KUKURI ITO

2023

括り糸(くくりいと)は、久留米絣の製造工程で防染に使われる糸で、染色の際に染まりきらず、不均一なムラが生まれるのが特徴です。本来は廃棄されることの多いこの括り糸を、産地で再利用する試みの一環として、その美しいムラ感を活かしたテキスタイルの開発に取り組みました。

■FADED STRIPES-織-
括り糸を経糸に使用し、ヨコ糸には括り糸とウール糸を組み合わせることで、ボーダー柄を表現しました。括り糸の色ムラによって、ボーダー柄がはっきりと現れる部分と、ベースに自然に溶け込んで曖昧になる部分が、織りの中にランダムに現れます。反復性のないその表情は、計算では生まれない偶然の美しさを持ち、視覚的にも触覚的にも豊かな表現となりました。ウール糸を使用しているため、温かみとやわらかさのある風合いも特徴です。

■FADED GRID-刺繍-
このテキスタイルは、括り糸の不均一な色合いを活かして刺繍によって表現されたグリッド模様です。ブラックのリネン生地をベースに、ランダムに色が移り変わる括り糸でグリッドを描いたことで、模様が背景になじみ、ところどころで消えていくようなフェード感のある仕上がりとなりました。反復性がなく、ひとつひとつ異なる表情を見せるこの布は、括り糸という未利用資源の価値を引き出した、1点もののような希少性を持つテキスタイルです。

光井花(テキスタイルデザイナー)

光井花(テキスタイルデザイナー)

2014年、英国Royal College of Art大学院修士課程修了。帰国後、株式会社イッセイミヤケにて約7年間テキスタイルデザインに従事。独立後はミラノサローネやDESIGNTIDE TOKYOなど国内外で作品を発表し、2024年Young Designer Award、2025年A’ Design Awardでテキスタイル部門ブロンズ賞を受賞。建築空間やファッション分野へのデザイン提供など、テキスタイルを軸に多領域で表現を展開している。現在は多摩美術大学・東京造形大学の非常勤講師も務める。

https://hanatextiledesign.com/

2025/8/13 10:15