス・エム 新作照明「owl」(手前)、「Lineair」(奥の3点)。「Lineair」は1年前のメゾン・エ・オブジェで出会ったベルギーのデザイナーとの共同

■株式会社ルーセントデザイン EMISSION

代表の松尾高弘さんを中心に、光のインスタレーション、映像やライティングの空間事業を手がけているルーセントデザイン。2020年に“Light Crystallized = 光の結晶化” をコンセプトにブランド「EMISSION」を立ち上げ、プリズムアートによるインスタレーションやインテリアアート、プロダクトの制作とブランディングをおこなっている。

株式会社ルーセントデザイン EMISSION ブースの様子

株式会社ルーセントデザイン EMISSION ブースの様子

メゾン・エ・オブジェへの出展は「プロダクトの評価をもらう」という意味で、ブランド設立時からの大きな目標だった。今回の初出展では、新作のシャンデリアエレメント「LUX」を用いたインスタレーションをブースの中心にすえていた。来場者の驚きや感動の顔がとても印象的で、自分たちのやりたいことが国や人種を越えて共感を得ることを実感でき、業界の重要なキーマンから直接評価を得られたことは大きな自信に繋がったそうだ。

「LUX」は、ポリカーボネートに特殊な加工を施したもので、クリスタルガラスにはない軽さと丈夫さという特徴を持つ。空間に応じて自由に組み合わせるシステムを構築しており、今回の出展をきっかけに空間デザインの引き合いを得る相乗効果への期待もあるという。

株式会社ルーセントデザイン EMISSION

株式会社ルーセントデザイン EMISSION

次回のメゾン・エ・オブジェの9月展は、パリ・デザイン・ウィーク(9月5日~14日開催、メゾン・エ・オブジェと同主催者)と併催し、市中でも多くのイベントや展示が開催される。今年は30周年第2弾ということで、さらなる盛り上がりも期待できる。また、パラリンピック会期の最終時期とも重なり、特別なパリの様子も体験することができるだろう。

【次回開催】メゾン・エ・オブジェ2024年9月展
https://www.maison-objet.com/en/paris
会期:2024年9月5日(木)~9月9日(月)
会場:パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場
入場バッジ(会期中5日間有効のチケット):上記、メゾン・エ・オブジェ公式Webサイトにて事前購入
お問い合わせ先:メゾン・エ・オブジェ日本総代理店 株式会社デアイ
電話/03-3409-9495 メールアドレス/mo-japon@deai-co.com

取材・編集:山崎泰(JDN)