「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

「クラフトマンシップ」に、愛のあるデザインを 朝霧重治×伊藤亮太×西澤明洋:第2回「みんなでクリエイティブナイト」

エイトブランディングデザイン&JDNが共同開催する「みんなでクリエイティブナイト」は、「◯◯とデザイン」(毎回「〇〇」のテーマが変わります)をテーマに、 社会や⼈の⼼理にデザインがどのように作⽤するのかを問い、デザインの役割や価値について、“みんな”で考えていくイベントです。ブランディングデザイナーの⻄澤明洋さんをファシリテーターに、各回のテーマにあったクリエイター2組をゲストに迎え、さまざまな角度からテーマを掘り下げていきます。

2019年9月6日(金)に開催された第2回目のテーマは「クラフトマンシップとデザイン」。ゲストに、朝霧重治さん(株式会社協同商事コエドブルワリー代表)と伊藤亮太さん(株式会社堀口珈琲代表)をお迎えし、それぞれの「クラフトマンシップ」や「職人」についての考えを語り合うイベントとなりました。

当日は、今年発売されたCOEDOビールと堀口珈琲のコラボレーションビール「澄虎-Sumatera-」を片手に、乾杯からスタート。トークセッションでは、ビールとコーヒーが生まれるまでの行程やその歴史の話から、大量生産、AIの時代における「職人」のあり方まで、「クラフトマンシップ」をめぐってさまざまな議論が飛び交いました。

ビールのすばらしさを伝えたい 朝霧重治(株式会社協同商事コエドブルワリー代表)

「Beer Beautiful」

COEDOビール

私たち「COEDOビール」は、「Beer Beautiful」をコンセプトに、2006年にスタートしました。「Beer is beautiful like your life is beautiful」といって、みなさんの人生がすばらしいように、ビールのすばらしさを知ってもらいたい、という想いを込めたプロジェクトです。

それから8年間は、定番5種類のみを取り扱い、現在では2014年に新商品として加えた「毬花 -Marihana-」を含む全6種類を販売しています。ブランドとしてこの品数の少なさは、けっこう珍しい方だと思います。

株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役兼CEO 朝霧重治<br /> 1973年埼玉県川越生まれ。1997年一橋大学商学部卒業。1997年、三菱重工株式会社入社、海外向けプラントの輸出に携わる。1998年株式会社協同商事入社。2003年、代表取締役副社長に就任しビール事業再構築に着手。2006年、COEDOブランドを発表。2009年、株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役社長に就任。Beer BeautifulをコンセプトとするCOEDOビールは、ワールドビアカップを始め、数々の世界的な賞を受賞している。

株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役兼CEO 朝霧重治
1973年埼玉県川越生まれ。1997年一橋大学商学部卒業。1997年、三菱重工株式会社入社、海外向けプラントの輸出に携わる。1998年株式会社協同商事入社。2003年、代表取締役副社長に就任しビール事業再構築に着手。2006年、COEDOブランドを発表。2009年、株式会社協同商事 コエドブルワリー代表取締役社長に就任。Beer BeautifulをコンセプトとするCOEDOビールは、ワールドビアカップを始め、数々の世界的な賞を受賞している。

日本は新商品がたくさんつくられるので、いつの間にか「結構気に入ってたのにな……」と思っていたものがなくなっちゃうことが多いと思うんです。我々のような小規模なブランドは、一気にたくさんの方に知っていただくことはむずかしいですし、飲んでいただいくのははじめての方が多い。なので、新商品を次々と出すということよりも、あえて新商品を出さずにやってきました。そこには、もともと私たちが会社の起源として、1970年代から有機農業や産地直送など、オーガニック農業を取り扱っていたということがあります。地域との結びつきや、ロングライフでサステナビリティへの意識が、私たちの根っこの部分で流れているんだと思います。

COEDOのプロジェクトをはじめた頃は、クラフトビールという言葉はまだ多くの人にとってなじみのないものでした。「クラフトビール」はもともとアメリカで生まれた造語なのですが、解釈をするのであれば、ビール職人という顔の見えたつくり手たちによって、小規模醸造所で原材料を吟味し、手工芸品として丁寧に醸し出されたバリエーション豊かなビールのことを意味するのだと思います。

私たちはビールメーカーとして、もっとビールのことを知っていただきたい、ビール本来の姿をお伝えしたいと思っていて、会社のミッションとして掲げてやってきました。ビールは、古代エジプトやメソポタミア文明などの時代から飲まれていて、とにかく古くからあるものなんです。ビールを食文化の面から捉えると、ヨーロッパの中緯度帯、英国やベルギー、チェコ、ドイツなどが起源です。いま、アメリカを起源とするビール業界はルネサンス期を迎えていると言われていて、そのことを日本の方にも知っていただきたいというのも、このプロジェクトの背景にあります。

COEDOは私がファウンダーという位置づけなんですが、私たち協同商事は、故郷である川越で、ファミリービジネスとしてやっている会社で、私が2代目の経営者なんです。川越は、江戸時代から大正、明治の街並みが残っている街なんですが、大人になったいま、この街で生まれてすごくよかったなって思っています。もともとこの街は江戸時代から商人の街で、ものづくりがずっと行われていた。いまでも、うなぎ屋さんや着物屋さん、お醤油屋さんなど、代々続いているお店が残っていて、手づくりというカルチャーや「クラフトマンシップ」が、すごく身近なものとしてあるんです。

2006年にCOEDOがスタートしてから10年以上が経ったいま、醸造所の隣がコンビニエンスストアになっていたりと、だんだん周りが都市化してきています。私たちのブルワリーは、もともとさつまいもの畑だったところを農家の方と一緒に転用してつくった場所だったんですが、環境が大きく変わってきたのを感じています。そこで、これから100年、200年というスケールで続いていくブルワリーにしていきたいなと考えたときに、もっと自然が豊かなロケーションでブルワリーをしたいなと思ったんですよ。

埼玉県東松山市のCOEDOブルワリー

埼玉県東松山市のCOEDOブルワリー

そのとき、埼玉県の東松山に、1980年代に建てられたリコーの研修センターを見つけたんです。建物の中にはたくさん教室があって、そのまま使わなれなくなってしまうと、廃墟になってしまう予定だったんですね。この敷地を見つけたときには、グラウンドに新しいブルワリーを建てようかなと思っていたんですが、やっぱりこの建物を使わないのはもったいないし、そしてなにより美しい建築だったので、ブルワリーとしてリノベーションをすることにしました。さらに、研修センターだったという背景から、ここをビールの学校にしてしまおうと考えました。

ビール工場に見学に行ったことがある方ならわかっていただけると思うんですが、「出来立てのビールは美味しいよね」以外の感想って、あまり残らないんですよね。僕らは、この施設での体験を通してビールのことをもっと知ってもらいたいなと思ったんです。工場見学のための施設じゃなくて、ビールセミナーを受けに来ていただくついでに工場も見れる、といった施設として考えました。

ビールの自由さで壁を超えていく
COEDO Craft 1000 Labo

COEDO Craft 1000 Labo

ビールって、本当におもしろいんです。ビールは、ものづくりとして本当に自由度が高い。そのことを表現するためには、それまで展開していた定番の5種類だけでは、ビールのワクワク感をお伝えすることはできないと思って、10年間コンセプトとして温めていた「COEDO Craft 1000 Labo」を2015年にはじめました。ブルワリーの内輪で試飲をしているだけじゃなくて、製造工程を含めて公開することで、みんなで飲んだら楽しいんじゃないかなという実験でもあります。研修センターの小さなブルワリーのタンクが1000リットルのスケールなので、いつか1000種類のレシピを考えて飲めたらいいね、という思いを込めています。

いま、ビール界はコラボレーションがごくごく日常的になって、いままでクローズな印象があった企業も、すごくオープンになってきていますね。こういったオープンイノベーションは、アイデアを出し合いながらおもしろいことをやっていこうという、アメリカ西海岸の雰囲気だと思うんです。COEDOがスタートしたときから、僕自身のバックグラウンドが色濃く出てるっていうのはあるんですけど、基本的にあまり他社や海外との壁を感じないんです。学生のころからバックパッカーで海外をぶらぶらしてたり、前職でも輸出の仕事をやってたりっていうのもあって。

COEDOビールが飲みたいといってくださる海外の方がいらっしゃったら、やっぱり届けたいと思うんですよね。今後も「クラフト」はキーワードに、海外とのパートナーシップを通して、いろいろと発展していきたいと思っています。

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