デザインの

広義のデザインの力を生かして、地域の未来を共創する“小さな小さな教室”  -XSCHOOL(1)
テーマ

「地域デザインの新たな未来」

  • 株式会社RE:PUBLIC 共同代表/内田友紀
  • UMA / design farm 代表/原田祐馬

新しい潮流を起しているプロジェクトから、「問題解決方法のヒント」や「社会との新しい関係づくり」を探る、「デザインの波」。第5回目のゲストは、企業や複数都市とともにイノベーション&イノベーターを輩出するプログラムを手がけている株式会社RE:PUBLICの共同代表である内田友紀さんと、地域に関わるプロジェクトに数多く携わってきたUMA / design farm代表の原田祐馬さんのおふたり。

聞き手:瀬尾陽(JDN編集部) 取材:佐藤理子(Playce) インタビュー撮影:中川良輔

日本列島のほぼ中央に位置し、海あり山ありの自然豊かな土地、繊維をはじめとする産業、生活環境に対する住民の高い満足度を誇る都市、福井。“革新を続ける伝統のものづくり”が根づくこの地にて、「地元企業」と「デザインと起業の視点をもつ外部の人」が関わりをもち、新しいもの・こと・仕事をつくり出すという実践型の学びの場「XSCHOOL」がスタートした。福井市のもつ資源と、デザインの力を生かして新たな未来の共創を目指すこのプロジェクトについて、核となる2名にお話をうかがった。

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地域を超えた関係性をつくること
「中規模都市のデザイン」の新しいモデルケースを福井から

内田友紀さん(以下、内田):XSCHOOLの背景にある “未来につなぐ ふくい魅える化プロジェクト”の大きな目的は「地域を超えた新たな人の流れと仕事をつくる」 ということです。これは福井に限らず、同規模の街に共通する関心ごとだと思います。構想段階から、大切にしていることが2つありました。ひとつは、地域を超えた「関係性」をつくり、内の視点/外の視点をしっかり交わらせること。もうひとつは、この土地に暮らす人たちが、地域の価値に気づき、シビックプライドのような誇りをもつことです。

内田友紀さん(株式会社RE:PUBLIC 共同代表)

内田友紀さん(株式会社RE:PUBLIC 共同代表)

XSCHOOLという場で、この2つの状況をいかに生み出すことができるのか、プロジェクトチームで何度も議論を重ねてきました。ただ「新たな人の流れと仕事をつくる」と言っても、単に仕事の機会をつくったり、「この地域面白いよ!」とプロモーションするだけじゃ絶対にダメだと思っていたんです。

原田祐馬さん(以下、原田):そうですね。僕たちもさまざまな地域での取り組みに関わってきた経験から、この2つの視点は欠かせないと考えていました。そこで今回は、デザインをより広義に捉え、密度の高いコミュニケーションが実現できる“小さな小さな教室”というゼミ形式のプログラムを構築したんです。

原田祐馬さん(UMA / design farm 代表)

原田祐馬さん(UMA / design farm 代表)

内田:受講を希望する参加者は、Webやイベントを通じて公募したのですが、見事に属性がバラバラで。「もっと広い意味でデザインを考え、実践したいけれど、日常の仕事では実現できない」と悩むデザイナーや建築家、「違う職能の人と切磋琢磨して、新しい視野を得たい」と考える金融機関に勤める会社員、「都市以外での生き方や働き方を考えたい」「いずれは地元・福井で仕事がしたい」と考えるNPO主宰者や事業家など、それぞれのバックボーンはもちろん、参加動機や問題意識も異なる人たちが集まりました。

原田:チームで協働するプログラムを考えていたので、できるだけ幅広い分野から参加者が集まるといいなと話していたのですが、見事に混じり合いましたね。プロダクトやグラフィック、ファッションなどデザイナーの領域も多岐にわたり、建築家、メディアの編集者、フリーの保育士さんもいたり……。でも、それぞれの動機を見ていると、いまの時代にとってすごく象徴的だなと感じます。「そういうことなんだろうな、みんなが求めている問題意識って」と考えさせられました。

内田:そうですね。だからこそ、XSCHOOLでは、福井を舞台に、それぞれの参加者がそれぞれの問題意識に挑戦する場を準備して、そこからさらに実践できる場をつくろうと考えたんですね。

社会全体をデザインというフィルターを通して
「学びなおすこと」に挑戦する

原田:僕は最近、都市型の社会がすごく複雑に、そして早くなりすぎていると感じることが多くて。そんな社会との付き合い方がわからなくなってきている。だから、いままで「良い」と思っていた生活構造とは、異なる方向へ転換したいと、みんな感じているのではないかと思うんです。地域での仕事、自分の地元でもう一度仕事をすることに興味をもつ人が多いのも、そういった背景があるからではないかなと。

急激に前に転がり続けている社会から、「こぼれてしまったもの」がたくさんあって、僕たちには、その「こぼれてしまったもの」が不足してしている。そのこと自体を、学びなおすことが大切なんじゃないんでしょうか。専門性を超えて、全体を俯瞰して、統合できるトータルな視点・技術を、いま多くの人が必要と感じているんだと思います。XSCHOOLは、社会全体を統合的な「デザイン」というフィルターを通して、「学びなおすこと」が実験できる場になればと考えています。

僕自身の実体験として、学びの場、学校の存在ってすごく重要だなと思っていて。社会に出ると、思いっきりフルスイングして空振りするような失敗ができる場って、実はなかなかないんですよね。なので、何か新しいことを起こすのであれば、“小さな小さな教室”からはじめるのがいいかな、と。

内田:4ヶ月間にわたって、関東・関西、そして県内から集まったXSCHOOLの参加者たちは、それぞれの住んでいる場所の距離を超えて関係性を育てながら、ともに学んでいきます。

24名の参加者と個性豊かな講師たち

24名の参加者と個性豊かな講師たち

11月以降、月に1〜2回の頻度で福井市に集まりワークショップを重ねている

11月以降、月に1〜2回の頻度で福井市に集まりワークショップを重ねている

内田:すでに数回ワークショップを行っていますが、まるで、まだ遊び足りない生徒たちが残る放課後の教室のように好奇心と熱意に溢れています。

原田:そうですね。毎回悩みながらも、夢中になって楽しそうに学んでいる様子が印象的ですね。

XSCHOOLの風景。まるで放課後の教室のよう

XSCHOOLの風景。まるで放課後の教室のよう

内田:これまでに原田さんが手がけてきた地域プロジェクトを見ていると、いろんな人の「こんなことがやりたい!」「こんなことが好き!」というモチベーションを編み上げているんだなぁって思うんですよね。その結果、地域を超えた関係性を紡いでいらっしゃっている。私もまさにそういうことが重要だと思っているんですよね。

原田:いつも僕が大事にしているのは、自分ひとりで考えないようにすること。できるだけ、色々な人とフラットな関係で対話して、そこから状況をつくっていくことが必要だと考えているんです。

内田:事業も同じで、ひとりではつくれない。個人の限界を乗り越えていくときには、しっかりと信念をもち、自分と異なる職能の人や、実現する力のある企業と、いかに「関係性」をつくっていくかというのがとても大事だと思っています。それは地域も同じ。街がどんな人たちと関係性をつくっていくか?その関係性が結果として、個人にも、地域にも社会にも広がる変化をもたらします。

特に大都市のように、さまざまな機会によって人が集まる場所ではなく、小さな街のように少人数のインパクトが街を動かす場所でもない。福井のような中規模の都市にとっては、とても重要なことだと感じています。

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