オフィスと体験型施設のプランニング・設計から施工にいたるまで一貫して手がけたのは、空間づくりのプロフェッショナル・丹青社。企画段階から携わり、やまやの企業コンセプトを読み解きながら、働く人、地域の人、訪れる人の交流が生まれる拠点をつくり出した。
プロジェクトの経緯と空間づくりのプロセスについて、やまや代表取締役社長の山本正秀さんと、プランニングを担当した丹青社の立松亜子さん、設計をおこなった安藤圭さんに話を聞いた。
機能を集約・効率化し、顧客体験を向上させるプロジェクト
――はじめに、みなさんの経歴や業務内容について教えてください。
山本正秀さん(以下、山本):当社は辛子明太子の製造・販売をはじめ、水産物や一般食品の加工・製造・販売、外食事業などをおこなっています。私が社長に就任した2000年に、「やまや」から「やまやコミュニケーションズ」に社名を変更し、地域やお客さま、社員とのコミュニケーションを大切にしてきました。
立松亜子さん(以下、立松):私は丹青社に入社して以来、商業空間のプランニングを十数年担当しました。現在は、デザインセンター プランニング局に在籍し、主に企業PR施設のプランニングをおこなっています。
安藤圭さん(以下、安藤):私はクリエイティブディレクターとして、商業施設や企業のショールームなどの設計とディレクションを担当しています。
――プロジェクトが発足した経緯について教えてください。
山本:これまで、企業規模が拡大するにしたがって都度工場を増設していたため、機能が分散していることや一部設備の老朽化が課題になっていました。将来的なコスト増を見越して海外の生産拠点も国内に回帰しようと考え、本社と各事業所・工場を集約移転できる場所を探しはじめたのが約10年前のことです。
なかなか条件に合う土地が見つからなかったのですが、5年ほど前にこの場所を紹介してもらい、コスト、立地、規模を総合的に判断して計画地に決定しました。
また、以前から工場見学はおこなっていましたが、新拠点ではより魅力的なものにしたいと丹青社にプランニングやデザインを依頼しました。「明太子、そして九州の食文化を発信する」という私たちの想いに寄り添い、コンセプトづくりから真摯に向き合っていただいたのが印象的でしたね。
もともとの依頼は体験型施設部分のみでしたが、その姿勢や実績を信頼し、オフィスの計画と設計もお願いすることにしました。
訪れた人と社員が混ざり合う空間
――4年におよぶ長期プロジェクトだったようですが、計画はどのように進められたのでしょうか。
立松:1階がオフィス、2階が飲食、物販、展示エリア、そして3階に工場見学エリアを設けるという施設構成は決まっていたため、施設のあり方を一緒に検討し、設計与件を決めることからスタートしました。さまざまなゾーニングを考えてはやり直し、それを繰り返して形に落とし込んでいく作業は大変でしたがとても面白かったです。
山本:プロジェクトの途中に新型コロナウイルス感染症が流行し、今後の出社率をどうするか、お客さまの来場をどれくらい見込めるかなどが不透明だったため、席数を決めるのはだいぶ悩みましたね。最終的に、オフィスは出社率7割で計算し、飲食エリアには家具を配置して客席にすることも想定したテラスを設けています。
立松:飲食エリアはお客さまだけでなく、社員もエリアや時間を分けることなく共用できるようにしたいというご要望がありました。そのため、当社の運営チームを入れて、オペレーションや利用シーンのシミュレーションをおこない、どのような空間が望ましいのか検討を重ねました。
山本:社員食堂は使われない時間が長くてもったいないと感じていたんです。「やまやコミュニケーションズ」という社名のように、多様なコミュニケーションが生まれることを期待して、お客さまも、工場のスタッフも、オフィスに勤務する社員もみんなが混ざり合う空間にしたいと考えました。
――2階の展示エリアには、篠栗町を紹介するマップも設置されていますよね。
山本:今回の計画地であるイルガーサは、篠栗町が開発した産業団地です。進出を決めた時から町長とお話しし、篠栗町自体を活性化することでイルガーサ一帯も盛り上げていきたいと考えていたため、しっかりとエリアをつくって町の魅力や観光スポットを発信しようと思いいたりました。
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