デザインの

周回遅れでトップを走る福井が抱くポテンシャル-XSCHOOL(2)
テーマ

「地域デザインの新たな未来」

  • 株式会社RE:PUBLIC 共同代表/内田友紀
  • UMA / design farm 代表/原田祐馬

新しい潮流を起しているプロジェクトから、「問題解決方法のヒント」や「社会との新しい関係づくり」を探る、「デザインの波」。第5回目のゲストは、企業や複数都市とともにイノベーション&イノベーターを輩出するプログラムを手がけている株式会社RE:PUBLICの共同代表である内田友紀さんと、地域に関わるプロジェクトに数多く携わってきたUMA / design farm代表の原田祐馬さんのおふたり。

聞き手:瀬尾陽(JDN編集部) 取材:佐藤理子(Playce) インタビュー撮影:中川良輔

周回遅れでトップを走る
福井が抱くポテンシャル

内田:実は今回は、個人的にもかなり思い入れがあるプロジェクトなんです。私は福井出身で、高校を卒業する18歳の頃まで、ずっと福井市民だったんです。でも、当時は福井を離れることばかり考えていて……東京の大学へ進学しました。

大学卒業後にイタリアやチリ、ブラジルなど、世界各国の地域プロジェクトに関わったことで、少しずつ意識が変わっていきました。どの土地でも、さまざまな才能を持つ面白い人たちが、地域資源を生かしながら、とても楽しそうに自分たちの試みに取り組んでいる様子を目の当たりにしたんです。それがさらに人を呼んで、街の魅力に繋がっていました。そこで「自分の生まれ育った福井の可能性に、なぜ気づかなかったんだろう……」と自分の視野の狭さに気づいて、足元に目を向けるようになりました。

その後、2013年に福井で生きる人たちにフォーカスしたガイドブック『福井人――福井県嶺北地方 人々に出会う旅』(英治出版)を仲間たちと共同で出版したことで、福井の方々とのご縁が深まり、そんなつながりが今回のプロジェクト運営のきっかけになりました。

城下町の歴史を伝える名物案内人、焼き鳥のエキスパート、カニと和食を知り尽くした美人女将など、福井のまちに生きる人たち100人以上を紹介した『福井人――福井県嶺北地方 人々に出会う旅』(英治出版)

城下町の歴史を伝える名物案内人、焼き鳥のエキスパート、カニと和食を知り尽くした美人女将など、福井のまちに生きる人たち100人以上を紹介した『福井人――福井県嶺北地方 人々に出会う旅』(英治出版)

このプロジェクトには私たちだけでなく、外の視点を持ちながらも地域に潜り込んで、一緒に楽しくプロジェクトを進めていける仲間を探したいと思いました。地域の風土や文化を丁寧に読み解き、中と外を編みながら、クリエイティブの力で共に文化を創ってゆく人。一体どんな方だろう……?と考えた末、お声がけしたのが原田さんでした。

原田:内田さんからお話を伺い、クリエイティブのディレクションももちろん重要だけど、さらにプロジェクト全体を編集する視点も必要だと思い、編集者の多田智美さん(MUESUM)にも声をかけ、引き受けさせてもらうことにしました。それまで僕たちは福井市との接点はありませんでしたが、内田さんが仲間たちと一緒に「FUKUI INSPIRATIONAL TOUR」と題して、福井の魅力を体感して巡るツアーを企画してくれたんです。福井市内外をまわらせてもらったのですが、繊維産業、漆器や和紙の工房などものづくりの現場も多く、海があり、山があり、人々の暮らしがあって、環境は抜群だというのが第一印象でした。

内田:とにかく、まずは福井に来て、感じてもらうことが大切だと考えたんです。インスピレーションを与えてもらえる場所を仲間たちと選定するなかで、私自身も改めて福井と出会い、見つめる機会にもなりました。市の中心部には新しい感覚をもったデザイナーたちがいて、山奥には薬草が採れる森林があって、コミューンのような生活をしている方も生粋の職人たちもいます。良いものづくりをしている企業や、お米農家さんのもとにも訪れましたね。

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内田さんがXSCHOOLをつくり上げるために企画し、運営チームが参加した「FUKUI INSPIRATIONAL TOUR」

内田さんがXSCHOOLをつくり上げるために企画し、運営チームが参加した「FUKUI INSPIRATIONAL TOUR」

原田:さまざまな場所を巡り、たくさんの方のお話を伺うなかで、「点」でいろんなことが起きはじめているなと感じました。内田さんからも、行政の方が「福井は一時代前は周回遅れだったかもしれないが、時代が変化し、気づけば日本のトップを走っている」 というお話をされているのだと聞き、納得しましたね。この「福井」という土壌で育つデザインが、これから変化し続ける社会に影響を与えるものになる、かもしれないなと感じています。

伝統と革新が同居するものづくりの老舗が参画

内田:今回のXSCHOOLでは、カレンダーシェア日本一を誇る株式会社にしばた、駅弁をつくっていらっしゃる株式会社番匠本店、警察・消防紋章のシェア日本一の株式会社廣部硬器、と福井市内を拠点にしている分野の異なる3つの企業に、パートナー企業として参画いただいています。3社の経営者さんたちは、自分たちのやってきたものづくりや、これまでの歴史に誇りをもちつつも、いまのままでは時代の変化に対応しきれないという問題意識を強くもっていらっしゃいます。

原田:パートナー企業3社を決定するにあたって、受講する参加者の視点に広がりを生むことを目的に、「時間」という共通のテーマから、それぞれキーワードを設定しました。創業140年を迎えるにしばたが手がけるカレンダーは、まさに「時間」とは切っても切れない関係です。また、本来の役割を踏まえると「暦をつくる=時間をコントロールする」という解釈ができます。カレンダーは「暮らしを可視化するもの」と捉えて考えてみると面白いなと思いました。

創業140年を迎える業界トップシェアのカレンダー会社「株式会社にしばた」

創業140年を迎える業界トップシェアのカレンダー会社「株式会社にしばた」

番匠本店も100年以上の歴史を持つ老舗企業です。駅弁は、一般的な家庭のお弁当と異なり、旅の道中で食べるものなので、「いつ」「どこで」食べるのかという時間軸も含まれてきて、「移動」とも密接な関係がありますよね。旅の「思い出」も、時間を振り返るからこそ生まれます。

100年以上の歴史を持つ駅弁の老舗企業「株式会社番匠本店」

100年以上の歴史を持つ駅弁の老舗企業「株式会社番匠本店」

廣部硬器は、創業60年で家族を中心に経営されておられる企業で、セラミックスの特性と純金焼成技術により半永久的な製品を手がけています。

全国の警察・消防署紋章の日本トップシェアを誇る「株式会社廣部硬器」

全国の警察・消防署紋章の日本トップシェアを誇る「株式会社廣部硬器」

「時間」というキテーマを掲げることで、持続可能な素材を扱う企業が、これから未来をいかに考えていくべきなのかという思考にもつながっていくはずです。

内田:そうですね。各社との対話を続けるなかで、土地が積み重ねてきた「時間」も、会社の風土や事業に反映されていることも実感しています。そういったことも踏まえて、どういう事業やデザインを提案していけるかを考えていこうと話しています。

XSCHOOLでは、最初のプログラムで3社の工場や生産工程を見学させていただいたり、各事業の歴史や課題・未来展望についてうかがうことなどを通して、福井という地域や人が育んできた仕事に深く触れる機会をつくりました。それらを含めたさまざまなリサーチを経て参加者がプロジェクトを立ち上げていくなかで、アイデアをカタチにする製造過程での課題をお聞きしたり、試作を一緒に検討したりなど、とても重要な役割を担っていただいています。けれど、中小企業が外部の人たちとの新たなコラボレーションに時間や人材を割くことって、どこの地域でもなかなか難しいと思うんですね。パートナー企業が手がけられている商材はもちろん、経営者の意欲や会社の雰囲気、働き方なども受け止めながら、伴走していきたいと考えています。

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パートナー企業へのフィールドリサーチ。各企業の歴史・課題などさまざまなリサーチを経てプロジェクトを立ち上げていく

パートナー企業へのフィールドリサーチ。各企業の歴史・課題などさまざまなリサーチを経てプロジェクトを立ち上げていく

内田:これまで弊社でも企業のイノベーション研究や、社会問題を解決する事業家育成に関わってきましたが、常々思うのは、ひとつの組織、ひとつの文化のなかだけでは、なかなか変化は起き続けないということ。イノベーションを続けていくためには、常に異なるものが出会って化学反応が起きるような環境を整えることが大切です。その点も意識しながら、プロジェクトを進めていきたいなと思っています。

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