久留米絣(くるめがすり)の最大の魅力は、製織の際に生じる繊細なヨコ糸のズレが生み出す美しさにあります。本コレクションでは、その糸の“ズレ”がもたらす偶然性と、視覚的な“錯視効果”の共通性に着目し、テキスタイルデザインへと昇華しました。これらの作品は、実際に福岡県八女市の下川織物に滞在し、製造工程を学びながら制作したものです。
2024年にはミラノサローネでも展示をおこない、伝統的な技法と現代的な視点が融合した新たな久留米絣の可能性を提示しました。下記は、協業を通し生まれたデザインです。
このプロジェクトを通して、生まれた布をバッグやクッションといった日用品に仕立てることで、アートとしての絣を日常生活へと取り入れる提案を続けています。光井花と下川織物とのコラボレーションは現在も継続中で、久留米絣の新たな魅力を引き出す取り組みは、日々発展を続けています。
下記1~5は、コラボレーションで生まれた絣織のデザインです。
1. Blur Checker
色版のズレによってCMYが視認される印刷現象をヒントに、タテ糸にC・M・Yの色彩、ヨコ糸にピッチの異なる市松模様を用いることで、ぶれて見えるような錯視効果を生み出しました。絣のズレと視覚の揺らぎを重ね合わせた実験的なテキスタイルです。
2. Colorful Moiré
タテ糸にストライプ、ヨコ糸に曲線模様を施し、織りの構造そのものによってモアレ効果を表現。重なりやズレが複雑に反応し合い、偶然の美が浮かび上がるテキスタイルです。
3. Rainbow Ikat
久留米絣の産地に眠る余剰在庫の糸を活用することで生まれた、サステナブルな取り組みです。使用できる糸の色は在庫状況に左右されるため、制作時の気候や季節にも影響を受け、まさにその時にしか生まれない“虹”のような布が織り上がります。色とりどりの糸をランダムに用いたこのテキスタイルは、一点一点が唯一無二であり、織物が持つ儚さや偶然性をそのままデザインに活かしたシリーズです。
4. Botanical Shadow
絣のズレによる“ブレ”の美しさに着目し、植物柄を用いたシリーズ。部分的に意図的なブレを加え、ヨコ絣特有の揺らぎを生かすことで、まるで影のような曖昧で繊細な表情をもつ植物模様が誕生しました。久留米絣だからこそ可能な、柔らかく滲むような柄表現に挑戦しています。
5. Blur Dots
絣の技法を応用し、滲んだような水玉模様を表現した作品。ぼやけた境界線や曖昧な形が、布の中に流れるように広がり、視覚的にも触覚的にも新鮮な印象をもたらします。