企業の想いを可視化した、働く人・地域の人・訪れる人が行き交う「やまや」新拠点プロジェクト(2)

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企業の想いを可視化した、働く人・地域の人・訪れる人が行き交う「やまや」新拠点プロジェクト(2)

コミュニケーションや自由な働き方を誘発する、一体感のあるオフィスづくり

――これまで接点のなかった本社と各事業所の社員を1フロアに集約するオフィスをつくる上で、どういったことを意識されたのでしょうか。

山本:会社としてはリモートワークを導入して出社義務をなくしているため、出社の有無は部署の判断に任せています。そのため、座席はフリーアドレスで、社員間のコミュニケーションが生まれる空間をつくってほしいとお願いしました。

安藤:設計では、部署や役職の垣根なく、多様な居場所を用意しようと考えました。景色が良い窓際の場所や休憩できる場所、一人で作業に集中できる場所など、その日の気分や仕事の状況によって働く場所を選べるようにしています。

また、1フロアで天井もまっすぐな空間なので、色を切り替えたり、小上がりのスペースを設けて高さを出したりして、メリハリをつけることも意識しました。

やまや×丹青社

色の切り替えにより、メリハリのあるオフィス空間に

立松:一体感を持たせるため、とにかく見通しを良くしたこともポイントです。間仕切りや個室をなくし、植栽や棚などで区切る程度にしています。

山本:個室は、エントランスロビー横に3室だけつくっていただきました。6人掛けの応接室と8人掛けの会議室を2室。以前は、もう少し数も多く、面積も広かったのですが、空いている時間が長かったため、取り合いになる程度を想定してこの規模にしました。社員同士の簡単な打ち合わせは、執務スペースや2階の飲食エリアでもできますからね。

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カフェのようにテーブルが配置されており、1人で作業したり、複数人で打ち合わせをしたりするこが可能

山本:最も時間をかけて設計していただいたのは、オフィスの一角に設けた社内セミナーをおこなえる場所です。執務スペースとのつながりなどを考慮して、形状や席数を決定しました。

安藤:はじめはセミナースペースを2つに分けるとか、エリアを向くようにソファを配置する案もありました。しかし、ソファの背面が見えるとほかの居場所との一体感が損なわれてしまうため、執務スペースを囲むようにソファを配置しました。S字のソファによって裏表をつくることで、もう一方ではひっそりと作業や打ち合わせをすることもできるようにしています。

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S字につくられたセミナースペース

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執務スペースに向けて広がり、つながりを意識してデザイン

――オフィスの稼働から約半年が経ちますが、社員のみなさんの反応はいかがですか?

山本:私自身は、人を見つけやすくなったように感じています。これまで勤務場所が違った人たちと話す機会も増えたんじゃないかな。みんな各々の好きな場所を見つけて仕事している印象を受けていて、窓際のカウンター席は特に人気ですね。社長室もないので、私も社内にいる時はフリーアドレスで働いているのですが、キッチン奥のエリアが気に入っています。

社員からは、フリーアドレスにしてロッカーを備え付けたことで、全体が綺麗に片付いているのが嬉しいという声を聞いています。

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人気の窓際のカウンター。晴れた日には大きく開いた窓から暖かい光が室内に流れ込む

日常使いもできる工場見学施設のつくり方

――2階、3階にある体験型施設のコンテンツはどのように決められたのでしょうか。

立松:まず、動線やゾーニングは、どのようにお客さまをアテンドするか、また将来的に団体客を受け入れる際のオペレーションも想定して決定しました。それを元に、山本社長たちと相談し、コンテンツを考えていきました。

体験の流れや、やまやが辛子明太子だけではなく食文化の発信企業であることを踏まえ、2階には九州の食文化を学べる展示エリアや、同社が掲げる「Made in KYUSHU」を実感できる物販エリア&レストランを。そして、階段を登った3階には、工場を見学しながら思い切り明太子の世界に浸れる展示や映像コンテンツを用意しました。

立松:工場見学エリアには、子どもたちに楽しんでもらえるようデジタル技術を活用した演出やインタラクティブコンテンツを導入しています。単に書かれている文字を読むのではなく、手で触ってパネルをめくったり、デジタルな要素を動かしたり、“楽しい!”という感覚を体で覚えて、その記憶や学びを少しでも多く持ち帰ってほしいと考えました。

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工場見学エリア。インタラクティブなさまざまな仕掛けが盛り込まれている

立松:また、記念に持ち帰れるものをという要望を受けて、「写真をとって辛子明太子になってみよう」という、撮影した自分の写真が辛子明太子になっていく工程を楽しめるインタラクティブフォトスポットも制作しました。そのほか、写真を撮りたくなるグラフィックを随所に散りばめるなど、体験を持ち帰って日常的に思い出せる仕掛けを施しています。

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「写真をとって辛子明太子になってみよう」コーナーでは、周りの人に思い出話をしたくなるような体験をすることができる

山本:オリジナルの明太子をつくることができる漬け込み体験もその一つです。以前から時々イベントでやっていたのですが、今回からは常時実施することにしました。今後は、バッグや文房具などのグッズもつくりたいです。

――設計面ではどういったことに配慮したのでしょうか。

安藤:形や広さは決まっていたため、設備をどうおさめるか、時間帯によって変わる人の流れを踏まえて動線計画をどうするかなどを考えながらレイアウトしていきました。物販エリアに関しては、シーズンによって可変できるよう、更新性も意識して配置しています。

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物販エリアでは、辛子明太子だけではなく、やまやの商品が所せましと販売されている

山本:我々の希望として、順路に沿って進んでいく従来の工場見学施設にはしないでほしいとお伝えしました。地元の方にリピーターになってもらうことも意識していたので、毎回工場見学をしてもらう必要はありません。食事したい人はこちら、学びたい人はこちらというように、自由度がある中で、うまく回遊できるようにしたかったのです。

――通常だと、ルートに沿って工場見学をして、最後にショップなどの付帯施設が組み込まれているという構成ですが、今回はショップとして確立していることも求められたのですね。それでいて、すべてのコンテンツや体験を連続させるには、動線に工夫が必要なように感じます。

安藤:工場見学施設としてしっかりと見ごたえのあるものにしつつ、買い物や食事などで日常使いもできるようにするという意味で、非常に特徴的な計画だったと思います。そのため、二通りの動線を考えました。

工場見学を主目的に訪れるのであれば、入口から左手の展示スペースに進み、階段を登って工場を見学し、その後食事と買い物を楽しむ。日常的に利用するのであれば、入口から右手にある物販エリアでさっと買い物をする。または、少し奥に進んで食事をするというようなイメージです。飲食エリアでは、通常だとお客さまだけの動線を考えるものの、今回は働いている社員が食事にくる動きも想定して総合的に計画しました。

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立松:それぞれが全部ついでではなくて、目的性がきちんとある確立したものだったので、いろいろな利用シーンでの動線がなんとか叶えられています。ありそうでない、オリジナルの体験施設ができあがったと感じています。

――当初意図していた、お客さまや社員とのつながりは生まれているのでしょうか。

山本:一般のお客さまがエレベーターで2階にいく場合、オフィスエントランスからアプローチするのですが、エントランスから入ってこられたお客さまに社員が声をかけたり、案内したりということが日常的に起きているようです。

私もレストランで食事していると、隣に座っているお客さまに声をかけられて、その方が実は小学校の同級生の母親だったり、休日に来ると社員が家族と食事をしていたり(笑)。お客さまとも、社員とも、これまでになかった接点を持てたことを実感しています。

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立松:当初、施設の方向性を検討する際に、やまやの社員の方もターゲットであり、訪れる方と会社とをひとつにする要になるという話をしていました。こうやって、交流が生まれているのは本当に嬉しいですね。

対話を重ねて導き出した場所が、企業のこれからをつくっていく

――お話をうかがってみて、両社の建設的な対話から導き出された解が詰め込まれた施設であることを実感しました。今回のプロジェクトを通じて感じたことを改めて教えていただけますか。

安藤:計画時は約1年間、毎週2回ほど打ち合わせをおこない、昼から夕方遅くまで議論を重ねられたのはとても有意義な時間でした。オフィスや体験型施設のほか、研究施設やジムの設計、エントランスで来客をもてなす映像の制作など、さまざまなジャンルの仕事が詰まったプロジェクトであり、それを完工できたことはとても感慨深いです。この先につながる経験になったと感じています。

立松:いろいろとヒアリングさせていただき、隅から隅まで一緒に考えることができたプロジェクトでした。印象的だったのは、計画当初に山本社長からうかがった「憧れと親しみやすさが共存する施設にしたい」「社員のおもてなしの精神と向上心によってそれを実現したい」という想いです。やまやは2024年に創業50周年ということもあり、これからの未来をつくっていく場所の空間づくりということで責任もありましたが、さまざまな要素が複合した楽しい場所になったように思います。

――50周年ということもありますが、今後この場所を拠点にどんなことを仕掛けていきたいと考えられていますか。

山本:このプロジェクトは、いままでの固定的な概念や先入観を取り払って新しいものをつくりたいという想いでスタートしました。2023年4月にこのオフィスに越してきた時、できあがった空間を見て、感動したことを覚えています。ようやく環境が整った段階です。

これからは、いままで同様、九州の食文化を広めることはもちろん、ほかの人がやらない面白いことをどんどんやっていきたい。また、工場見学と連動しながら篠栗町の地域振興モデルをつくっていくことも目標のひとつです。

丹青社×やまや

取材・文:金子紗希 撮影:嶋井紀博 編集:岩渕真理子(JDN)