印判手再考

2021

石川県が誇る伝統工芸の中に九谷焼があり、その中で大衆に向け、安く大量に同じ図案の器を生産するための技術として転写技法がある。転写技法は、上絵顔料をシルクスクリーンで転写紙に印刷し、それを焼成後の器に貼り付けて再度焼成することで、顔料を器表面に定着させる技法で「転写シール」とも呼ばれている。

転写技法は印判手(絵柄を転写して絵付けをする技法)の一部に分類され、日本では江戸時代から受け継がれる伝統技法といって差し支えない歴史を持っている。当初は細かな文様を精度高く表現する手段として開発されたともいわれているが、繰り返し同一の文様を再現できることから、時代が移り変わるとともに安価な装飾磁器を大量に作る手段に移り変わっていった。

しかし、物があふれ、これまでの資源に限りが見えはじめ、環境問題が深刻化した現代を生きる私たちは、安く大量に物を生み出し消費し続ける先に新たなものづくりの在り方を描く責任を感じずにはいられなかった。

原点に立ち返り、一つひとつの物との出逢いに感謝し、丁寧に永く付き合っていける物と時間を今一度見つめ直す時がきたのではないだろうか。本作「印判手再考」における私たちの挑戦は、大量生産のため進化した転写技法を一期一会の技法にアップデートする行為であり、先人が紡いできた印判手を未来に繋ぐことでもある。

本作では、九谷焼産地で長く愛され使われてきた図案の転写シールをそのまま活用しながらも、一枚一枚テーマに合わせてそれらの図案をコラージュし、二つとして同じものが存在しない一品に仕上げている。

上町達也(代表取締役・デザイナー)

上町達也(代表取締役・デザイナー)

1983年岐阜県可児市生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、おもに新企画製品の企画とデザインを担当する。資本主義経済によって加速した価値の異常な消費サイクルに疑問を抱き、手にした人の心を動かす持続的な価値を目指したものづくりをカタチにするため、2013年食とものづくりの街金沢にて「secca inc.」を設立。代表取締役をつとめる。

seccaでは独自の視点でこれからの問いを見定め、それらに対応した新たなモノと体験を生み出すことによって新価値の造形を目指している。現在、secca独自の経営を推進しながら、各作品のコンセプトメイキングをおもに担当する。金沢美術工芸大学非常勤講師/上海同済大学非常勤講師ほか。

https://secca.co.jp/

2023/9/20 9:10