パンとエスプレッソと自由形

2017 / 株式会社じそく1じかん

自由が丘のベーカリーカフェの計画である。対象である複合施設の3階の区画は、一方にはテラスがあり、反対側にも大きなガラスの開口部があり、空がよく見える場所だった。そんな場の固有性をより強くしながら、外部との境界や壁や窓、棚や椅子などの要素間の境界をなめらかにつなぐことで、動的な空間をつくろうとした。

細長い平面形状の区画に対して、パンの陳列棚やカウンター、ベンチなどのモノの配置と人の動きをなめらかにするために、既存躯体や動線、身体寸法から決定した境界条件を設定し、それに対して張力をつくるシミュレーションによって決定された曲面がこの空間の表面を形成している。自由曲面を厳密に施工するために、3次曲面に沿ってパネリングできるよう、平面に展開したボード形状を計算した。一見、左官でつくったようにみえる曲面を、乾式のボード張りという汎用性の高い手法と平面に展開する計算を用いることで、より一般的な施工プロセスに寄り添いながら自由な形状を民主化することを試みた。

生命の形は、すべてにおいて何らかの意味がある。自然に適応する生命のように、環境や人の動きに適応するように形状をつくることができないかと考えた。関係性のネットワークによって決定された境界条件=骨としての木の天板に対して、ひとつながりの皮としての白い曲面の壁が張力をもって覆う。そうしてつくられた空間にはさまざまな物語が生まれるのではないかと思う。特異な形態には生成されるための理由があるが、それとは異なる意味として誤読され、ここに訪れる人々のさまざまな解釈を許容する場となることを目指した。

Architect:Aki Hamada Architects(Aki Hamada, Takeshi Tanabe, Musashi Makiyama, Syuichiro Hirano)
Construction:Architecture Planning MARUYAMA
Photo:Kenta Hasegawa

AHA 浜田晶則建築設計事務所(建築家・teamLab Architectsパートナー)

AHA 浜田晶則建築設計事務所(建築家・teamLab Architectsパートナー)

浜田晶則

1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2012年Alex Knezoとstudio_01設立。同年teamLabにアーキテクトとして参加。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。2014年-2016年日本大学非常勤講師。2020年-日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築を目指している。

おもな作品に「綾瀬の基板工場(2017)」、「パンとエスプレッソと自由形(2018)」、「魚津埋没林博物館KININAL(2018)」など。グッドデザイン賞2019、Iconic Award 2019, Best of Best、the 2A Continental Architectural Awards 2017, Second Placeなど国内外で受賞。

http://aki-hamada.com/

2020/10/14 15:55