編集部の「そういえば、」2024年1月

編集部の「そういえば、」2024年1月

ニュースのネタを探したり、取材に向けた打ち合わせ、企画会議など、編集部では日々いろいろな話をしていますが、なんてことない雑談やこれといって落としどころのない話というのが案外盛り上がるし、あとあとなにかの役に立ったりするんじゃないかなあと思うんです。

どうしても言いたいわけではなく、特別伝えたいわけでもない。そんな、余談以上コンテンツ未満な読み物としてお届けする、JDN編集部の「そういえば、」。デザインに関係ある話、あんまりない話、ひっくるめてどうぞ。

空間×テクノロジーの祭典「丹青社『超文化祭2023』」

そういえば、昨年末の12月13日。空間づくり事業をおこなう丹青社が開催した、「超文化祭2023」に行ってきました。

「超文化祭2023」は、丹青社のなかでもクロスメディア技術を追求する空間演出専門チーム「CMIセンター」の若手が中心となり、協力企業とともに進めてきた自主実践プロジェクトの研究成果発表イベントです。東京・品川の本社および、同社の研究実証拠点「港南ラボ マークスリー[Mk_3]」にて、2023年12月13日から15日の3日間にわたりおこなわれました。Mk_3といえば2022年に「JDN」25周年トークイベントを配信したスタジオで、ひさびさの訪問です。

ここでは、Mk_3で発表された6つのオリジナルコンテンツのうち、3つをご紹介します。

●リアルタイム生成メディアアート作品『さようなら、こんにちは』

メディア芸術祭受賞作家のGRINDER-MANと協業し、グリーンバックスタジオと映像のリアルタイム生成技術を活かした本作品。スタジオに来場した丹青社員のふるまいを撮影して、即時に元の映像に追加合成し、ループ映像に仕立てています。

リアルタイム生成を活かしたメディアアート作品『さようなら、こんにちは』

Mk_3スタジオで行われた映像収録とリアルタイム合成の様子。舞台装置はトビラ1つ。丹青社社員の「出る」「入る」ふるまいを撮影し、蓄積しながら『丹青社らしさ』が滲み出るのではという仮定に基づいた作品だ

リアルタイム生成を活かしたメディアアート作品『さようなら、こんにちは』

グループ会社の社員ということで、私も撮影していただきました。撮影後はすぐにこれまでの映像に自分の撮影分が合成される、そのスピードの速さに感動。それとともに「自分ってこんな動きをしてるんだ」「隣の方は何をしているんだろう」と、普段と別視点で自他を観察する不思議なひとときでした。

●AR(拡張現実)シューティングゲーム×立体音響『清掃改獣カワシナン』

丹青社CMIセンター ARゲーム カワシナン

『カワシナン』をプレイする様子

丹青社CMIセンター ARゲーム カワシナン

タブレットを持ちながら床に描かれた街のマップ上を歩くと、タブレットに映るのは廃墟群。タブレットをあちこちに向けながらボタンを押し、怪獣として廃墟を破壊しまくるARゲームです。立体音響の力もあり、すっかりバーチャル廃墟街に没入してゲームを楽しみ、ランクSSのハイスコアを叩き出しました。

制作の裏側をうかがったところ、ゲームの構想、体験設計、シナリオ、キャラデザイン、解説映像、立体音響、ゲームアプリ、壁面投影映像の3つを統合するシステム、体験イベントとしてゲームを運用するためのオペレーション側の運営アプリと、大部分を丹青社で内作したとのこと。リアル空間のイメージが強い同社で、これだけのARコンテンツを開発していることに驚きました。

●イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO(ゆーも)』

丹青社CMIセンター イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO』

ヘッドフォンからは聴覚障がい者の聞こえ方をイメージした「ノイズ音」とBGMが大きな音で流れるため、他の声や音が届かない

丹青社CMIセンター イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO』

作品を解説する聴覚障害の社員から指文字を教わる

聴覚障がいの社員中心で企画した没入映像体験作品で、ヘッドフォンを着用しながら、3面モニタで展開する指文字クイズを読み解いていくコンテンツ。他の音や声が届かないなか、一緒にクイズに取り組んでくださった社員の方とジェスチャーや口パクで話し合いながら回答するのですが、これがなかなかの難題。結果は3問中1問正解のみの惨敗で、ゲームを楽しみながら聴こえない日常を知る貴重な体験ができました。

コロナ禍の3年間、丹青社のようにリアル空間に関連する業界は大変な影響を受けたとうかがっています。でもその間に着々と蓄えたICTや演出技術などの知見を、今回のイベントで余すことなく体験できました。困難を超えて手に入れた、リアル×バーチャルテクノロジーのハイブリッド技術が今後、社会にインストールされていくことを思うと、とてもワクワクします!

(猪瀬香織)

新社屋で取り戻す、ベンチャー魂

そういえば、眼鏡ブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズホールディングスの新社屋へうかがいました。

現在、「Second Genesis(第二創業)」を掲げるJINS。ベンチャー魂を取り戻すべく、一棟借りした地上9階建てのビルに新社屋を移転しました。

設計コンセプトは「壊しながら、つくる」。実は、3年後に取り壊しが決定しているビルなのです。設計は建築家の高濱史子さんが担当し、受動的な環境ではなく、使う人がクリエイティブに工夫しながら働くことができるオフィスを目指して設計されています。

従業員のクリエイティビティを高めるために導入された、オフィス空間を一部ご紹介します。

●従業員用サウナ「ARNE SAUNA(アーネ サウナ)」

JINS創業の地である、群馬弁の万能あいづち「あーね」が施設名の由来。「そうなんだ!」「そうだね!」「なるほど!」の意味合いを持ち、理解・共感・納得をつくり出す場として誕生しました。

JINS新オフィス

外気浴スペース

サウナにはグループサウナとソロサウナが設置。グループサウナの外気浴スペースには、コミュニケーションによって発散されるアイデアをすぐにディスカッションできるよう、ホワイトボードが設置されています。

JINS新オフィス

サウナスペース

グループサウナではみんなと意見交換する場、ソロサウナでは自分自身と向き合う場など、使い方によって新たな創造を生み出す場所になることが期待されます。

●アート作品

「美術館とは?」をJINS風に考え、建築を解体して美術館として再構築していくことを考えたとのこと。アート監修を務めた金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子さんは、「オフィスのなかにただアートを並べるのではなく、従業員が美術館をつくる演者のように」とコメントしました。

執務フロアの5階から8階に設けた大きな吹き抜けには、プリズムフィルムが貼られており、外からの光によってさまざまな表情を見せてくれる仕組みになっています。

JINS新オフィス

吹き抜けに貼られたプリズムフィルム

また、5階の吹き抜けの真ん中には、特別に制作されたアート作品「Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ デラリア)」が常設されています。多彩な熱帯植物が空気を浄化し、従業員に新陳代謝を促し、さまざまなインスピレーションを与えてくれます。作品のまわりにはベンチが設置されており、いつの間にか人が集まってくるそうです。

JINS新オフィス

アート作品「Fabbrica dell’Aria®」。イタリア発の空気を浄化するアート作品でアジア初導入となる

3階の各会議室を繋ぐ空間は、ギャラリースペースです。初回展示は美術家・音楽家の立石従寛さん、アーティストの松田将英さん、アーティストの保良雄さんによる「Gravitation」。会議室でおこなわれるビジネスの交渉とアイデア交換の「エネルギーと感性を充填する準備空間」としています。展示作品は年に2回のプログラムで展開予定です。

JINS新オフィス

初回展示の映像インスタレーション作品「Gravitation」。手づくりのLEDモニターに映像が映し出されている

お披露目会にて同社代表取締役CEOの田中仁さんが何度も、「ベンチャー魂」という言葉を使用していました。竣工から1か月、ここからどのようなアイデアが生まれ、世の中にアウトプットされていくのかとても楽しみです。

JINS新オフィス

(岩渕真理子)

※『超文化祭2023』の画像は1枚目を除き丹青社CMIセンター提供