喫茶 ちそう

レトロな喫茶文化と公園のような心地よさが共存するカフェ

広々とした空間に、どこかノスタルジックな雰囲気と自然のぬくもりを感じるカフェ「喫茶 ちそう」。本の街、喫茶店の街として知られる東京・神保町の三省堂書店本店3階にあります。店名は、「馳走」「知創」「地層」に由来し、神保町に積み重ねられてきた歴史や文化を表現しているそうです。

設計を手がけたのは、UDS株式会社COMPATH事業部。本記事では、空間のデザインコンセプトや設計の特徴について伺いました。

■背景

喫茶 ちそうは、2026年3月に千代田区神田神保町1丁目にリニューアルオープンした「三省堂書店神田神保町本店」3階に新設されたカフェです。同店は神保町の中枢を担う靖国通りと、歴史と文化を発信し続ける神田すずらん通りに挟まれた、ビジネスパーソンから学生、地域住民、そして本を愛する来街者まで、幅広い年代層が日常的に入り交じる場所に立地しています。

神保町の歴史・文化・景観のポテンシャルと、新神田神保町本店の空間デザインコンセプトである「知のハイキング(=欲しい本が見つかる網羅性を担保しつつ、偶然性に溢れた歩きまわりたくなる書店)」を掛け合わせた、これからの時代にふさわしい新しいコミュニケーションと憩いを生み出すインテリアデザインが求められました。

■コンセプト

インテリアデザインのコンセプトは「NEO新喫茶 Park」。神保町というまちが育み、人々に愛されてきた喫茶店の文化的要素をベースに、都心の公園で感じるような安らぎと現代的な洗練さの掛け合わせです。本を片手にゆったりと過ごせ、どこか懐かしさを覚えながらも、現代のライフスタイルに寄り添う心地よさもある、ハイブリッドな空間づくりを目指しました。

カラー・マテリアル計画では、まちの風情や自然、ノスタルジーを感じさせる色味と、安らぎを与える自然木や石、砂色、シルクベージュ、温かみのあるグリーンなどを組み合わせて家具や調度品が自然と共存するような、温もりのある空間をデザインしました。

多彩な居場所を用意することで、訪れる人が思い思いの時間を過ごし、足を運ぶたびにお気に入りの席を見つけたくなるような、深い愛着が育つ新しいサードプレイスとしてのカフェ空間を目指しました。

■課題となった点、手法、特徴

本計画では、幅広い客層に対応しながらも書店の特性である「偶然本に出会う楽しさ」や「読書に没頭できる環境」を担保することや、カフェとしての回転率や多様な利用ニーズ(1人利用から複数人グループ、イベント利用まで)をいかに1つの空間内で共存させるかということが大きな課題となりました。

これに対して、利用時間と利用人数に応じた綿密なシーティングアナリシス(席タイプ分析)を行い、多様な居心地を選択できるレイアウト手法を展開しています。具体的には、短時間かつ1〜2名で利用しやすい「パークゾーン(カウンター席)」から、喫茶店のノスタルジックな雰囲気を感じながら読書に浸れる「喫茶BOX席」、店舗奥に配置され1〜3名でゆったり過ごせる「リビングゾーン(ソファ席)」までを、シームレスなグラデーションで配置しました。

さらに、アイコニックな円卓やベンチを設けることで、対面する他者と程よい距離感を保てる工夫を施しています。また、可変性の高い家具を中心としたフレキシブルゾーンを設けることで、人数に合わせた柔軟なレイアウトの変更や、将来的なイベント対応も可能な計画としています。

マテリアルには、光を受けて表情がうつろうカーテンをアーティストにオリジナルで制作いただいた他、天然木をそのまま利活用したシンボリックな古木家具、神保町のレトロな風情を醸し出す特注ファブリックを採用し、機能性と情緒的な美しさを両立させました。

■その他

フロア全体の「本棚を放射状に広げる」という既存のゾーニング計画に対し、カフェエリアは非常に特徴的な円弧を描いた形状となっています。本棚の合間からカフェの様々な風景が美しく切り取られて見えるようにすることで、ゲストを奥へと心地よく導く長手方向のラインを意識した空間レイアウトが実現しました。

また、設計の中で大きな課題となったのは、スラブラインまでの懐がわずか3mmしか残されていなかった点です。この極めてタイトな寸法制限に対して、天然木の突板と塩ビシートの下地を貼り合わせた薄型のハイブリッド建材を活用し、極限まで厚みを抑えながら、本物の木が持つ豊かな質感とぬくもりを妥協なく表現しました。

所在地 東京都千代田区神保町1-1-1 三省堂書店3F
企画・設計 UDS株式会社
施工 株式会社 ヨシダインテリア
延床面積 162.25m2
竣工日(開業日) 2026年3月19日
写真提供 UDS株式会社