第311回 光井花 (テキスタイルデザイナー)

[高橋美礼の推薦文]

布というのはいかに歴史や文化を雄弁に伝えるものかということを、光井花さんのデザインにふれるたびに思い起こす。

久留米絣の特性を効果的に際立たせる柄や、レースの編み地と染め分けの手法の見事な組み合わせ、絵画のようなイグサ織り。伝統的な織物技法であれ、新規性の高い技術であれ、テキスタイルの可能性を次々と広げてみせる活動の軸は、確実なリサーチや実験的なプロセスによって築かれてきたに違いない。

そして同時に、さまざまな産地で独自に受け継がれてきた布や染織への深い理解が、豊かな表現に結実している。

プロジェクトとしての取り組みに終わらず、製品化してなお魅力ある形に完成されているところにも、個性ある力量を見出さずにはいられないのだ。

高橋美礼(デザインジャーナリスト)

ミラノ・ドムスアカデミーにてマスターデザインコース修了後、フリーランスとして多領域のデザインにかかわりながら国内外のデザインを考察し、書籍や雑誌、ウェブ媒体での執筆、編集をおこなう。多摩美術大学芸術学科非常勤講師、法政大学デザイン工学部兼任講師。

https://www.instagram.com/mireissue/

編集部からの推薦文
はじめて光井さんに会ったのは、今年2月、ドイツ・フランクフルトで開催された国際見本市の会場だった。若手デザイナーの出展ブースの一角で、錯視効果を用いた久留米絣シリーズや、言葉が通じなくとも「モナリザ」のモチーフで伝わるい草のラグを展示していた。

なかでも錯覚の久留米絣シリーズは柄がどういう構造になっているのか、思わず近付いて見る方が多いように感じた。

英語では“visual illusion”と訳される「錯視」。本来ネガティブとされるズレやブレをあえて取り込み、昇華させたデザインには、まさに魔法のような味わいがある。今後も伝統技法やさまざまな素材を光井さんなりに取り込み、新しい形でアウトプットされることが楽しみだ。
光井花(テキスタイルデザイナー)

光井花(テキスタイルデザイナー)

2014年、英国Royal College of Art大学院修士課程修了。帰国後、株式会社イッセイミヤケにて約7年間テキスタイルデザインに従事。独立後はミラノサローネやDESIGNTIDE TOKYOなど国内外で作品を発表し、2024年Young Designer Award、2025年A’ Design Awardでテキスタイル部門ブロンズ賞を受賞。建築空間やファッション分野へのデザイン提供など、テキスタイルを軸に多領域で表現を展開している。現在は多摩美術大学・東京造形大学の非常勤講師も務める。

https://hanatextiledesign.com/