“現象を創造する”都市メディア、テクノロジーアートの祭典「MEDIA AMBITION TOKYO」

“現象を創造する”都市メディア、テクノロジーアートの祭典「MEDIA AMBITION TOKYO」

東京という都市が持つ生命力とテクノロジーカルチャーの相性はこの上なく良い。「MEDIA AMBITION TOKYO(メディア・アンビション・トウキョウ )」を体験すると改めてそう感じる。

最先端のテクノロジーカルチャーを東京という都市に実装する実験的なショーケース、「MEDIA AMBITION TOKYO」(以下、MAT)が4回目の開催を迎えた。今年は開催エリアを拡大、六本木エリアを中心に、青山、銀座、飯田橋、御茶の水、お台場、天王洲など、都内各所を舞台に、メディアアート、ライブパフォーマンス、トークショーやハッカソンなど、多様なプログラムが有機的に増殖した格好だ。

「MAT」は実験的プログラムを都市にインストールするだけのイベントではない、国内外の様々な分野のイノベーターや企業、そのビジョンに共感するイベントが参画する、人と人が集まり体験を共有するためのプラットフォームのような存在といえる。

MAT実行委員会の谷川じゅんじ氏(JTQ inc.代表)に、都市にテクノロジーカルチャーをインストールする魅力、「MAT」の目指す未来などについてお話をうかがった。

産業領域とアーティスティックな表現領域の可能性の追求

谷川じゅんじ(以下、谷川):はじめてミラノサローネに行った時に、世界中から何十万人もの人が集まり、”大人の文化祭”のようだと感じました。なぜ、ミラノサローネがこれほどまでの爆発的な拡がり方をしているかといえば、やはり展示場で行われている国際家具見本市だけでないからでしょう。例えば、モーターショーなども集客力はすごいですが、クローズドな領域でプレゼンテーションされているので、ミラノサローネのような拡がり方はしていない。ミラノサローネではマーケットを占うようなエキシビジョンがある一方で、街中ではこれからの提案や提言、ビジョンを示すような展示が企業単位、あるいはデザイナー単位で行われていたりします。

ミラノサローネのような、たくさんの人が国内外から集まるようなイベントが日本にあるか?といったら、これまでなかなか無いのが現状です。

'Space Experiment #001: - Mirror Space / Minded Mirror ' by Rhizomatiks Architecture / Media Ambition Tokyo 2016

‘Space Experiment #001: – Mirror Space / Minded Mirror ‘ by Rhizomatiks Architecture / Media Ambition Tokyo 2016

ライフスタイルの最先端を見ることができるのはミラノサローネだとするならば、超ハイブリッドなテクノロジーカルチャーの最先端を見ることができるのは?と世界中を見渡した時にあまりないように思います。例えば、アルスエレクトロニカ(オーストリア・リンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典)とかは作品中心で、都市実装するという観点だと少し違う気がします。企業とアーティストが一緒になってものづくりをしていく、産業領域とアーティスティックな表現領域の可能性の追求をしていくとしたら、一番おもしろそうな場所はやっぱり素直に東京だと思いました。

東京をプラットフォームにして最先端のテクノロジーカルチャーをはめこむ、それが日常生活に侵食してきたら楽しいんじゃないか?ということからはじまったのが「MAT」です。

それをなるべく経済的に無理のない形でやる。協賛企業に場所を貸していただき、メーカーにはものを提供していただく、作家にはそこで新しい作品をつくってもらう。いままでないような組み合わせや表現、それを続けていくことができれば、世界中から東京に人を呼ぶことができると考えました。

「MAT」という大きな都市メディア

谷川:「MAT」はいわばテクノロジーアートを体験するためのガイドラインで、ある種の”意思”を持った集合体だと考えています。ここからどう次を生み出していくか、僕らは”現象の創造”をしたいと思っています。

プログラムは大きく3つ、エクスペリエンス、ライブ、トーク。この3つを行うことで人が集まり、人が集まればが出会うきっかけになる。やっぱり人と人が直接出会わないと新しいものはなかなか生ません。MATは当初からつながっていくことをコンセプトとしています。

これまで自分たちが海外のエキシビジョンで発表した作品を日本で見せる機会がなかなかなかったので、実物を観てみたいと言われることが何度もありました。日本人のアーティストが海外ですごいパフォーマンスしていたり、すごい作品をつくっているのに、それを日本で見たことがないというのも寂しいよなあと思っていました。それを誰かが整理しなければならないと感じたのが、「MAT」をはじめたきっかけのひとつでもあります。

MEDIA AMBITION TOKYO Opening Live Keiichiro Shibuya Produce "Digitally Show"

MEDIA AMBITION TOKYO Opening Live Keiichiro Shibuya Produce “Digitally Show”

人が肉体を伴ってある”場所”に行くことの付加価値はすごく大きいです。例えば、「MAT」を書籍やムービーにまとめたりすることはできる。ですが、実体験するほどの感動はない。体験することによって「そういうことだったのか!」と理解してもらうために、何かの機会をつくって体験を共有することから、同じ言語が話せるようになる。「アレかっこよかったよね」とか。その「アレ」を言葉で一生懸命説明しても、エモーショナルな領域ではやっぱり伝わらないんですよね。

エモーショナルな領域は何らかの実体験を挟まないと伝わらない、「MAT」はその実体験を伝えるための仕組み、”気づき”の入り口をつくるためのチャネルです。

目指すべきは「都市の大人の文化祭」

谷川:例えば、先ほど言った「日本人のアーティストが海外でつくったものを見る機会がない」というような見落としがちなことに気づいて編集するなら、自分たちでもできそうだなという可能性が広がって、メディアとしての発信度というか体力がついていく。少しづつ会場が増えている現象が、その証左なんじゃないかなと思います。

そういったコミュニテイ・群のようなもの、ヒューマンスケールで歩ける範囲を広げていけると、めぐる楽しさができてくる。六本木以外でも虎ノ門や銀座、品川や天王洲みたいなエリア、将来的なことをいえば有明とか豊洲のようなオリンピックで世界的なフォーカスをあつめるエリアでも文化的な発信ができるレギュラープログラムができたほうがいいと思う。何かが様々な場所で起きてくれれば、僕らはそこでつなぎあわせていきたいと思っています。そうすることで、海外のメディアとかインフルエンサーがキャッチアップしやすくなるはずです。

谷川じゅんじ氏(JTQ Inc.)

谷川じゅんじ氏(JTQ Inc.)

「MAT」は会場を増やすことに特に注力しているわけではないんですよ。「一緒にやりましょう」といってくださる方たちが持っている会場じゃないと、やはりお金をかけずに広げていくことはできません。みんなが場所を持ち寄らずにやるとなると、コンベンションセンターみたいなところをお借りしないといけない。そこで作品を制作するとなると、すごくお金がかかるので個人の意思ではもうやっていけないですよね。

東京は物価も高いし、その費用をどうやって負担するかという話でみんな頭を悩ませている。場所があるから「一緒にやりましょう」ということだと、作家たちもすごく可能性を感じるんですよ。ふだんコマーシャルベースでやっていることを少し違うカタチに置き換えることで、ものすごくおもしろいプレゼンテーションになるというケースもあります。

MATの大事な裏コンセプトは”継続”です。どうやったら長続きできるか?無理のない仕組みをつくれるか?なるべく継続できる仕組みをつくれれば、やりたいことがあるときにやればいいので、もしかしかたら毎年開催しなくても良いのかしれない。でも、毎年続けていくようになると、この時期に何かやりたくなってくるのが人情というものです(笑)。だから「都市の大人の文化祭」になっていくといいなあと思っています。

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