経営にも通用するデザイン職を育てる。MIXIが挑戦するデザイン組織開発(2)

経営にも通用するデザイン職を育てる。MIXIが挑戦するデザイン組織開発(2)

コミュニケーションの活発化を図り、必要なスキルを身に付ける

――次に安井さんがマネジメントを務める「Designer Relations グループ」について、どういったものか教えてください。

安井:2021年に発足して、MIXIのデザイン職のリレーション強化や、デザイン職の活躍を社内外に発信することがおもな目的の組織です。具体的には社内イベントの企画・運営やオウンドメディアでの発信、あとは新卒を対象にした研修など幅広くおこなっています。

――立ち上げのきっかけはなんだったのでしょうか?

横山:当時は抱えているデザイン職の人数ほどコミュニケーションが活発化されておらず、そこに力を入れることが組織の強化になるのではないかと考えて専門のグループをつくりました。デザイン職と個別で話すと「いろいろなデザイン職ともっと交流したい」と言う声が多くあり、その環境を用意する必要があると思ったんです。

――なるほど。そこのマネージャーに安井さんが就任されたわけですね。

安井:はい。僕はもともと事業部の方で「モンスターストライク」のサウンド部隊のマネジメントをしていたのですが、そこの組織が僕なしでも業務を回せるようになってきたんです。そこで次のキャリアを視野に入れたときに、会社に対してより深い貢献をしたいと横山に相談しました。そのときにちょうどDesigner Relations グループが発足するくらいのタイミングだったので、そこでチャレンジしてみましょうということになったんです。

安井さんがサウンド部隊として参加していた「モンスターストライク」

安井さんがサウンド部隊として参加していた「モンスターストライク」

安井:ナレッジがシェアされない状況はもったいないと感じていましたし、それをうまく活用できるようにすることで、これまでよりも大きな手応えで会社に貢献できるかもしれないと考えてました。そこからサウンド部隊のマネジメントを後任に引き継ぎ、2022年から僕がグループのマネージャーになったというのが経緯です。

――デザイン職に長く携わっていた安井さんが、まったく新しいグループのマネジメントとして会社に貢献したいと思われたのはなぜですか?

安井:もちろん、クリエイティブなことを突き詰めたい気持ちもすごくよくわかるんです。ただ、「これ、僕がやらなくてもできるな」とか、僕が手を出さなかったことでかえってよい成果が出た、より質の高い音楽ができたという経験をたくさんしてきたので、だったらその人たちにクリエイター業は任せようと。

MIXI インタビュー画像

安井:また、僕は営業など、デザイン業界とはまったく違う幅広い分野の仕事をしてきたので、少なからずそういう影響もあったのかもしれません。デザイン職1本だったら、このときのような考えにはなっていないかもしれないですね。

横山:デザインの仕事って、例えばスムーズに進めるための関係性をつくったりコンセンサスをとったり、デザインを進めるためにいろいろな要素が絡むと思うのですが、安井はそこのコミュニケーション能力にめちゃくちゃ長けています。

だからこそ部署横断でやるような全社の取り組みにも安井の名前が上がるようになって、その結果安井の強みを活かす形で、現在はブランドデザイン室とDesigner Relations グループのマネジメントを兼務してもらっています。

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横山:今後安井のような人が増えれば、デザイン職がもっといろいろなところで評価されるでしょうし、組織の中心にもなっていけると思うんです。特に事業会社においては、その必要性を感じ取ってステップアップできるかがとても重要ではないでしょうか。

デザイン職としての視野を広げるナレッジシェアイベントと新卒社員研修

――Designer Relations グループではナレッジシェアイベントを開催されているとのことですが、どういった内容ですか?

横山:目的は、デザイン職同士が人や情報に触れて刺激を受けることです。違う事業に携わっているデザイン職の仕事の仕方を知ることで、自分の仕事にも活かせるかもしれません。

例えば、とある業務のワークフローや、デザインのチームビルディングの仕方、ブランディングの裏側、目標達成に向けた業務の進め方など、さまざまな知識をなるべくわかりやすく伝える場にしたいと考えています。

ただ、僕個人としてはデザイン職だけではなく、エンジニアやプランナー、マーケターにも参加してもらい、デザインをもっと幅広く活用したいと思ってもらえることが理想ですね。

――企画される際に意識されていることはありますか?

安井:アンケートで寄せられる声を見ていると、クリエイティブを実現するまでの手法が聞きたい、ツールの使い方が知りたい、そのデザインになった背景が知りたいなどの声が比較的多いんですね。

ただ、そのリクエストに対する直接的な情報発信はあまりしたくなくて、なぜその声を上げてきたのかという背景をきちんとキャッチした上で情報発信することを意識しています。そのときの社内のトレンドにマッチしないことを発信しても意味がないと思っているので。

ナレッジシェアイベント「Designer’s Meeting」。多くのメンバーに参加してもらうためにオンラインにて開催

ナレッジシェアイベント「Designer’s Meeting」。多くのメンバーに参加してもらうためにオンラインにて開催

――JDNもメディアを運営する側なので、とても参考になります。馬塲さんはナレッジシェアイベントに参加されたことはありますか?

馬塲:あります。普段は話せないようなレイヤーの高いデザイン職の方にもラフに質問できますし、その方のクリエイティブの思想にも触れられるので興味深いです。

――新卒社員研修については、安井さんがマネジメントに就任されてから何か変わりましたか?

安井:研修自体は、僕が担当する前年のものを踏襲しています。前年は、専門領域以外の職能について知ってもらうために、グラフィックやCG、Web、サウンド、動画などいろいろなプログラムを用意したのですが、引き続き活かしたかったので今回も実施しました。

あとは弊社のシニアデザイナーに話してもらう機会も設けました。そのほかは、開発本部のエンジニアの方々と合同でものづくり研修をしたのですが、その研修がいちばん大きなアップデートですね。

MIXI 新卒社員研修の様子

ビジネスパーソンとして必要なスキルを⾝に付ける「合同研修」と、各職種に必要な専⾨的知識や技術を学ぶ「職種別研修」を実施。写真はサウンドデザイン研修の様子

横山:Designer Relations グループができる前にも、いわゆるビジネスマナーなどを学ぶ新卒社員研修はありましたが、ものづくりの専門性やデザイン職としてのマインドセットをインストールするものはありませんでした。

あるとき、新卒社員なので伸び代はあるはずなのに、数年経つとデザイン職としてだんだん視野が狭くなって伸び悩むような時期がありました。与えられたタスクはきちんとこなすけど、デザイン職として必要なキャリアが積めていないのではないか……。それは個人のキャリア形成にもよくないですし、組織が停滞する原因にもなります。

デザイン職には、常に新しいものづくりの知見を獲得し、拡張していくサイクルを身に付ける必要があるので、新卒社員研修において、さまざまなスキルや職能を学ぶプログラムを取り入れました。学生時代におそらく学んだことのない分野までプログラムに組み込むことで、脳みそをカオスにさせるのが狙いでした(笑)。

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横山:会社で長く活躍し続けられる人がどんな人かというと、もっているスキルや職能だけでなく、常に新しいことを学び続けている人なんですよね。そういうことも頭の片隅においてほしいという想いがあります。

ほかの職能のことを知っていたら、データのつくり方や受け渡し方、コミュニケーションの仕方まできっと変わってくるはずです。

――馬塲さんは新卒研修を受けられたと思いますが、感想を教えてください。ご自身の中で何か広がったことなどはありましたか?

馬塲:会社に入ると、学生時代には想像もつかなかったくらいたくさんのデザイン職の方と関わることが多くなります。もし新卒研修を通してなかったら、その人たちがどんなツールを使っているかも知りませんでしたし、どういう考え方に基づいてものづくりをしているのかもわからなかったと思うので、新卒研修で一通りの職能に携われたことは、本当に勉強になりましたし、よかったと思っています。

MIXI インタビュー画像

馬塲:特に3Dは、自分の実務ベースにはないのですがとても楽しかったですね。正直できるといえる段階まではほど遠いですが、空いた時間にやってみたいとも思っています。もしかしたら、そうしたきっかけが将来自分のキャリアにつながるかもしれませんし、そんなふうに興味の可能性が広がったのは新卒研修のおかげです。

馬塲さんが担当したライブエンターテイメントショー「DREAMDAZE」の各種ビジュアル

より良いコミュニケーションのあり方を目指して

――デザイン職のパフォーマンスを高めるための御社の取り組み内容が、とてもよくわかりました。最後に、みなさんの今後の展望などをお聞かせください。

馬塲:直近の目標でいうと、UI・UXであればユーザー視点でもっといい体験を突き詰めたいです。グラフィックなら、事業部ごとのサービスの世界観に合ったアウトプットを体現するために、ツールの理解も深めたいですね。

また、入社前からずっと新規事業に携わりたいと思っていました。そのためにいまの自分に必要なスキルはコミュニケーション能力だと思うので、そこをしっかり磨いていきたいと思います。

安井:将来的にはDesigner Relations グループに頼ることなく、デザイン職同士が組織や職能のセクションを超えて、能動的にリレーションしてナレッジを共有していってほしいと思っています。そのためにも、デザイン力の強化につながるようなコミュニケーション文化をつくっていきたいですね。

横山:いま、僕は経営とデザインの現場をつなげる取り組みをしていますが、理想は意図せずともそうなるのが、事業会社のなかにデザイン組織を置く本当の意味だと思っています。そうなれば「デザイン経営」という言葉もなくなるでしょう。

デザイン職もデザインだけに閉じる必要はなく、いろいろな職能を行き来していいと思いますし、そこではじめてエンジニアリングやビジネスの領域の人たちと対等にコミュニケーションできるのではないでしょうか。そうなってこそ、弊社がパーパスに掲げることをより深く突き詰めていけると思うので、少しでも早くそこに近づける状態にもっていきたいですね。

こうしたチャンレンジができる時代に僕たちがデザイン職に関わっているのも何かの巡り合わせなので、引き続き楽しんでデザインしていきたいですね。

■MIXI DESIGN
https://note.com/mixi_design/

制作協力:MIXI 執筆:開洋美 撮影:木澤淳一郎(ウエストゲート) 取材・編集:岩渕真理子(JDN)