無色有彩茶盌

2020

美しく虹色に移ろう茶碗。seccaが独自の研究によりたどり着いた本作は、通常の釉薬焼成の方法では成し得ない質感を実現させた。

まるで小宇宙のような虹彩は、構造色(※)により成り立っており、特定の波長の光を発光することでさまざまな色を感じることができる。実質着彩されていないため「無色有彩茶盌」と銘打った。手びねりの茶盌(ちゃわん)にチタンの工業技術である真空蒸着加工を重ねることで、構造色をまとった意匠を実現している。

工芸と工業の間には相容れぬ暗黙の境界線が存在し、工芸では工業技術の介入を拒んでいるように感じている。工芸はあくまで修練した手仕事による制作行為で生まれたものであり、100年以上継続して扱う技法と素材だけがその対象として認められている。

しかし、工業で培ってきた技術の中にも、人の手と感性と情熱による気の遠くなるような研究と実践の中で培った素晴らしい技術が数多く存在する。工芸の目指すところが人が創り出す美しさの探求だとすれば、そして工業の技術の中にその進化を前身させる可能性があるならば、積極的に工芸の伝統技術と掛け合わせていくことは、自然な行為だと考えている。本作は、それを実践すること自体をコンセプトとした作品でもある。

※構造色は、光の波長あるいはそれ以下の微細構造による、分光に由来する発色現象を指す。身近な構造色にはコンパクトディスクやシャボン玉などが挙げられる。それ自身には色がついていないが、その微細な構造によって光が干渉するため、色づいて見える。

上町達也(代表取締役・デザイナー)

上町達也(代表取締役・デザイナー)

1983年岐阜県可児市生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、おもに新企画製品の企画とデザインを担当する。資本主義経済によって加速した価値の異常な消費サイクルに疑問を抱き、手にした人の心を動かす持続的な価値を目指したものづくりをカタチにするため、2013年食とものづくりの街金沢にて「secca inc.」を設立。代表取締役をつとめる。

seccaでは独自の視点でこれからの問いを見定め、それらに対応した新たなモノと体験を生み出すことによって新価値の造形を目指している。現在、secca独自の経営を推進しながら、各作品のコンセプトメイキングをおもに担当する。金沢美術工芸大学非常勤講師/上海同済大学非常勤講師ほか。

https://secca.co.jp/

2023/9/20 9:10