多摩丘陵の郊外の住宅地に建つこの住宅は、1階が美容室の店舗併用住宅だった。おもに地域住民がリピーターとなっているプライベートサロンとして運営されてきたが、これからの事業拡大を視野に入れ、増築を行うことになった。
■光をフィルタリングするデバイス
この増築部の大きな特徴は、ガラス張りの壁面に対して外側に配置された木とステンレス鏡面の格子である。年間の直射光に対して遮蔽と反射を計算することで、夏の日射遮蔽と冬の日射取得を最大にする配置と角度を決定した。また、プライバシーという視野のパラメータを設定することで、利用に合わせて遮蔽モードを変えることができる柔軟なスクリーンとなっている。構造とは無関係に振る舞う自由な立面は、光や視線をフィルタリングしながら、空や道の動きを映し、時間によって変化していく映像的な立面をつくる。それは郊外住宅地における、現代のデコレイテッド・シェッドとしての立面をもった建築である。
開口の少ない既存部に対して集熱・集光装置として機能する増築部によって、室内の環境はより一層外部と接続される。住み始めたクライアントが外部環境の移ろいに対して敏感に応答し、時間によって変化する光や熱に対して個人的な嗜好が生まれていた。そのような変化する環境の斑の存在によって居場所を能動的に見つけていくように、空調と照明により人間が楽をする環境よりも、より動的に活動したくなる環境が、次の時代の建築と人間のあるべき関係だと考えるのである。
■既存の設備に適応するやわらかな格子
1階の美容室の計画では、住宅でありながら日常とは異なる空間であり、かつプライバシーも守られる親密な場をつくることが求められた。天井に配置されている既存の空調や照明の位置を境界条件として設定し、ひとつながりの三次元曲面を形成する格子天井をつくった。凹凸のあるアカマツの木を壁に配置したが、天井の格子はその凹凸の部材寸法に合わせて厳密に設計した。この格子が設備を隠しながら配光と照度を確保し、シャンプー台側へのプライバシーを制御する壁へと連続的に変化させることで、より親密な場をつくろうとした。
Architect:Aki Hamada Architects (Aki Hamada, Takeshi Tanabe, Musashi Makiyama)
Structure:Aki Architect (Rumi Yamaguchi)
Environment:DE.lab
Textile:nuno(Yuki Tsutsumi)
Construction:Misawa Home A project + Kikushima
Photo:Kenta Hasegawa