豊島八百万ラボ

古民家、ラボ、展示空間、神社の要素を併存・拮抗させた建築

デザインコンセプト
担当:成瀬・猪熊建築設計事務所

この建築は、「瀬戸内国際芸術祭2016」に合わせ、ベネッセアートサイト直島の新しい施設として古民家を改修してつくられた、アーティスト・スプツニ子!構想の恒久展示空間である。

コンセプトは、“アートと科学によって新たな神話を生み出していくこと”。ラボでありながら、神社の御分霊も受けた施設だ。同じ豊島にある、豊島美術館や豊島横尾館と異なり、作品が3年ごとに入れ替わる可能性があることから、島の風土やスプツニ子!の個性を受け止めながら、同時にフレキシブルな空間が求められた。

そこで私たちは、大断面の鉄骨梁によって空間に落ちる木の柱をすべて中空で支え、日本の伝統木造工法による小屋組を残したまま、無柱の空間を出現させた。鉄骨の梁は、ラボの名にも相応しいよう、あえてそのまま露出させることで迫力ある小屋組に負けない存在感を放っている。

鉄骨構造を利用し、ファサードは大きく奥へとセットバックさせ、貫通した通路の先に巨大な絵馬掛を設置した。また、アプローチには鳥居を配して、豊玉姫神社を祭る山への軸線を強調。絵馬掛けや鳥居といった神社の典型的な構成要素に対して、サインはネオンを用いて対比させた。

私たちがここで試みたのは、さまざまな与条件から登場する要素を整理したり減らしたりせず、併存させ、拮抗させることだ。風景に溶け込む普通の古民家であり、科学を象徴するラボであり、作品を設置する展示空間であり、神話と接続する神社的なものであることをポジティブに捉え、たくさんの意味や佇まいの重ね合わせをおこなった。これは、スプツニ子!の作品が持つ多義性にも共鳴する。

所在地 香川県小豆郡土庄町豊島甲生908
施設構想 スプツニ子!
設計 成瀬友梨、猪熊純、岡祐亮、長谷川駿/成瀬・猪熊建築設計事務所
建築協力 古市淑乃/古市淑乃建築設計事務所
敷地面積 317.60m2
建築面積 82.45m2
延床面積 64.05m2
構造 木造一部鉄骨造
開業日 2016年7月18日
撮影 1枚目:表恒匡、2~8枚目:長谷川健太