「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋

クラフトマンシップと「分業」

西澤:一般的に「クラフトマンシップ」や「クラフト」というと、「職人」というキーワードが挙がりやすいと思うんですね。おふたりの会社は、職人さんの存在ありきでものをつくっているんですか?

西澤明洋<br /> 1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。おもな仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スペシャルティコーヒー専門店「堀口珈琲」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE Sangetsu」、ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具店「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、草刈機メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。

西澤明洋
1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。おもな仕事にクラフトビール「COEDO」、スペシャルティコーヒー専門店「堀口珈琲」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「まる生ぽん酢」、サンゲツ「WARDROBE Sangetsu」、ITベンチャー「オズビジョン」、賀茂鶴酒造「広島錦」、芸術文化施設「アーツ前橋」、料理道具店「釜浅商店」、手織じゅうたん「山形緞通」、草刈機メーカー「OREC」、博多「警固神社」、ブランド買取「なんぼや」、ドラッグストア「サツドラ」など。

朝霧:COEDOの場合は、基本的には分業ですね。誰かひとりのスーパースターのようなブルワーがいるということではなくて、それぞれの工程を担当者が責任を持って見ていくというやり方です。

西澤:それはビールメーカーにとっては一般的なことなんですか?

朝霧:いや、むしろ我々のやりかたがちょっと特殊なのかもしれない。多くの場合は、ヘッドブルワーやブラウマイスターなど、1番経験と知識があり、感応性に優れた人が全体を取り仕切ることが、組織の運営方法としては多いかもしれませんね。これはどちらがいいということじゃなくて、自分たちが理想だと思うことでいいと思うんですよ。1人のヘッドブルワーがどんどん引っ張っていって、教育を兼ねるみたいなやり方も全然いいと思う。ただ、スーパースターじゃなくても毎日繰り返し感性を磨いて行けば、みんな優れた職人になりますよ。

伊藤:我々も似てると思いますね。もともと堀口珈琲は名前の通り、創業者である堀口俊英が30年近く前に創業しました。そのときは町の小さな自家焙煎店で、彼が豆も選んで焙煎もしてコーヒーも淹れて、全部ひとりでやっていたんです。しばらくは彼のもとに修行に来た人がその後独立していく、ということが長く続いていたんですが、いまはむしろ逆で、分業でやっています。それぞれのその工程に関して1番知見を持っているリーダーを育てて、総合的に品質を高めていこうと。製造の仕方はあくまでも手段なので、やり方はどうでもいいのかなと思うんですよね。ゴールは最終的な製品のクオリティを高めるということなので、それにいちばん近い目的に適う方法を進めていければよいな思っています。

AI時代、「職人」ができること

西澤:「クラフト」という言葉は、いまホットなワードだと言えると思うんですけど、一方で流行りとしてくくられてしまうのはちょっと怖いなと思っていて。クラフト的だから、職人的だからなんか美味しいというは、ちょっとおかしいなと思うんです。それでは逆に、「クラフト」じゃないものというはなんだと思いますか?

朝霧:簡単に言い切るのはむずかしいと思いますが、僕らが信じていきたいと思っているのは、これからAIやビッグデータ、データドリブンという考え方が多くなっていく中で、だからこそ人間のもっている“センサー”を大切にしていきたいということです。人間の感性でないと生み出せないものは、なんだかいいなあと思うんですよね。

伊藤:ただ、我々はなんでも人が手作業、手仕事で、職人がやればいいとは思っていなくてですね、横浜ロースタリーでは、できるだけ機械がやった方がいいことは機械に任せようという発想で運営しています。例えば物の運搬や、釜の中の温度を計るのは機械がやった方がいいし、選別に関しても機械の方が高速でブレがないんですよね。人間がやるとどうしても、毎日その人のコンディションで結果にブレが生じてくる。それを機械に任せることで、人間は人間だからこそできることにもっとフォーカスして力を割いてもらう、という考え方をとっています。

朝霧:まったく同じですね。

横浜ロースタリーで働く職人

横浜ロースタリーで働く職人

朝霧さんと伊藤さん

伊藤:機械と人間との違いで、人間の得意なことはリアルタイムにフィードバックすることができることですよね。対象物の状況、変化を見ながらすぐに対応することで、やり方を変えることができる。例えばコーヒーの焙煎もそうですし、抽出するときもそうですよね。レシピがあったとしても、そのときごとにお湯を注いだら粉にどんな反応があって、どんなふうに抽出液が出てくるのかを見ながら、あるいは音を聞き、匂いを嗅ぎながら、自分のやり方を変えることができる。そこはまだまだ人間の優位性だと思うので、そこにクラフトの本質があるのかなと思いますね。

朝霧:表面的に「機械が入ってるからもう全然クラフトじゃないや」とか「規模が大きいからクラフトじゃないや」というのは、思考停止になってしまっているんだと思います。

基本的に私たちはメーカーですので、作家のように一点ものをつくるわけではなく、毎日の繰り返しの中で、同じものをつくらなくてはいけない。同じ産地やメーカー、農家からくるものでも、コンディションによって違うんですよね。なので、1回決めたレシピ通りにやればいいってことではなくて、実際に人間が判断して調整しなきゃいけないってことですよね。

「澄虎 -Sumatera-」が生まれるまで

「澄虎-Sumatera-」

朝霧:たとえば堀口珈琲さんと「澄虎-Sumatera-」をつくろうという話になったのは、AI的な世界ではないところから生まれてるんですよね。こういったコラボレーションというのは、「クラフト」なのかどうかということと同じで、極めて属人的で、感情や縁といったことがきっかけとしてあると思います。

西澤:今回のコラボレーションの経緯についてお話いただけますか?

伊藤:きっかけは我々が「コエドビール祭」に出させてもらったことがはじまりですね。「澄虎」のネーミングを考えた、今回のコラボ担当である小野塚というものが、埼玉出身でCOEDOビールが好きなんです。

西澤:小野塚さんから、なぜか僕らに「なんでうちらはコエドビール祭に呼ばれないんだ」と言われまして(笑)。いやいや、なんでビールのイベントにコーヒー屋さんが出店するんですか?とお話をうかがったら、ビールへの愛、地元愛を語っていただいて。どちらともお付き合いがあった僕らがおつなぎしたというかたちですね。

西澤さん

朝霧:その後、うちにもコーヒー好きのものがいるんですが、「こういうビールつくりたいんですけど、堀口さんとつくるのはどうですか?」って言い出して。そういうところから具体的にディスカッションがスタートしていった感じですね。

伊藤:コーヒービール自体は世の中にすでにあるんですが、コーヒーにはどうしても黒くて苦いみたいな印象があるので、ビールもその中にコーヒーのエキスを入れるとか、あるいはコーヒーの豆を漬け込むことで、より苦くて黒い、いわゆるコーヒーっぽいビールとしてつくられているのが一般的なんですよね。我々の出発点としては、そういったものはつくりたくないよねということがありました。

西澤:今回はどういうつくり方をしてるんですか?

朝霧:コーヒーがビールに歩み寄っているケースが多い中、「澄虎」はむしろコーヒーにビールが寄り添うようなつくり方なんです。黒ビールの黒色は、麦芽がローストされることで炭化した色で、そのローストした麦芽の香ばしさとかが味わいになって出てくるんです。よく黒ビール系の味わいの説明を求められると、「チョコレートとかコーヒーのようなロースト感がトップノートにあります」ということを言うんですが、これまでのつくり方だと、じゃあ原料そのまま使っちゃえばいいじゃん、ということになってしまうんですよね。でも、どうもコーヒーが好きな人たちからするとそれは違うんじゃないかということが、堀口珈琲のみなさんとお話ししていくと中でわかってきたんです。

西澤:堀口珈琲さんでは、ビールをつくるにあたってコーヒーのローストや豆の選定などで気を遣われたところはありますか?

伊藤:いわゆるコーヒーらしさを感じるものにはしたくないなということはありましたね。名前にもなっているスマトラというコーヒー豆自体もとても特徴的で、焙煎度によって全然風味の表れ方が変わるんです。我々がこの豆を販売するときに、大半は深煎りにしてそのときに出てくるコクや独特の苦み、あるいはなめらかさや、木とかなめし皮のような風味を重視してるんですが、もう少し加熱度を下げて浅く炒ってあげると、トロピカルフルーツみたいな香りが全面に出てくるんです。特に日本に入ってきて原料がフレッシュなときはそれが表れやすいんですよね。ビールにも、酵母や醸造によってそういった側面があると思うんで、うまくマッチしたかたちでできるんじゃないかなと考えました。

西澤:僕らはデザインを担当させてもらいましたが、デザインのときに悩んだのは、主となるポジションがどっちなんだろうということなんです。たとえばビールのデザインをしているときにはビールらしいパッケージにしなきゃいけないし、コーヒーだったらコーヒーらしいパッケージにしなきゃいけないという、基本的なデザイナーとしての軸線というものがあって。

「澄虎-Sumatera-」

西澤:試飲したときに感じたのは、ビールとコーヒーが対等であることなんですよね。そこで、今回僕らはデザインする上で、シンプルにしていこうと考えました。COEDOのロゴと堀口珈琲のロゴが対等な関係であって、背景には印象に残るものをつくりたかったので、ビールにはあまりないような、コーヒーのシズルを感じるような濃いグラデーションに、今回のネーミングの由来になっている「澄虎」から、虎の茶目っ気みたいなものをアイコニックにデザインしてみようと。今のお話聞いて「あ、ちょっと合ってたかも」とほっとしました(笑)。

大量生産は悪なのか

西澤:食品のものづくりに携わっていると、「大量生産」というキーワードが出てくると思うんですが、「大量生産」と「クラフト」の関係についてどのように考えてますか?

朝霧:大量生産といったときに前提になっているのは、もっと効率を追求しようということですよね。1回の工程でつくれる量を多くしようと。だけど、たとえば職人Aさんがこのタンクを管理してるとして、10倍の量をつくらなきゃいけないときに、このタンクを10個そろえて10人の職人がいたらどうですか。それは大量生産だけど、品質を犠牲にしないということだと思うんです。僕らはそう考えているんですよね。だから何を優先するのかということだと思うんです。

朝霧さん

西澤:「大量生産」というキーワードではなくて、効率主義が問題だと。

朝霧:そう、大量生産という言葉をみなさんがネガティブに感じるポイントはそこなんです。だけどそうじゃないやり方もできるわけですよ。

西澤:伊藤さんどう思います?「大量生産」というキーワードに対して。

伊藤:私は大量生産大好きですよ。我々が現代の暮らしを送るにはこの豊かさっていうのは大量生産が支えているんですよね。いろんなことを低コストで済ますことができるので、自分の自由な時間をもっと持てるとか、自分の好きなことにもっとお金を使えるのは、大量生産のおかげだと思いますよね。それは決して否定すべきことじゃなくて。

朝霧さんのお話を聞いていて思ったのは、量の問題っていうよりも、インプットとアウトプットの関係なのかなと。大量生産は、アウトプットを固定してインプットをできるだけ減らして同じ成果を得るような考え方で、我々クラフトの方は、逆にインプットを固定して、そこからできるだけ良いアウトプットをもたらそうとしています。「クラフト」と「大量生産」の違いはそこなのかもしれません。

朝霧:一度に大量につくった方が向いているものっていうのはもちろんあるわけですし、大量生産=悪じゃ全然ないですよね。いま時代はどんどんいろんなものを選択できることに価値が置かれていくので、すべての人が同じことに高い関心を持つことはないですから。そんなこだわりはないものから、すごく好きだから大事にしていきたいものまである。そういった濃淡がだれにでもあって、選択の問題だと思うんです。価値はそれぞれが決めていくものだから。

「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを

西澤:おふたりにとって「クラフトマンシップ」とは何だと思いますか?

朝霧:そこはもうひとことで、愛だと思います。

伊藤:お客様の満足ですかね。

西澤:愛と、お客様の満足。根っこにあるものは同じですよね。

僕は「クラフト」っていう言葉が大好きで、なぜかと言えば僕らデザイナーも「クラフトマン」だからなんですよね。ロゴひとつとっても、はじめのアイデア出しを含めると100案くらい出したうえで、絞り込んだものに対して、さらにディテールの異なる100案を出していく。ものづくりの検証フェーズで、かなりのフィルタリングがあったうえでの1つに絞っているんです。デザイナーというと、感性やセンスだけでつくっていると思われがちですが、実は地道なクラフトマンシップ的な作業が大部分なんです。

朝霧さん、西澤さん、伊藤さん

西澤:いま改めて思うのは、お客様のために美味しいものをただつくりたい、ちゃんとしたものをつくりたいっていう気持ちこそが「クラフトマンシップ」なんですよね。

朝霧:「クラフト」の目線がどこに向いているのかっていうことだと思うんです。自分たちの自己満足のためなのか、「美味しいビール」を飲んでもらいたいからなのか。

西澤:デザインもそうあるべきかなって思うんです。すべてはお客様のために、愛あるデザインをしていかなきゃなと。

当日のグラフィックレコーディング

第1回目に引き続き、当日は楽天株式会社の同好会「グラフィックレコーディング部」の松井藍さんが、3人のお話をグラフィックレコーディングしていただきました。

マイクを握っているのが松井さん。

マイクを握っているのが松井さん。

当日のグラフィックレコーディング

撮影:佐竹伸一(エイトブランディングデザイン) 文・編集:堀合俊博(JDN)

イベント当日のトーク音源配信中!

当日の音源はエイトブランディングデザインYouTubeチャンネルでお聞きいただけます!

【次回で最終回!】

2019年8月2日の第1回目開催より、2年半にわたって実施してきた「みんなでクリエイティブナイト」ですが、次回の開催で最終回となります。

本イベントのフィナーレとなる第9回目は「ブランディングとデザイン」をテーマに、日本のブランディングデザインを代表するおふたりの仕事を振り返りながら、今後のブランディングデザインの可能性について、宮田さんと西澤さんに語り合っていただきます。

また、今回も登壇者への質問を事前に受け付けています。トークセッションのトピックとして取り上げさせていただきますので、ぜひ質問をお寄せください!

質問投稿フォームはこちら:https://forms.gle/9UzW4vX3EjW7HCBS8

※質問受付締め切り:1月31日(月)

■開催概要

第9回テーマ:「ブランディングとデザイン」

開催日時:2月1日(火)18:00~19:30

会場:YouTube Liveにてオンラインでの開催

参加費:無料
申
込:リンク先より詳細をご確認ください
https://www.8brandingdesign.com/event/contents/creative-night/minna09/