「どうすればおもしろいものになるか?」。オリジナリティを追求するハワイアンズのDNAと丹青社のデザイン力の幸福な掛け算(1)

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「どうすればおもしろいものになるか?」。オリジナリティを追求するハワイアンズのDNAと丹青社のデザイン力の幸福な掛け算(1)
福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズは、常磐ハワイアンセンターとしてのオープンから50年以上もの間、多くの人から愛されてきた日本初のテーマパーク。その最新アトラクション『フィッシュゴーランド』と『BIG☆ALOHA(以下、ビッグアロハ)』の企画、設計、施工を2014年から2017年にかけて担当したのが、さまざまな空間デザインを手がけてきた株式会社丹青社だ。すでにブランド力があるクライアントと丹青社はどのように関わり、ものづくりを行ってきたのか?常磐興産株式会社の村田知博さんと、株式会社丹青社の那須野純一さんにお話をうかがった。
ハワイアンズのDNAを色濃く反映した『フィッシュゴーランド』

日本国内で初めての「流れるアクアリウムプール」。魚たちが泳ぐ中、壁面グラフィックにも海の生き物たちが出現

プロジェクトがはじまったきっかけは2014年。丹青社からのスパリゾートハワイアンズ(以下、ハワイアンズ)への営業アプローチだった。翌年にハワイアンズの50周年企画事業が計画されていたこともあり、提案を一度聞いてみようと話が進んだと言う。

村田知博さん(以下、村田):提案書にあった流水プールのリニューアル案を見て、「これは!」と思いました。実は私たちが2001年に企画したものの、断念した「魚と泳げるプール」と非常に近しいものだったんです。いまの『フィッシュゴーランド』ですね。ウォーターパークゾーンは開園当初からの施設で、基本的に改築や拡張はできません。ですから、内側でいかにインパクトあるリニューアルにするかが鍵だったのですが、丹青社からの提案は一緒にやりたいと思えるものでした。

常磐興産株式会社 事業戦略部門 設備投資戦略室 室長 村田知博さん

実際の提案は、ウォーターパークエリア全体を5つに分け、各アトラクションに新たなアイデアを付加するという、丹青社なりにハワイアンズの強みを解釈し、魅力を高めるものでした。その一つにあった流れるプールの改装案なら、断念したあの企画がプロフェッショナルの力で形にできそうだ。そんな期待感が村田さんたちの背中を押した。

提案イメージ

提案イメージ

村田:私たちの運営企業、常磐興産の前身は常磐炭礦です。もともと常磐ハワイアンセンターは石炭産業の斜陽化で働く場がなくなった人々の雇用先として生まれた施設ですが、その頃から続くDNAが「スクラップアンドビルド」です。非効率になる可能性があるので施設はなるべく拡大しない。古くなったら壊して新しい施設をつくるという考え方ですが、そこも丹青社さんなら同じ目線で提案してくれるだろうと。

デザインディレクションを担当した那須野さんは、ヒアリングや調査を行いつつ、村田さんの言うところのDNAを組み込んで施設案を具体化していった。

那須野純一さん(以下、那須野):流れるプールが美しいハワイの海で泳いでいるように感じられる魅力的な場であること、起承転結のあるストーリー性があることなど、アトラクションの目的や具体的なアイデアをご提案しました。初期は他のアトラクションの案もありましたが、流れるプールに注力することで、より魅力を高めることになりました。初回提案が7月18日なので、オープンの1年前の話ですね。

デザインはいまとほぼ同じです。並行して「日本初」の裏づけを取る調査も進めました。歴史的に確証が持てない「日本初」の表記は扱いが難しいため、プロモーションでどうするかの話し合いも重要だったのです。

株式会社丹青社 デザインセンター コミュニケーションデザイン局 ルーム長 那須野純一さん

村田:日本初。つまりオリジナルであることも、私たちのとても重要なDNAのひとつです。

那須野:「日本一」や「日本初」への思いがすごく強いんです。確かに、お客さまに来ていただく上では最もわかりやすい特徴ですから、いつもオリジナルであることの重要さを意識して進めました。ただ、流れるプールの構造については考えに考えました。中央の島に水槽を置くのに、運用設備用の場所がまったく取れないんです。とはいえ年中室温約30℃、湿度が90%になることもあるという環境で、魚に影響があってはいけない。

村田:プールはプレストレストコンクリート製なので基本的に触れません。その前提の上で、中央の奥行1m弱の水槽や人工海水装置の配置をクリアしてもらう必要がありました。

流水プール竣工図

流水プール竣工図

最終的に、人工海水装置は屋外に設置して引き込み、魚の逃げ場は水槽下につくる設計に落ち着いた。水槽を置く設備も築38年のため、温泉水の硫黄で腐食したメンテナンス用鉄骨階段の整備も並行。それ以前にウォーターパークには重機や機材が入れられないため、施工方法まで含めたプランニングが必須だった。

ムチャぶりが生んだアイデアと周囲への力

那須野:その中でも、実験的に試みた仮囲いは個人的に印象深いものでした。プールを閉鎖する期間を減らすために工事を2期にわけたのですが、工事期間だからこそ楽しめるものにと、仮囲いをイラストとキャッチコピーで飾り、興味喚起したんです。2期目の本工事では別のゲーム性のあるデザインにし、お客さまが完成後にまた来たいと思えるようにしました。

村田:多くのお客さまが訪れる、ゴールデンウィークを丸々含めた工事期間というムチャなスケジュールでしたが、遊びの要素を盛り込んでいただいたおかげで夏への期待感を高めるものになりました。地元や近郊圏の方に楽しく告知でき、結果的にいい夏にしていただきました。

那須野:でも、そんなムチャぶりから生まれたものって本当に多いんです(笑)。私たちも言われた要望にそのまま応えるだけではなく、ビジネスとして成功するようにプロ目線での提案をしていきました。仮囲いもその一つです。ムチャぶりをどう解決しようかと考えた時ほど、いいアイデアが閃くことが多かったです。

仮囲いイメージ

仮囲いイメージ

村田:あの時は、ホテル宿泊のお客さまもいるので工事中も営業したいとお願いしましたね。私たちのこだわりに対し、楽しい広告兼仮囲いをご提案くださった時は本当に感心しました。営業中の工事はお客さまにご迷惑をおかけすることになりますが、そこでも楽しさを提供しなければならない。確かにレジャー施設ならこうあるべきだと、私たちにとっても勉強になりました。

その甲斐あって、『フィッシュゴーランド』はオープン後から大人気アトラクションに。夜は水面に反射した光が海を照らす幻想的な演出で話題となった。

ハコをつくれば人が来る時代は終わり。いかにそこに魂を吹き込むか

日本一のボディスライダー誕生のきっかけも驚くものだった。集客が増えた『フィッシュゴーランド』だが、一方ではSNSを通じて大混雑が周知されてしまうという予想外の状況を招いた。混雑対策を思案していた中で熊本地震などの災害とそれに伴う自粛ムード、北陸新幹線開業なども重なり、2016年夏の売り上げは計画に満たない事態となる。

村田:企画もコンセプトも丁寧につくったアトラクションなのに、外部要因で人が来ないのはかなりのショックでした……。このままではV字回復は無理です。混雑解消も必要なら、いっそ新規ゾーンを開こう!ということで「新ウォーターパーク計画」がはじまったんです。11月になり、役員から次の夏休み前にはオープンしたいとの意向を伝えられました。

那須野:既存ホテル「ウィルポート」のリニューアルなど、進めていた他の企画を全部なぎ倒して降って湧いたのが、「次の夏休み前に日本最長最高落差のスライダーをつくる」計画でした。正直びっくりしましたが、ハワイアンズさんらしいなとも思いました。ただ、単に「最長」なだけでは日本一退屈なスライダーになる恐れもありましたので、チューブ内にストーリーをつくり、着水するまでずっと楽しめるデザインをご提案しました。

起承転結や感情の変化を研究し、3D動画を数十本制作して見え方を検証。チューブ2本計500個の3D曲面のグラフィックパーツを合成して完成させた。柄の間隔が密になれば速く、広がれば遅く見えるデザインの錯視効果で速度や上下を錯覚させる仕組みだ。検証動画から5候補に絞り、最終的に2種が選ばれたが、ハワイアンズ内でも甲乙つけがたいほどだとすべてが高評価だった。

那須野:残念ながら実現しませんでしたが、LEDで時間や体感速度を変える仕組みも研究していました。簡単にこうなるだろうと予測がつくものはだいたいおもしろくない。やってみないとわからないことを突き詰める中からおもしろさは生まれるんです。

結果、『ビッグアロハ』はオープン直後の2017年11月には滑走者11万人を達成。想像を超える利用者数を記録し、ウォーターパークの混雑緩和にも効果を発揮。売上回復の命題をしっかり果たす存在となった。

村田:高い企画力やデザイン力のある那須野さんチームと出会えて本当によかったです。今回のプロジェクトでは、企画が具現化できる楽しさを実感しました。制作担当の岩堀修さん(丹青社 コマーシャルスペース事業部 テクニカルディレクター)もすばらしい発想と技術で斬新な施工方法を提案してくださいましたしね。企画って進行中は苦しいけど、楽しいものです。この業界もただお金を出してハコをつくれば人が来る時代は終わり、いまやそこにいかに命や魂を吹き込むか、どんなコンセプトやストーリーをつくるかが重要です。そのためにも、心強い事業パートナーに恵まれました。

那須野:僕はレジャーランドとしてのハワイアンズさんが好きなこともありますが、一緒にお仕事することがとにかく楽しいんですよね。大変なことは多いですが、打ち合わせは笑いが絶えない。そのほうが絶対にいいものづくりができるはずです。メンバー同士が共感していないと笑いは起きませんし、コミュニケーションができているからこそのことだと思うので。

村田:費用の話の時だけ眉間に皺を寄せますけどね(笑)。

那須野:確かに。でも“愛される人”が多いですよね。皆さん魅力的で柔らかい雰囲気だから、断れない圧もある(笑)。でも、うちにはそんな柔らかい圧にも負けない岩堀のような人間もいます。僕とすらよくぶつかるほどの真面目な制作ですが、彼が背後をガッチリ支えてくれるからデザインで遊べるんですよね。チームは真逆の人間がいることでバランスが取れるのだと思っています。

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