「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

コーヒーの川上から川下まで 伊藤亮太(株式会社堀口珈琲代表)

20種類を9種類に。堀口珈琲、ブランディングの1年

我々は1990年からコーヒーを専業としてやってきて、常に最高品質であるということを理念として掲げています。よいものを選び、その完成度をきちんと高めたものにしていくということを、選別を通して実践しています。コーヒーの原料を自分たちで調達し、それを加工して最終的にコーヒーとして喫茶店で売っているので、小さな企業ですが、コーヒーの川上から川下までカバーしてます。

株式会社堀口珈琲 代表取締役 社長 伊藤亮太<br /> 1968年千葉県銚子生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。 大学卒業後、宇宙開発事業団(現JAXA)に10年間勤務する。 1997年からの3年間にわたる米国駐在時にコーヒーの可能性に目覚め、2002年にコーヒー業界に転身。2003年に堀口珈琲に入社し、2013年4月から現職。COO(最高執行責任者)として店舗の経営から原材料調達における海外との折衝まで全般的に統括。堀口珈琲主催のコーヒーセミナーや日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)主催のセミナーでも講師を務めるほか、全日本コーヒー商工組合連合会認定の「コーヒーインストラクター検定」の教本にも寄稿するなど社内外での普及活動にも従事する。

株式会社堀口珈琲 代表取締役 社長 伊藤亮太
1968年千葉県銚子生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。 大学卒業後、宇宙開発事業団(現JAXA)に10年間勤務する。 1997年からの3年間にわたる米国駐在時にコーヒーの可能性に目覚め、2002年にコーヒー業界に転身。2003年に堀口珈琲に入社し、2013年4月から現職。COO(最高執行責任者)として店舗の経営から原材料調達における海外との折衝まで全般的に統括。堀口珈琲主催のコーヒーセミナーや日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)主催のセミナーでも講師を務めるほか、全日本コーヒー商工組合連合会認定の「コーヒーインストラクター検定」の教本にも寄稿するなど社内外での普及活動にも従事する。

我々はずっと最高品質のコーヒーを追及してきていて、プロダクトには非常に自信を持っていたんですが、いかんせんデザインの面や、商品を訴求するグラフィックが弱いなというのを実感していたんです。このままだとなかなか商品が広がらず、お客さんが増えていかないということがあり、デザインの視点からなんとかしなくてはと検討を始めたのが2012年の頃だったんですね。

その頃から、エイトブランディングデザインさんとのお付き合いがはじまりました。エイトさんがユニークなのは、ブランディングを軸にしてデザインをしていくことなんですね。他のデザイン事務所の方は、あくまでグラフィックデザインをしていただくという感じだったので、我々が想定した以上のことができるかなと思い、エイトさんにお願いしました。

堀口珈琲のパッケージデザイン

堀口珈琲のパッケージデザイン

最初の1年間ぐらいはかなり力の入った激しいディスカッションをしながら進めていき、1年たってようやくいろんなものがかたちになってきたんです。ロゴやブランドのコンセプト、ステイトメント、パッケージができ、店舗も新装し、いろんな成果がローンチされたのが2013年でした。

我々はもともと商品が20種類以上あったんですが、お客さんにとってはなにがどう違うのかわからないだろうと、種類が豊富なのは決していいことばかりじゃないということを西澤さんにご指摘いただき、なんとか9種類までに絞りました。ブランディングを通じて、プロダクトだけではなく、我々の考え方も整理されていった、とても充実した1年間だったなと思っています。

横浜ロースタリー

横浜ロースタリー

今年の6月、神奈川県横浜市に「横浜ロースタリー」をオープンしました。建築を担当していただいた高塚章夫さんは、もともとコーヒーがお好きだったっていうことあって、かっこよさだけじゃなくて工場としての機能性もきちんと満たした、かつ働く人の居住性も高く、いろんなことが同時に実現された製造施設になりました。今後は見学会やイベントなども開催していくつもりです。

「スペシャルティ」「クラフト」とは選ぶこと

我々が取り扱っている「スペシャルティコーヒー」についてお話しようと思います。スペシャルティコーヒーという言葉自体は比較的古く、だいたい1974年ぐらいからアメリカで使われはじめました。スペシャルティコーヒー自体に定義はないんですが、「スペシャルティ」という言葉を辞書で引くと、「特別な特徴」だとか、「個別の品質・特異性などによって区別されるもの」、「消費者にとって価格以外の魅力があるもの」とあります。

いま「クラフト」という言葉が盛んに使われていて、「クラフトビール」をはじめ、「クラフトジン」や、最近だと「クラフトコーラ」も出てきたり。もしいま同じムーブメントがコーヒーでも起きたら、きっと「クラフトコーヒー」と呼ばれていたかもしれませんが、当時は「スペシャルティ」という言葉が使われて、「スペシャルティコーヒー」と呼ぶようになったと思うんです。

コーヒーにおける「クラフト」とは何かということを考えると、「手工芸」「職人」「少量」という言葉が連想されるような、なんとなく頑固そうな親父が眉間に皺を寄せながら豆を焼いてたり、昭和の雰囲気の喫茶店で渋いマスターがコーヒー淹れてるようなイメージを思い浮かべる方が多いと思います。でも、本当はそれはごく一部で、コーヒーにおいての「クラフトマンシップ」を発揮する対象というのはとても広く、多岐に渡ります。

コーヒーの飲み方を今のような形にしたのはヨーロッパでしたが、原料は熱帯で生産されて、最終的に製品化されたのは中緯度地方でした。それがアメリカに広がり、アジアにも広がっていった。もともとは熱帯の農産物が原料になり、私たちが知っているコーヒーになるのは、おもに先進国での工業的な段階を経てからのことになります。

コーヒーの木

コーヒーの木

もともと農産物であるコーヒーの原料は、「コーヒーの木」という2、3mぐらいの背丈の植物で、この植物は花が咲くことで赤い実をつけます。さくらんぼのようなので、コーヒーチェリーと呼ばれたりもしますが、この実をすぱっと切ると、真ん中に白い種があり、この種を乾燥させたのがコーヒーの原料で、コーヒー生豆と呼ばれています。これを我々が輸入して、焼いて、コーヒーをつくっているわけですね。

コーヒーは原料が採れる場所によって味わいが変わるんです。赤道を中心に25度ずつ、だいたい4000kmぐらい上下に、南北の帯になっている。これをコーヒーベルトと呼ぶんですが、コーヒーは産地によっても風味が変わるし、標高によっても味わいが変わるんです。

コーヒーはもともと農産物が原料なので、悪いものが必ず含まれちゃうんです。栽培してる途中で虫に食われちゃったり、収穫してるときに異物が混入したりとか。徹底的によくないものを排除していくことがコーヒーにとって必要なんです。標高の低いところで採れるものよりも高地の方が品質がいい傾向がありますが、栽培されて収穫すればそれでいいというわけではない。徹底的にいい環境で栽培して、適切な技術で加工し、原料をつくる。そういったところでつくったものを、我々が選んで使っていくことが、コーヒーにとっての「クラフト」の第一歩です。

私たちがコーヒーだと感じるものは、焙煎、すなわちコーヒーの豆を焼くことで、はじめて生まれてきます。コーヒー豆は非常に複雑な化合物で、1000種類ぐらいのいろんな化合物が含まれている。人間が飲んだり食べたりするもののなかでは、最も複雑な組成のものではないかといわれています。必ずしもそこに含まれているものすべてが美味しいものでもないので、そこから成分を選択的に取り出す必要があるんですね。それがコーヒーの抽出と呼ばれるもので、ここでもよいものだけ取り出すという「クラフト」が必要なんです。

スペシャルティコーヒーをつくるためには、最初から最後の段階まで、本当にいろんなことに入念に取り組んでいかないといけない。生豆は自分たちではつくれないので、生産者と長期的にお付き合いをしながら、いいものだけを選んでいくことが「クラフト」であり、「スペシャルティ」なんだと思っています。

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